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有給休暇は、労働者に当然与えられた権利だ。基本的に、有給休暇は労働者が心身をリフレッシュするために行使する権利である以上、勤務先による有給休暇の買い取りは認められていない。
原則として有給休暇の買い取りは違法で、従業員からの申し出であっても有給休暇の買い取りは認められていない。しかし、例外的に労働者の不利益にならないケースにおいては、買い取りが認められている。
こちらの記事では、有給買取に関する基本的なルールや、買い取る際の計算方法について解説する。
有給買取は原則「違法」
有給買取とは、労働者が有している有給休暇を事業主が買い取ることだ。例えば、1日当たりの賃金が10,000円の労働者がいる場合、1日有給休暇を減らす代わりに10,000円を支給するイメージだ。
原則として、事業主に有給の買い取りは認められていない。有給休暇は「労働者が心身の疲労を回復し、明日への活力と創造力を養い、ゆとりある勤労者生活を実現するための制度」だからだ。
事業主に有給休暇の買い取りを認めると、労働者が休日を得てリフレッシュする機会が失われてしまう。
有給休暇制度の趣旨が損なわれてしまうことから、原則として有給休暇の買い取りは認められない。なお、有給の買取予約も違法だ。例えば、20日付与する有給のうち、5日分を先に買い取って15日しか有給を与えない、という取り扱いは認められない。
※出典:東京労働局「Q4.消化しきれなかった年休の分の賃金を支払って買い上げることはできますか?」
※出典:鹿児島労働局「Q8 年次有給休暇の買上げをしても法律違反にはなりませんか。」
有給買取が認められる3つのケース
原則として事業主が労働者の有給休暇を買い取ることは違法であり、認められていない。しかし、例外として以下のケースにおいては労働者の利益を損ねないことから、買い取りが認められている。
- 退職時に消化しきれない分を買い取る場合
- 法定有給休暇を超過している分を買い取る場合
- 時効消滅した分を買い取る場合
退職する時に、残りの出勤日よりも多くの有給休暇が残っている場合、超過分を買い取ることができる。例えば、退職が決まっている労働者が20日分の有給休暇を有しているが、残りの出勤日が15日しかないようなケースだ。
有給休暇は退職後に行使できないため、上記の場合、労働者からすると5日分が無駄になってしまう。無駄になってしまう有給休暇を事業主が買い取る場合、労働者には何ら不利益はないことから、買い取りが認められている。
ほかにも、労働基準法で定められている日数を超えて労働者に有給休暇を付与している場合も、買い取りが認められている。例えば、労働基準法上は継続勤務年数が6年6か月以上ある労働者には20日を付与すれば足りるが、25日分を付与しているケースだ。
この場合、法定日数を超えた5日分については、事業主による買い取りが認められている。労働基準法を順守しており、有給休暇の本来の趣旨と目的は達成されているためだ。さらに、時効消滅した有給休暇の買い取りも認められている。時効消滅とは、一定期間権利を行使しなかったことで、権利が行使できなくなることだ。
有給休暇の権利は、2年経過すると時効で消滅する。時効消滅した有給休暇は、申請できない。消滅した有給休暇を買い取っても有給休暇の趣旨を損ねておらず、むしろ労働者にとって利益となることから、買い取りが認められている。
有給買取の一般的な計算方法
例外的に有給の買い取りが認められるケースはあるが、買取金額の計算方法に法令上のルールはない。以下のいずれかの方法から選択し、就業規則で定めておけばよいことになっている。
- 平均賃金をもとに計算する
- 通常賃金をもとに計算する
- 標準報酬月額をもとに計算する
- 一定額で定める
以下で、それぞれの計算式について詳しく解説する。
■平均賃金をもとに計算する
平均賃金をもとに計算する場合は、直近3カ月間に支払った賃金の総額を、総日数で除して算出する。例えば、4月~6月の賃金の合計が910,000円だった場合、以下の計算式で買取金額を算出する。
例:910,000円(3カ月の支払総額)÷91日(4~6月の総日数)=10.000円
上記の場合、1日当たり1万円で有給を買い取れば足りる。日給・時給などで労働日数が少ない労働者に関しては、以下の2つを比較して高い金額を採用する。
- 3カ月の支払総額÷労働日数
- 3カ月の支払総額÷3カ月の総日数×60%
月給制の労働者と月給制以外の労働者では、計算式に違いがある点を抑えておこう。
■通常賃金をもとに計算する
通常賃金とは、通常通り働いた際の賃金だ。月給制の場合は「月給÷月の所定労働日数」で計算し、週給制の場合は「週給÷週の所定労働日数」で計算する。日給制の場合は、日給をそのまま買取金額に設定すればよい。
例えば、月給が400,000円で月の所定労働日数が20日間の場合、有給の買取金額は1日当たり20,000円となる。計算方法がシンプルで、わかりやすい点が特徴といえるだろう。
■標準報酬月額をもとに計算する
標準報酬月額とは、健康保険料や厚生年金保険料の算定基礎となる数字だ。標準報酬月額は、通常毎年4月~6月の給料をベースに決定している(育児休業から復帰したときや、著しい給料の変動があった場合は随時改定される)。
「標準報酬月額÷月の日数」で有給の買取金額を計算することも可能だ。協会けんぽを参考にすると、4月~6月の給料平均が290,000円~310,000円の場合、標準報酬月額は300,000円となる。
1日分の有給を買い取る場合、「300,000÷30日×1日」で買取金額は10,000円だ。10日分を買い取る場合は100,000円となる。
■一定額で買い取る
買取金額を、労働者の給料に関係なく「1日当たり10,000円」のように一律で定めることも可能だ。細かい計算を行なう必要はなく、就業規則で定めた金額で買い取れば足りる。給料が高い労働者からすると不公平感を感じやすい計算方法ではあるが、シンプルでわかりやすい計算方法といえるだろう。また、雇用形態ごとに買取金額を定めても問題ない。
例えば「正社員は1日当たり10,000円」「パート・アルバイトは1日当たり5,000円」のように差別化できる。
有給の買い取りは義務化されていない以上、計算方法は事業主が自由に決められる。そもそも自分の勤務先に有給買取の規定はあるのか、規定がある場合はどのように計算するのか確認しておくとよいだろう。
まとめ
原則として、事業主が労働者の有給を買い取ることは違法であり、認められていない。しかし、退職時に消化しきれない分を買い取る場合・法定有給休暇を超過している分を買い取る場合・時効消滅した分を買い取る場合は、例外的に認められている。
なお、上記に該当する場合でも、有給を買い取るかどうかは事業主の任意であり、買い取りが義務化されているわけではない。
文/柴田充輝
厚生労働省、保険業界、不動産業界での勤務を経て独立。FP1級、社会保険労務士、行政書士、宅建士などの資格を保有しており、特に家計の見直しや資産運用のアドバイスのほか、金融メディアで1000記事以上の執筆を手掛けている。