2015年12月以降、従業員数50名以上の事業場で年1回の実施が義務づけられた「ストレスチェック制度」。
従業員のメンタル不調の予防やその気付きを促すこと、また、ストレスが高い人の状況把握やケアを通して職場環境改善に取り組むことを目的として制定されたが、制度導入後の現状はどうなっているのだろうか。
ドクタートラストのストレスチェック研究所では、2022年度に同社が提供するストレスチェックサービスを利用した受検者のうち、就寝前のスマホ・PC操作について回答が得られた約5,600人のデータをもとに、「就寝1時間前のスマホ・PC操作頻度」とストレス度合の関係性を調査した。
高ストレス者が最も少ないのは、寝る前スマホ・PC習慣が「週4~6日」ある人
図1は、調査対象約5,600人の「就寝前1時間以内のスマホ・PC操作」の回答内訳だ。回答者の割合が最も大きいのは「毎日」で70.7%、以下「4~6日/週」、「1~3日/週」、「全くない」と続く。
全体の95%以上が少なくとも週に1日は、また70%以上が毎日、就寝前にスマホ・PC操作をしていることがわかった。
図2は、就寝前のスマホ・PC操作頻度別の高ストレス者率だ。高ストレス者とは、ストレスの自覚症状が高い人と、ストレスの自覚症状が一定程度あり、かつ仕事の負担と周囲のサポート状況が著しく悪いと判定された人を指す。
操作頻度が高くなるほど高ストレス者率も高くなると予想していたが、高ストレス者率が最も高かったのは、操作頻度が「毎日」の群で17.0%、以下「1~3日/週」の群16.3%、「全くない」の群14.4%、「4~6日/週」の群11.7%と続いた。
このことから、寝る前のスマホ・PC習慣がある人は週1~3日程度減らすとストレスが少なくなる可能性があるのではないかと推測される。
図3は、年代別の就寝前のスマホ・PC使用頻度だ。10~30代では8割以上が毎日、40~60代では半数以上が週4日以上は就寝前にスマホやPCを操作していることが判明。
なお、「全くない」の群の割合は年代が上がるにつれ増え、70代においては4割以上が就寝前にスマホ・PC操作をしていなかった。
ストレスチェックは、各設問に対して「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」の4択形式で回答してもらっている。本分析では、「そうだ」「まあそうだ」を良好回答群、「ややちがう」「ちがう」を不良回答群として算出した。
図4は、就寝前のスマホ・PC操作頻度「毎日」の群と、「全くない」の群で不良回答率の差が大きかった上位5つの設問を示している。
最も差が大きかった設問は「首筋や肩がこる」(「毎日」の群と「全くない」の群での差が15.2%)であり、以下「時間内に仕事が処理しきれない」(同10.4%)、「複数の人からお互いに矛盾したことを要求される」(同9.9%)、「不安だ」(同9.9%)、「怒りを感じる」(同7.1%)であった。
まとめ
今回の調査では、対象者の95%以上が1週間のうち、最低1日は就寝前にスマートフォンまたはPCを使用していたことが判明した。
特に、10~60代では半数以上が週4日以上就寝前にスマホ・PC操作をしていることから、世代を問わず、就寝直前までスマートフォンが手放せなくなっている事実が明らかに。
また、寝る前にスマホ・PCを操作する頻度が高い人ほど、「心身の負担(首筋や肩がこる)」や「仕事の量(時間内に仕事が処理しきれない)」、「役割葛藤(複数の人からお互いに矛盾したことを要求される)」等の設問に対する回答が不良傾向にあることもわかった。
スマホやPCは場所や時間を問わず使用できるメリットがある反面、テレワークで公私の区別がつけにくくなったり、ブルーライトによる睡眠への影響等のデメリットも考えられるため、質の高い睡眠を取るためには、時間の区切りをつけて使用するなどの意識が大切だ。
また、寝る前のスマホ・PC習慣がある人は週1~3日程度減らすとストレスが少なくなる可能性がある。
就寝前にスマートフォンを操作することが習慣になっている人は、ブルーライトカット眼鏡の使用や、スマホ・PCを枕元に置かないなどの工夫をしたうえで、少しずつ就寝前のデジタルデトックスを心掛けよう。
調査対象
調査期間:2022年4月1日~2023年3月31日
調査対象:ドクタートラスト・ストレスチェック実施サービス2022年度契約企業・団体の一部
対象人数:5,637人
関連情報
https://doctor-trust.co.jp/
構成/Ara
「やめられない」をやめるには?ゾンビ習慣から抜け出すエモーションシフト術
飲酒、薬物使用、ギャンブル、無駄遣い、これらをやめたくてもやめられない人はたくさんいる。実際に、現代人の8割が何かしらの依存を抱えていると言われているが、そこから抜け出せないのは、快楽物質ドーパミンが一因だとされている。
一方で、こうした脳の働きを逆利用すれば脱却できると、脳神経内科医として6万人以上の患者の治療にあたってきた山下あきこ氏は話す。同氏の著書『「やめられない」を「やめる」本』では、著者の診療経験から得た知見やエビデンスを元に「やめられないをやめる」テクニックをわかりやすく、診療事例を交えながら解説している。
依存とは、その対象のものを常に求める状態で、それがなくては身動きが取れない状態を指し、依存体質は依存傾向が強い人のことを言う。さらに、日常生活に支障をきたすほど何かに依存して、抜け出せない状態になっていることを「依存症」と言い、依存症は医療で治療するべき病となる。
覚えておきたいのは、依存は大きく3つのタイプに分かれるということ。
・人間関係に対する依存(共依存)……恋愛、親子、友人など
依存に治療が必要なのかの分かれ道は、日常生活に支障が出ているかどうか。依存体質の人の中には、自分の依存傾向に気づいていない場合もある。もちろん、気づいている人もいるが、それを自分だけではやめられないという状態だ。
依存の根本原因はストレスを快楽で打ち消そうとする脳の働きにあるということを根底に、様々なカウンセリング事例や科学的な根拠を織り交ぜながら、より具体的に克服術を身につけることも大切だ。「今年こそ、やめたい!」「今年こそ、変わりたい!」と思っている人は、山下氏の著書を手にとって、冷静に自分の体質や改善策を見極める時間を作ってみてはいかがだろう。
「やめられない」を「やめる」本
山下あきこ・著
全体を5つのパートに分けて「依存脳」を克服する方法を解説する。1.人をダメにする「ゾンビ習慣」 2.「やめたいのにやめられない」ワケ 3.どうしたら「ゾンビ習慣」から抜け出せる? 4.ケース別に解説!依存しにくい脳の作り方 5.「依存脱却」で待ち受ける未来 根本原因はストレスを快楽で打ち消そうとする脳の働きにあるということを根底に、カウンセリング事例を織り交ぜながらより具体的に克服術を指南する。
■山下あきこ プロフィール
株式会社マインドフルネス代表取締役。内科医、産業医。脳神経内科専門医、抗加齢医学専門医、医学博士。アメリカ神経学会会員でもある。1999年に川崎医科大学を卒業し、同大学の総合診療部での研修を経て、福岡大学病院の脳神経内科に入局。米国フロリダのメイヨークリニックにて先端脳研究に携わり、パーキンソン病の研究で「MDS Young Scientist Award」(国際運動障害学会の優秀若手研究者向け賞)を受賞。日本に戻り一般の臨床内科医として活動したのち、健康を自分で作る社会を目指して病院を退職し、株式会社マインドフルヘルスを設立。「セブンアプローチ」を提供し、病気を治すのではなく、より健康で幸せに暮らせる社会を目指して活動。健康セミナーやビジネスセミナーなどを行い、行動変容を促す方法と正しい知識を提供している。企業研修の実績は、九州電力、NTT東日本、日清食品ホールディングス、JRサービスサポートその他多数。