名車・アウトランダーが海外で大ヒット
販売戦略も巧みでした。
もともと、三菱自動車は中国、アメリカ、日本、オセアニア、東南アジアなど、販売エリアにおいては全方位的な戦略をとっていました。そこから、注力エリアを東南アジア一本に絞り込んだのです。
タイやベトナム、インドネシア、フィリピンでは「エクスパンダ―」シリーズが人気でした。MPVと呼ばれるやや小柄なミニバンで、コンパクトでありながら3列シートを採用し、大人数の乗車に耐えられる設計でした。更に、東南アジアでは「パジェロ」を筆頭とした三菱ブランドが高級車として認知されており、大衆向けに発売されて人気を博したことも好調の背景にありました。
三菱自動車は東南アジア攻略として、充電可能なプラグインハイブリッド「アウトランダー」の市場投入を決定します。タイでは、570万円、608万円の2つのグレードを販売しました。「エクスパンダ―」は、300~400万円程度。付加価値の高い商品を送り出したのです。
東南アジアの販売台数は、2020年3月期が29万台。2023年3月期は26万2000台で、下がっています。しかし、売上高は5519億円から5846億円へと5.9%増加しました。
このPHEVの「アウトランダー」はアメリアでも大ヒット。会社全体の業績をけん引する存在となりました。
20年の時を経て復活した三菱自動車
三菱自動車の2023年3月期の国内販売台数は9万2000台。2022年の日本の自動車販売台数は420万1000台なので、シェアは2%程度しかありません。
「デリカ」や「アウトランダー」、「エクリプス」、「eKクロス」など人気の車はあるものの、国内では今一つ存在感を発揮できていませんでした。しかしここにきて、「トライトン」という黒船を襲来させます。
日本では馴染みのないモデルですが、「トライトン」は世界戦略車の一つ。中東やオーストラリア、アフリカ、ヨーロッパなど150の国と地域で販売されています。
昨年12月に発売が発表され、受注数は2か月で1300台に達しました。月間目標200台を大幅に超えるオーダーが入っています。
道幅が狭い日本では、ピックアップトラックは売れないという常識がありました。「トライトン」はその常識を塗り替えるポテンシャルを持っています。
三菱自動車がこのタイミングで常識破りの車を販売したことに、会社としての自信の表れを見て取ることができます。追い風が吹いて、チャレンジ精神が生まれているのでしょう。
三菱自動車は、かつてトラック・バス部門(三菱ふそう)で大規模なリコール隠しが発覚し、社会的な大問題を引き起こしました。その影響で国内のブランドイメージが壊滅的なまでに棄損した過去があります。
陰惨な過去から20年が経過し、再び存在感を高めています。
取材・文/不破聡