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「人手不足」より深刻な「人材不足」なぜ企業は必要なスキルや経験を持つ人を採用できないのか

2024.03.21

【3】採用巧者の人材戦略

■人材採用のやり方や制度の見直しができている企業は、顕著な成果が出ている

ますます課題感が強くなる人材の採用や確保について、企業はどのように対応していけば良いのか。ここからは、「採用のやり方や制度の見直しができている企業」に注目して見ていく。

前述の「人手不足」と「人材不足」それぞれの観点で採用できている割合を、「採用のやり方や制度の見直し」の状況別に見たものが以下のグラフだ。「見直しができている群」は人手不足・人材不足のどちらについても、他の群に比べて採用がうまくいっており、雇用市場において採用巧者であると言えるだろう。

■採用巧者の取り組み(1):経営戦略と人材戦略の連動/「事業変革型」の中途採用・キャリア採用を展開

「見直しができている群」の特徴は、経営戦略と人材戦略の連動ができていることだ。ビジネス環境の変化が激しい中、多くの企業が経営戦略の変更に迫られている。実際に今回の調査でも、「事業戦略やビジネスモデルを変化させる必要性を感じている」と回答した企業は、「見直しができている群」が86.2%、「見直しができていない群」が76.7%と、「見直しできている群」が10pt近く上回った*。

「見直しができている群」は、事業戦略やビジネスモデル変革といった経営戦略と人材戦略(採用戦略)がしっかりつながっていると考えられる。先に紹介した「人材採用のやり方や制度の見直しが必要と感じている理由」を「見直しができている群/見直しができていない群」に分けて見てみよう。

どちらの群も「これまでのやり方では必要な人材を確保できないため」の選択率が高いことに変わりはない。一方で、「見直しができている群」は、「組織の人材多様性を高める必要があるため」や「これまで採用してきた人材とは異なるスキルを持つ人材が必要であるため」といった項目の選択率が、「見直しができていない群」に比べて高いという特徴がある。

単に人手不足であるから採用のやり方や制度を見直しているのではなく、事業戦略やビジネスモデル変革を推進するために必要な人材の獲得が、見直しのモチベーションになっていることがわかる。

他方、「見直しができていない群」は、事業戦略やビジネスモデルを変化させる必要性を感じているものの、その実現に向けた人材戦略(採用戦略)とのつながりが弱いように見受けられる。

*事業戦略やビジネスモデルを変化させる必要性について、「やや感じている」・「強く感じている」と回答した割合

実際に『リクルートエージェント』の求人データを見ると、事業変革に関する人材募集は増加の一途をたどっている。目覚ましいテクノロジーの発達やグローバル化の進展はあるものの、人口減少が進む中で、これまでのやり方を踏襲した事業運営には限界があり、事業そのものを時代に合わせて変革することが求められている。そのような変革の担い手を外部の転職市場から獲得しようとする動きが加速している。

これまでの中途採用・キャリア採用は、既存のポジションの空きを補うためのいわば「欠員補充型」の採用が主流であったかもしれない。しかし、現在の企業や転職市場の動向をつぶさに見ていくと、その企業の主力として力強く事業戦略を推進するような人材を、外部から取り入れる「事業変革型」の採用が生まれていることがわかる。

■採用巧者の取り組み(2):必要な人材を言語化し人事制度を改革/スキルと共にポテンシャルを重視

続いて採用巧者である「見直しができている群」の具体的な取り組みについて見ていく。今回の調査では、人材採用に関する具体的な12項目の取り組みについて、それぞれの実施率を確認した(全12項目の調査結果は参考情報を参照)。その中で、「見直しができている群/見直しができていない群」で特に実施率のギャップが大きい5項目と、「見直しができている群」の実施率が高い5項目をピックアップしたものが下表だ。

「見直しができている群/見直しができていない群」の比較では、「必要とする人材を採用するために、自社の人事制度(報酬制度・働き方など)を変更している」や「自社の『求める人物像』を言語化している」という項目で、特に実施率のギャップが顕著だった。

多様性向上を意識した採用ターゲットとは具体的にどのような人なのか。自社にはいない異質な人材とは具体的にどのようなスキルセットや経験を持つ人なのか。これらの要素やポイントを言語化して、「求める人物像」の解像度を高めていることがわかる。さらに、必要な人材を獲得するためには、場合によっては評価・報酬制度や働き方といった社内の人事制度を変革している。

一方、シンプルに「見直しができている群」の実施率が高い項目を見ると、「採用にあたっては、本人の潜在的成長力や伸びしろを重視している」という項目が最も実施率が高いことがわかる。中途採用・キャリア採用なのだから、「本人が持つスキルや経験を重視すること」は当然だが、スキルを重視するだけでなく、その人の潜在的成長力や伸びしろ、ポテンシャルを重視している。即戦力採用が基本だった中途採用・キャリア採用に変化の兆しが表れていると言えるだろう。

採用のやり方や制度の見直しができており、採用が成功している企業がポテンシャルを重視していることは、次の二つの動向からも見て取れる。

一つ目は、求める人材が転職市場に一定数しか存在しないため、即戦力ではなくともまずは採用して育てていく動きだ。例えば、ITエンジニアは業界問わずニーズが高い職種だ。一部の企業では、素養がある方を採用して入社後に育てたり、社内の既存人材をリスキリングしたりしてこのような人材の確保を行っている。

もう一つは、入社後の成長や変化対応によって、最初のポジションだけでなく、その後新たな活躍の機会を与える動き。スキルは現在の仕事に即応できる能力を意味するが、ポテンシャルは将来の成長と変化に対応できる能力を示す。組織が進化し、ビジネス環境が変化する中で、ポテンシャルの高い人材は新たな状況や課題に柔軟に対応することが期待できる。

いずれにしても重要なことは、中途採用・キャリア採用は入社後の育成やキャリア支援とセットであるということだ。実際に採用のやり方や制度の「見直しができている群」は、人材育成を強化していくことやキャリア支援を重視していることがわかる。

ポテンシャルや伸びしろを重視するということは、その人をリテインして、ある程度長期的に活用・育成できることが前提となる。つまり、採用は育成と連動しており、いくらポテンシャルを重視して採用しても、それにつながる育成・キャリア支援の仕組み等がなければ、期待した効果は得られないだろう。

■解説者:リクルートHR横断リサーチ推進部マネジャー/研究員・津田郁氏

本リリースは主に中途採用・キャリア採用についてまとめています。構造的な人手不足の中、企業の人材採用はますます難易度が高いテーマになっています。実際に、66.6%の企業が以前に比べて直近1~2年の中途採用が難しくなっていると感じており、数ある人事課題のうち「中途採用・キャリア採用の強化」を課題に感じている割合が、全25項目中4番目に高いという調査結果が示されました。

人手不足の対応としては、採用だけで全ての側面が解決するわけではありません。しかし、このような状況の中でも、従来の採用のやり方や制度を見直して成果を出している「採用巧者」の企業の存在が調査から見えてきました。

その特徴の一つが、「経営戦略と人材戦略(採用戦略)の連動」です。単に人手不足に対応するためだけの採用ではなく、事業戦略やビジネスモデル変革を推進するために必要な人材の獲得を目指し、そのために必要な取り組みを進めています。ビジネス環境の変化が激しい中で、従来のやり方を踏襲した事業運営には限界があり、事業そのものを時代に合わせて変革することが求められています。

そのような変革の担い手を外部の転職市場から獲得しようとする動きが加速しています。これまでの中途採用・キャリア採用は、既存ポジションの空きを補うためのいわば「欠員補充型」の採用が主流であったかもしれません。しかし、現在の企業や転職市場の動向をつぶさに見ていくと、力強く企業の事業戦略を推進するような人材を採用する「事業変革型」の中途採用・キャリア採用の潮流になっていることがわかります。

<調査概要>
調査方法:インターネット調査
調査対象:全国の人事業務関与者(担当業務2年以上)
有効回答数:5,048人※ただし、従業員規模30人以上の企業に勤める2,761人を対象とした。
(従業員規模30~99人:753人、100~299人:605人、300~999人:540人、1,000人以上:863人)
調査実施期間:2023年3月29日(水)~2023年3月31日(金)
調査機関:インターネットリサーチ会社

出典元:リクルートグループ

構成/こじへい

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