TOKYO2040 Side B 第31回『着実に進行している社会のDX、3年の軌跡を追う』
※こちらの原稿は雑誌DIMEで連載中の小説「TOKYO 2040」と連動したコラムになります。是非合わせてご覧ください。
月刊DIME本誌での連載小説『TOKYO2040』ですが、3月号(2月16日発売号)に最新31話が掲載されております。次回からこの連動コラム同様「@DIME」に掲載の場を移して続いていきますので、是非お読みください。
小説と同様、このコラムも満3年続けさせていただいているわけですが、開始当初はコロナ禍の真っ只中だったこともあり、世間ではテレワークを始めとしたDXが迫られていました。すなわちデジタルをきっかけとした行動変容です。
そこから3年経つ間に、新型コロナが5類となったことによって“政治的に”コロナ禍は終了しましたが、コロナウィルス自体が無くなったわけではなく、引き続きの予防が必要ですし、それと同様にDXも引き続いての取り組みが必要です。
今回は、以前の記事を振り返りながら、総集編的にこれまでの3年間でトピックがどう移り変わってきたかと、小説で描いている2040年の社会との接点とを見つめていきたいと思います。
DXのあり方や意義を見つめた3年間
この連載ではテーマとして各回、DXの意義を説く傾向があります。記念すべき第1回ですが、2021年当時はペーパーレス、脱ハンコ社会がトピックだったのでそこからスタートしています。小説『TOKYO2040』でも、デジタル化が済んだはずなのになぜか「紙とハンコの稟議書」に主人公が振り回されるところから物語がスタートしています。
コロナ禍を経て今では電子契約や電子署名の導入も進み、2023年10月のインボイス制度施行や、電子帳簿保存法の改正により2024年1月から原則として紙への印字ではなくデータのまま保存することなど、より一層社会に根付くものとなりました。
将来的には例えば確定申告などで、請求書や領収書という「紙をファイルにしたもの」を介さなくても、お金とサービスの双方でデータが流れたら、追加の手間をかけずに税額その他も計算され、書類を作成せずにキャッシュレスで申告から納税まで完了してしまうというのが理想です。
そうなるとWeb3の「スマートコントラクト」の出番ではあるのですが、現実的には多岐にわたる商慣習や支払い形態、個別の事象をカバーするのは難しいでしょうから、当分はファイル頼みということになると思います。
しかしながら、ファイルに書かれた内容を自動でAIが判断して勘定科目で仕分けする程度のものはすでにクラウド会計ソフトなどで実現しているので、もしかするとデータの流れと処理を整備するよりも、人間がしている昔ながらの作業をAIに置き換える方が早く実現してしまうかもしれません。
目標に対し、DXに用いる技術によってアプローチは変わってくるとしても、技術の形に合わせて人の行動が変容していくことで、最適化が達成できることに変わりはないと言えます。
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生成AIの流行で「仕事とは何か」の追求が加速
2023年はChatGPTを始め、生成AIがとても話題になりました。すでに仕事や勉強といった場面で日常的に使用するようになった人も多いかと思います。
当初はチャットインターフェースに引っ張られて検索代わりに用いてしまうことで、でたらめな回答や古い内容が出て「これは使い物にならない」という意見も見られましたが、大規模言語モデルのAIがどういう仕組みで動いているか、ということや効果的な指示の仕方(プロンプト)などが共有されるにつれ、適切な使い方や、AIの提案してくる内容とどれくらいの距離感で付き合えばよいかがわかってきました。
反発の強かったデジタル作画での用法も、文化庁著作権課による『「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関するパブリックコメントの結果について』のQ&A傾向でも明らかになったように、そもそも現行の各種法規への理解と摺り合わせがないままでは「なんとなくAIが気持ち悪い」という感覚でAIを拒否しても、良いツールの誕生や進化の足を引っ張ってしまうだけで、建設的な議論は進みません。
生成AIが私達にとって画期的に感じられたのは、学習量が途方もない量になって精度が上がったタイミングと、チャットという慣れ親しんだインターフェースが認知されるタイミングが重なったことによります。それ以前から大規模原語モデルのAIは存在しましたし、AIが人から仕事を奪ったり、数年後には無くなってしまう業種があるのでは、という議論はそれよりも前から言われていました。
ですが、折しもDXが急務となっている現代において、2023年の熱狂は十分に人々を焚きつける燃料となったわけです。
小説では政策に関与するAIシステム「ヌーメトロン」が近未来の職員たちの会話の端々に出てきます。作中のAIはエビデンスが揃っているものや前例があるものに関しての判断や、途方もないデータからなにかを抽出するような作業では大いに人間の助けになっているようですが、裏があるのかないのか、時折主人公にも疑問を抱かせてしまうような判断をします。
現実では、過ちに繋がる幻視(ハルシネーション)と呼ばれる誤った出力を学習時や出力時にいかに矯正していくかが課題となっていますが、時代ごとに変化していくコンプライアンスやガバナンスの縛りをAIの処理に加えるほど、人間と同様に軸がブレていき、迷走していくと思われます。これは、AIがどこまで進化しようと、人が人を模したものを作り、人の能力に近いものにしようとする限り、避けられない事態であると私は考えています。なぜなら、人そのものが不完全なものだからです。さきほどの「どれくらいの距離感で付き合えばよいか」という心構えは、実は対人関係とまったく同じなのです。
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