昨年の『M-1グランプリ』準優勝からはや3か月。爆発的に知名度を上げ、漫才師として躍進した傍ら、彼らは「しんどい1年が始まった」と肩を落とす。2位じゃ満足できない、漫才に貪欲な男たちが目指す頂点とは──?
※こちらのインタビューはDIME5月号(3月16日発売)に掲載されたものです。
左:楢原真樹(ならはら・まさき)
右:出井隼之介(でい・じゅんのすけ)
2011年にコンビを結成。2度の改名を経て、現在のヤーレンズとなる。昨年『M-1グランプリ2023』で準優勝、2024年2月にビートたけし杯『お笑い日本一』にて優勝を果たす。
「僕らはスベったことがない」2人が秘める打算と自信
Wメガネの実力派お笑いコンビ・ヤーレンズ。『M-1グランプリ2023』決勝戦でその名を知った人も多いはずだ。大阪吉本出身の彼らは2014年に上京。自分たちの笑いを追求するため事務所を移籍し、ひたすら漫才に打ち込んできた。
「お互いを相方に選んだ理由は、ぶっちゃけ打算です。どっちも漫才が下手だったので、技量がバレないようにゆるい雰囲気の漫才で目立とうという戦略。それが何百回とライブに出るうちに周囲から『おまえら、漫才うまいな』って言われるようになりました」(出井)
「実は、僕ら一度もスベったことがないんです。正直、去年のM-1ファイナリストの中でも漫才に関しては一番うまいコンビだと思ってます」(楢原)
勝気で自信家、そして打算的。ゆるい漫才のイメージとは裏腹に、挑戦的な言葉の数々があふれ出す。
「ネタと漫才って違うんですよ。笑いを取るために仕込むのがネタ。どうしようもないことでもとっさに笑いにするのが漫才。うまいネタを作ることに長けている人はたくさんいるけど、漫才がうまい人ってなかなかいない」(出井)
「何も用意せず舞台に立って、うまいことバチンとハマって笑いを取るのが理想の漫才。そういう意味では、僕らの漫才のうまさはダントツです」(楢原)
この自信はいったいどこからくるのか。聞けば、そこにあったのは経験と努力の積み重ねでしかなかった。
「お客さんが0人だったり、終わったあとめちゃくちゃけんかしたり、朝までファミレスにこもってネタを考えたり……。それらの積み重ねが、ぜんぶ今の自信につながっているんです」(出井)
そんな2人が解散の危機を迎えたことは数え切れないほどある。それでも続けてこられたのは、お互いに〝漫才最優先の割り切り〟があったからだ。
「相方に腹が立っても、それをどう笑いに変えるかをいつも考えています。それが漫才師としての正しい消化の仕方だと思うから。互いの違いを理解し合って、何も押しつけない。かといって別に我慢もせず。コンビは夫婦みたいなもんですね」(出井)
さらに、スベったことがないという最高の漫才街道は、良い意味で往生際の悪さを生んだ。
「タイムマシーン3号さんが『ずっとウケてる奴らって辞め時がないよな』と言っていて。まさに僕らもそうでした。そこそこな日があったとしても、翌日には同じネタで爆笑が起こる。『あ、だったら漫才を続けるのも悪くないな』って日々の繰り返しです」(楢原)