TOKYO2040 Side B 第18回『今必要なのは「人から仕事を奪う」のではなく「人が仕事をしやすくする」AI』
※こちらの原稿は雑誌DIMEで連載中の小説「TOKYO 2040」と連動したコラムになります。是非合わせてご覧ください。
尽きることのないAIの話題
先日の台風15号による災害について、AI生成による被災地のフェイク画像が注目されました。
関連記事:SNSで拡散 “AI生成の偽の災害画像” ファクトチェックはどうする(NHK首都圏)
また、画像をAIで生成することについては数年前からディープ・フェイクとの関連でニュースに取り上げられることが多くあり、2022年に入ってからもネット上で話題が繰り返されています。ここ半年間で次のようなAI画像生成サービスが話題になりました。
・Dream
・mimic
・Midjourney
・DALL-E2
・ERINE-ViLG
・Stable Diffusion
・NovelAI Diffusion
今も何度目かのブームとしてAIへの指示(プロンプト)によって描画された画像が投稿され続けていますが、その度に様々な怨嗟とも言うべき感情がSNS上に巻き起こっているのを感じます。
イラストレーターの仕事がAIに奪われかねないという社会的な危惧や、そもそも画風と画家を人間はどう認識しているのかといった哲学的な思索、もちろん、学習データの収集は適切なものなのか、生成物が何らかの権利侵害をしていると見做された場合はどうなるのか、といった法制に関わる問題も議論されます。
本コラムでも以前、AIについて取り上げ「強いAI」「弱いAI」について書きましたが、今回はAIの中でも先程の「お絵描きAI」のような、Deep Learning(機械学習の一つ)をベースとしたものとDXとの関わりについて見つめたいと思います。
関連記事:データの連携によってAIが人間以上に正論を叩きつけてくる未来がくる!?
AIで変わるのは仕事?それとも人?
先程の「お絵描きAI」の場合、人間との関係を考えるのに、イラストを描く技能のみに注目すると、AIが広大なネット上にある様々なイラストの特徴を学習して兼ね備え、大量に出力していくことは本当に脅威に思えます。
絵柄の個性がAIに真似され奪われてしまうのではないか、ひいてはイラストレーターへの発注が減るのではないか、という懸念が出るのも感情としては素直なものでしょう。
けれど、AIが将来的に人間にとって代わるものだという見方のみでは、従来のアナログ手法の置き換えをデジタル化と呼んで終わりにしてしまうのと一緒です。ここで、DXの本質であるトランスフォーメーションのことを考えてみましょう。果たしてイラストを描く仕事というのは、何で構成されているのか。
例えば、商業イラストレーターがクライアントから「こういう絵を描いてほしい」と発注されるとして、その工程はメインのタスクである作画以外にも複数の要素で成り立っていることに着目し、一連の流れを仮に「イラスト作成プロジェクト」とすると、このような流れが考えられます。
事前に「参考資料を集め」て「イメージの共有」に務め、「ラフ画」で「了承をとり」、「線画」を「確認してもらい」、「着色」時に「色味を合わせ」、「コミュニケーションを密にし」ても、「仕上げ」まで進めます。納品直前でクライアントの言う「『何か違うんですよね……』の一言に付き合わされる」ことだってあり得ます。
こうやって分解してみると、「ラフ画」→「線画」→「着色」→「仕上げ」はイラストレーター側の作画工程。「参考資料集め」「イメージの共有」「了承をとる」「確認してもらう」「色味を合わせる」「コミュニケーションを密にする」などは全て、クライアントとの擦り合わせ工程であると言えます。
この「イラスト作成プロジェクト」に「お絵描きAI」を投入してDXを促進するとしたら、単純にイラストレーター側の作画工程を置き換えれば良いでしょうか?
もし単純に置き換えたとして考えられるのが、求めている絵になるまでAIに指示を延々と繰り返すが、求めている絵が出力される前に頓挫する、というのが関の山でしょう。相手は「強いAI」ではないので、クライアントと擦り合わせるコミュニケーション力は無いのですから。
変容を前提にAIと置き換えられる仕事を見つける
先程のようなイラスト作成プロジェクトであり得るのが、クライアント側に「求めている絵のイメージを持てていない、共有できない」ことです。もちろんクライアントも発注時に参考資料の取捨選択をしたり、風合いの似たイラストを検索したりするのですが、進捗して形になってから初めてダメ出しをする無駄の多いやり方がまかり通っているケースも往々にしてあります。
こういう時に「お絵描きAI」を使うことで、クライアント側があらかじめイメージを固めてからそれを資料として提示したり、イラストレーター側がラフ画を描く代わりにAIによるサンプルを複数出力し、クライアントに選んでもらった上でそれを下書きとして描画作業したり、といった道が考えられます。
AIに絵が描けるからといってそのままイラストレーターを置き換えるのではなく、作業者には作画に集中してもらうことにして、予備作業にAIを充てるというわけです。
こうすることにより、やりとりを繰り返したり、段階別に細かく確認をとっていたのを短縮し効率化することができます。
お絵描きAIが話題になっていましたのでイラストレーターと作画という例を挙げましたが、このやり方はクリエイティブな仕事でなくても充分に応用できます。
例えば、企業や製品への問い合わせフォーム。最初にAIチャットボットを用いるサービスが増えています。FAQ(Q&A集)にあるような問題は自動で解決し、それでもなお人間が対応しなければならないケースであると判明してから、実際のカスタマーサポート担当者が顧客とコミュニケーションをとればよい、というものです。
よく言われる例に「お掃除ロボットを買うと、ロボットの邪魔にならないようにあらかじめ部屋を片付けてしまう」というものがあります。AIを用いた何らかのソリューションの導入を決めてしまうと、その前後で人間の行動が変容するのです。
AIソリューションを導入検討する際に、現在のタスクを肩代わりするものと考えるのではなく、置き換わる仕事の前工程、後工程を可視化・整理し、アウトカムが最大化されるためにどの位置に配置するべきかを考える必要があるでしょう。
人間は「解決能力にコミュニケーションインターフェースがついた万能な存在」です。ですがその万能ぶりに依存してしまうと属人性の高い業務が生まれ、コミュニケーションによるオーバーヘッドが発生し、業務全体が滞ってしまうことになりかねません。
これからのDXでは「人から仕事を奪うAI」という見方ではなく「人が仕事をしやすいように地均し(じならし)や露払いをするAI」の発想、どうしたら人のほうが行動を変容させるかの発想が肝要と言えます。
本誌との連動をしています
DIME12月号掲載の『TOKYO2040 第18話』では、「職員がやってるのは、人間向け万能インターフェースだよ」というセリフが出てきます。近未来、DXが進むにつれて、本来人がしなくてもよかったこと、人の万能さに甘えていたことが可視化されていきます。
それでもなお、人と人とがコミュニケーションしながら進めていかなければならないことは何なのかを、物語の登場人物とともに見つめていきたいと思います。
そして特集『世界一やさしい! Web3の教科書』ですが、P.038の「住民の強力を得た”地方別トークンエコノミー”が地方創成のカギを握る」にてコメントを掲載していただいております。
前回解説した「DAO」も、本誌特集を読み解くキーワードですので、是非お読みいただければ幸いです。
文/沢しおん
作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選に無所属新人として一人で挑み、9位(20,738票)で落選。
このコラムの内容に関連して雑誌DIME誌面で新作小説を展開。20年後、DXが行き渡った首都圏を舞台に、それでもデジタルに振り切れない人々の思いと人生が交錯します。
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