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会社員にとって有給休暇は身近な制度だが「実際に何日もらえるのか」など、わからないことも多いのではないだろうか。なかには年休と有給の違いについて、明確に理解していない人も少なくないだろう。
この記事では年休と有給の意味から付与日数、買取や繰り越しというルールまで、わかりやすく解説する。休みの日数を損しないためにも、知識を蓄えておこう。
年休と有給に違いはないって本当?
有給休暇は、「年休」といわれることもある。呼び方によって、何か違いはあるのだろうか。
■年休と有給のどちらも「年次有給休暇」
有給休暇は正式には「年次有給休暇」といい、「年休」も「有給」も年次有給休暇を略したもので、両者に違いはない。
■年次有給休暇とは
年次有給休暇とは、会社から付与される「有給」の休暇のことで、労働基準法という法律で保障された労働者の権利だ。有給なので、休んでも給料は減額されない。
また、正社員、契約社員、パート、アルバイトなどの区別なく付与される。休暇を取る理由は問わず、遊びに行くなどプライベートな理由でも問題ない。ただし、有給が付与されるには、次の2つの条件をどちらも満たす必要がある。
■有給休暇が付与される条件
有給休暇が付与される条件を端的にまとめると以下の通りだ。
1.入社日から6か月間の継続勤務
2.全労働日の8割以上出勤
継続勤務とは、会社の在籍期間のことだ。また、労働日とは、契約で決まっている労働義務のある日を指す。土日休みの方であれば月曜から金曜、シフト制の方であれば、シフト表に載っている自分の出勤日となる。
つまり、会社に在籍している6か月間全ての労働日の8割以上の出勤が必要になる。ちなみに、有給は1年ごとの付与になるため、次の年からは、1の条件は「有給の付与された日から1年間」になる。
ところで、6か月ないし1年間の在籍期間中に、怪我や病気で休んでしまうこともあるだろう。そういったときでも、会社の業務が原因の怪我や病気で休んだ場合は、その期間は出勤したものとして計算できる。そのほか、法定の育児休業・介護休業を取得した期間なども、出勤したものとみなすことができる。
ここからは、年休・有給のポイントを解説する。
会社員が知っておくべき年休・有給のポイント
有給は、例えば週5日、1日8時間勤務の正社員やフルタイムパートの人と、短時間アルバイト・パートの人では、付与日数が異なる。まず気になるのは、何日もらえるかだ。それぞれを確認してみよう。
■正社員やフルタイムパートのケース
正社員やフルタイムパートの方(「通常の労働者」という)は、継続勤務年数によって決められている。詳しくは次のA表の通りだ。
【A表】
継続勤務年数(年) |
0.5 |
1.5 |
2.5 |
3.5 |
4.5 |
5.5 |
6.5以上 |
付与日数(日) |
10 |
11 |
12 |
14 |
16 |
18 |
20 |
■短時間アルバイト・パートのケース
短時間のアルバイト、パートの方は、基本的に週所定労働日数と継続勤務年数によって決められている。具体的には「週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者」と定義されている。詳しくは次のB表の通り。
【B表】
B表には「1年間の所定労働日数」の欄もある。理由は、週所定労働日数が決まっていない場合もあるからだ。例えば、週または月のシフトがまちまちで、忙しい時などに、事前に会社から相談があって決めるといったケースだ。
この場合は、1年間の所定労働日数と、継続勤務年数を基準にする。ちなみに、初年度は過去6か月間の出勤日数を2倍にして算出し、次年度からは、過去1年間の出勤日数で計算する。
ここで注意が必要なのは、自分はA表に該当するのに、B表に該当すると勘違いしてしまうことだ。例えば、1日8時間、週4日勤務のアルバイトの場合、週4日勤務であっても、週の所定労働時間は8時間×4日=32時間で30時間以上になる。この場合は、A表にあてはめることができ、条件を満たせば初年度は7日ではなく10日付与される。
■年休・有給が付与されるタイミング
ここからは、具体的にいつ年休・有給が付与されるのかを見ていこう。
まず、最初のタイミングは入社日から6か月後。次からは、最初に有給が付与された日から1年経過した日に、全労働日の8割以上出勤の要件を満たしていれば、前述したA表またはB表のとおりに付与される。具体的には以下の通りだ。
例:4/1に入社した場合、最初のタイミングはその年の10/1。次年度は翌年の10/1。以降、毎年10/1に付与される。
上記のルール通りに運用すると、社員の入社日ごとに、有給が付与されるタイミングが変わる。そうなると、会社の事務負担が大きくなってしまうため、入社日に関わらず、有給付与日を同じ日に揃えることも認められている。これを年休・有給の「斉一的取扱い」という。
ここからは、有給の権利を、できるだけ損することなく行使するためのヒントとして、「買取」と「繰り越し」というルールについて、詳しくお伝えしよう。
■年休・有給の買取は違法?
法律では「有給休暇を与えなければならない」と規定されている。そのため、会社が休暇を買取って金銭で支給することは原則、違法だ。
ただし、例外が3つある。
1.時効で権利が消滅してしまう有給
2.退職時の有給残日数
3.法律の規定を上回る有給
まだ、安心はできない。実は、これは法律上の義務ではないので、3つの例外に該当しても、当然買い取ってもらえるというわけではないのだ。
そのため、気になる方は、就業規則などで、自社に買取りの制度があるかどうか、あらかじめ確認しておいたほうがよいだろう。
■繰り越しのルール
有給休暇の時効は、付与日から2年だ。1年間で使い切れなかった有給休暇は翌年に繰り越すことができ、新たに付与された日数に加算される。これが有給の繰り越しだ。ただし、有給を繰り越せるのは翌年まで。翌年のうちに使い切れなかったら、権利を失ってしまう。
そのため、繰り越した日数も、意識しておいたほうがよい。忘れていると、有給の消化日数が繰り越し日数に足りず、数日分が時効消滅してしまうこともあるからだ。
※出典:鹿児島労働局「Q8 年次有給休暇の買上げをしても法律違反にはなりませんか。」
まとめ
ここまで、年休と有給に違いはあるのか、その定義や付与日数・買取・繰り越しのルールを見てきた。
有給は法律で保障された会社員のための休暇制度だ。心身共にリフレッシュでき、仕事のモチベーションもアップする。一方、ルールを知らないと損をしてしまうこともある。充分注意して、正しく活用しよう。
文/木戸史(きどふみ)
立命館大学文学部卒業後、営業、事務職、編集アシスタントなどを経て、社会保険労務士事務所で社労士として勤務。現在はライターとして活動しており、社労士として多くの中小企業に携わった経験を生かし、ビジネスマンに役立つ法律知識をできるだけわかりやすく発信している。