建設業界のデジタル化関連求人は2018年の5.52倍、高まる「建設テック」への期待

2024.03.29

リクルートから「建設業界のデジタル化」に関する求人と転職の動向についてまとめたリポートが到着したので、同社リリースを元に、その概要をお伝えしていく。

解説は同社建設不動産領域専任シニアコンサルタント・平野竜太郎氏、建設不動産業界専任エキスパートキャリアアドバイザー・箕輪真人氏が担当。

「建設業界のITエンジニア」求人は2018年比3.09倍に増加。デジタル化による業界全体の生産性向上を

「2024年問題」を目前に控え、建設業界で注目されているのが、テクノロジー活用によるデジタル化だ。国土交通省も2016年に建設生産システム全体の生産性向上を目指し「i-Construction」という施策を打ち出しているが、他業界と比較して遅れを取っていた建設業界が、近年徐々にデジタル化の兆しを見せ始めている。

建設業界のデジタル化を進めるには大きく二つの方法がある。

それが（1）社内のIT部門強化、（2）外部のITと建設を融合した「建設テック」サービスの活用だ。

『リクルートエージェント』における求人数推移を見ると、（1）に関連する「建設業界のITエンジニア」求人は2018年を1として、2023年は3.09倍、（2）に関連する「IT・インターネット業界の建設テック」求人は7.80倍、両者を合計した「建設業界のデジタル化」関連求人は5.52倍に増加している。

実際の現場でも、大手ゼネコンを中心にデジタル技術の導入が少しずつ進んでおり、一部の現場では生産性向上を実現する事例も出てきている。

働き手も若者を中心に、デジタルツールの導入有無を企業選びの要素に挙げる人も増えてきており、建設業界全体としてテクノロジーを活用し、生産性を向上していこうという機運が高まっている。

しかし、2024年現在においてもデジタル技術の導入さえできていない企業や、導入されたもののうまく技術を活用できていない企業も、また数多く存在する。

このような状態が続けば、こうした企業は新たな働き手から選ばれないだけでなく、既に働いている方々の他企業への流出も進んでいく可能性がある。

いまだデジタル技術を思うように導入・運用できていない企業は、デジタルツールの導入から、適切に活用される仕組み作りまで、本腰を入れて力強く進めていくことが求められている。

2022年6月に政府が発表した「アナログ規制」の見直しは、建設業界のデジタル化への追い風となると言えるだろう。

インフラの目視点検を求める規制や、現場への常駐を求める規制の廃止が含まれ、これによってデジタル活用を進められる環境が整いやすくなる。

建設業界は、こうした環境の変化を変革の機会と捉え、業界全体でデジタル化を推進していく姿勢が求められている。

■「建設業界のITエンジニア」求人増加の背景

これまでデジタル化が遅れていた建設業界だが、テクノロジー導入による生産性向上に向けて、事務作業の効率化、基幹システムの統合、外部ITサービス活用などの機運が高まり、外部からIT人材を採用し、社内のIT部門を強化する動きが進んでいる。

自動車業界や製造業界、IT・インターネット業界などの幅広い業界から、エンジニア経験者が建設業界に転職をするケースも増えつつある。

■「IT・インターネット業界の建設テック」求人増加の背景

建設業界のテクノロジー活用の流れを受けて、IT・インターネット業界においても、建設とITを融合したサービスを提供する「建設テック」求人が増加。求人数の推移を見ると2018年を1として、2023年は7.80倍と伸長している。

「建設テック」領域では、「測量・調査」、「計画・設計」、「施工管理」、「維持管理」などの建設業界における、多様なプロセスごとの課題を、テクノロジーによって解決するために複数のサービスが生まれている。

■「建設テック」企業への転職を果たす施工管理経験者が増加

建設業界で「施工管理」を経験していた人が「建設テック」企業に「カスタマーサクセス」や「事業開発」などの職種で転職を実現するケースも増えつつある。

未経験職種への転職となるが、「施工管理」経験者は、建設業界や商流への深い理解があることや、サービス利用者である建設技術者のニーズを理解しているという利点があり、未経験であってもその持ち味を高く評価され、「建設テック」企業でも活躍の場を広げている。

「施工管理」を経験していた人が「建設テック」企業に転職をする場合、給与が下がるケースもあるが、建設業界の課題を根本的に解決できる機会や、ビジネスプロセスの上流に携われることなどの魅力に引かれて決断する人が多い傾向にある。

■ICT建設機械関連の求人が増えている

ICT建設機械とは、建設機械に工事の設計データを搭載することで、運転手へ作業位置をガイダンスする機能や運転手の操作の一部を自動化する機能を備えた建設機械を指す（※）。

ICT建設機械導入によって作業員の負担軽減、生産性向上による工期短縮などが期待でき、国土交通省もICT建設機械の導入を進めていることから関連求人が増えつつある。

建設機械関連求人において、これまでは同業界出身者に加え、自動車業界出身者が転職を実現するケースが一般的だったが、ICT化の流れを受けてカーナビ製造やデジタルカメラ製造などの映像関連業界出身者が採用対象となることも増えている。

一方でICT建設機械導入にあたっては費用が高額となるケースが多く、コスト面での課題も抱えている。
※出所：国土交通省i-Construction推進コンソーシアム第8回企画委員会資料-1

■デジタルツール導入により、生産性向上を実現させた事例

デジタルツール導入により、無駄な待ち時間や移動時間が減少して、生産性が向上するケースが増えているようだ。

最近の雇用市場では「ABW」というキーワードに注目が集まっている。これは「Activity Based Working（アクティビティ・ベースド・ワーキング）」の略で、仕事内容に応じて働く場所・時間を自由に選択する働き方のこと。

他業界では、この概念を実行に移している企業が生産性を高めているケースが増えている。

建設業界でも、デジタルツールの力を借りながら、ABW実現への取り組みを広めていくことが大切になってくるはずだ。

■デジタル化推進のための課題、解決策

前述のとおり、建設業界では大手ゼネコンを中心にデジタル技術の活用が進んできたが、デジタル化の成果が出ているという声はまだ一部の企業にとどまっている。

デジタル化がうまくいかない背景には、建設業界ならではの以下のような要因があると考えられる。

・経営と現場をうまく接続し、調整する橋渡し役の人材がいないことで、経営が打ち出しているデジタル戦略と現場の現状に乖離が生まれてしまっている
・デジタルツールを導入したものの、現場に電波が届きにくくネットワーク接続ができない、BIMで設計したものの施主から紙で図面を見せてほしいと言われるなど、デジタルツール活用のための環境整備が追い付いていない
・BIM（※）を導入したものの、活用支援のフォローが少なく使いこなす技術が足りず、3DCADとしてしか使えていないなど、デジタルツールを本来の目的通りに使えていない状況が生まれている
・提供されるデジタルツール自体も、サービス開発にまだまだ課題がある
※BIM：Building Information Modeling（ビルディング・インフォメーション・モデリング）　コンピュータ上に作成した主に3次元の形状情報に加え、建物の属性情報（各部位の仕様・性能、居室等の名称・用途・仕上げ、コスト情報等）などを併せ持つ建物情報モデルを構築するシステム（出所：国土交通省）

調査結果の考察

以上のような問題を解決し、建設業界のデジタル化を進めるためには、建設企業も、デジタルツールを提供する「建設テック」企業も、正しく現場を理解した上で、戦略を描くことが重要だ。

加えて、デジタルツール導入後に発生する障害や問題を地道にひもときながら解消していくことが求められる。

提供されるデジタルツールは現場に即した機能に日々アップデートされ続ける必要があるため、建設業界のデジタル化に関わるポジションでは現場の理解が深い、建設業界出身者の採用も積極的に進める必要があるだろう。

「施工管理」出身者が「建設テック」企業に転職するケースなども増えているが、まだまだ少ない状況だ。デジタル化を進める経営層やデジタルツールの開発元が現場の課題をつかみ、建設業界のデジタル化を正しく進めれば、建設業界は働きやすい業界になるポテンシャルをまだまだ秘めている。

建設業界の仕事は本来、業務そのものに高いモチベーションで働くための要素が多く含まれている。

デジタル化による生産性の向上が実現すれば、「建設業界で働きたい」と思う人が、今よりもさらに増える未来を描けるのではないだろうか。

調査概要
調査方法／『リクルートエージェント』求人データの分析
調査対象／『リクルートエージェント』求人データ
有効回答数／非公開
調査実施期間／2023年12月～2024年2月
調査機関／リクルート