5Gエリアの広げ方に現れる各キャリアの特徴
房野氏:一方でKDDIは、ネットワーク構築に関する説明会で、衛星干渉が緩和される仕組みの説明を行いました。
法林氏:スカパーの衛星と地上局間の通信で、5Gの周波数が干渉するのを回避する仕組みを入れたので、KDDI基地局からの電波が強く吹けるようになるという話。首都圏ではSub6で利用できる5Gのエリアが2倍近くまで拡げられるとのことです。
石川氏:KDDIは基地局数も多いし、Sub6の帯域幅も200MHzある。ソフトバンクは100MHzなので、今はソフトバンクの通信品質が1番と言われているけど、この先、どうなるか。
石野氏:ソフトバンクは、もともと4Gだった3.4GHzの周波数帯を5Gに転用している。KDDIは3.7GHzという、もともと5Gに近い周波数帯を転用して、まとめてn78として使っている。〝なんちゃって5G〟と呼ばれる中では、真の5Gに近いところを使って数を稼いでいる。
ソフトバンクは、衛星干渉があるから、3.7GHz帯が使いにくいことが5G化の前にわかっていたからスピード重視で 5Gを展開していた。KDDIは、先に転用で広げつつ、3.7GHz帯の基地局をどんどん仕込んでいって、衛星干渉が解消されるタイミングで出力を上げて、数を稼ぐ。
ソフトバンクとKDDIで拡大の仕方に戦略の違いが見られますが、共通しているのは4Gの周波数を5Gに転用して、まずは5Gのエリアを広げてから厚み(通信速度・品質)を持たせた。一方でドコモは、先に厚みを持たせる方向だった。そのため、4Gネットワークの上に5Gがピンポイントで乗っている形になっている。最近ドコモの通信がつながりにくいと評判が悪い理由は、こういうところにあるかなと思います。
石川氏:ドコモは、衛星に干渉しない4.5GHz帯を持っているので、そこで5Gを広げていけばよかったのに、もったいないよね。
石野氏:KDDIに、3.7GHzの出力を上げるとつながる面積が広がるので、その端っこでパケ詰まりが起こらないか? そう確認したら、先に面で周波数を転用したものでエリアを作って、5Gの3.7GHz帯を乗せてから出力を上げているので、端では、面で作った転用周波数帯の5Gに切り替えればいいだけとのことでした。 。
ドコモが同じことをすると面でエリアが作られてないので、5Gから4Gに落とさないといけなくなってシステム的に面倒なチューニングが必要になるし、一部の4Gの周波数帯はすでに容量がいっぱいいっぱいなので 、切り替えのしようがない。
石川氏:とりあえず面を作ったほうが5Gエリア構築に近づくというのは、以前にクアルコムが指摘していました。そういうノウハウが、ドコモにはなかったんですね。
法林氏:ドコモは、通信技術に長けている会社ではある。難しい技術を実装してもいるけれど、現場が問題点を指摘した時に、それがトップまできちんと伝わるかは別の話。NTTグループ全体がダメなのではなくて、問題を把握している人はいるけれど、それを上の人間がかみ砕いて対応できていない。
石川氏:決算資料を見ても、設備投資額はむしろ下がっていますからね。
石野氏:この先、不安しかないですよ。
石川氏:このタイミングで、まだ削るのかという感じだよね。
法林氏: KDDIはcdmaOne(2.5G)からCDMA2000(3G)移行するときもCDMA2000からCDMA 1x-EV-DO(3.5G)にステップアップするときも「パソコンの拡張ボードを差し替える程度の作業」と言っていた。一方で、ドコモがPDC(2G)からFOMA(3G)に移行する時は、ゼロからFOMAの基地局を作らなければならず、エリア構築で苦労した。すでにPDCで十分なエリアをカバーしていたため、ユーザーはエリアが狭いFOMAに乗り換えないし、いざFOMAへ切り替えても通話中に切れるといった不満がユーザーから出た。その問題を解決するために2Gと3Gが使えるデュアルモード機を作るかと思えば、たった1機種しか作らなかった。携帯電話技術には長けているけど、技術の世代が進む時のアプローチが以前から下手だったと改めて思います。
石野氏:今回は特に長引いている感じですよね。
法林氏:そうだね。当時よりもシステムは複雑化しているので、お金をかけたからといって解決するものではないし、時間もかかる。
石野氏:4Gの通信品質が良すぎたというのもあるというか、5Gへの移行を軽視していた気がする。強固な4Gエリアが構築できているから、トラフィックが必要なところに5G向けの設備を作っていけばいい、そんな甘い考えがあったと思う。
石川氏:でも、ドコモは3Gから4Gに切り替わる時に、同じようなことを言っていたよね。
法林氏:2Gから3Gの時も同じだよ。同じミスを繰り返している。
石野氏:同じなんですが、これだけスマートフォンが普及していて、スマートフォン以外の端末にも利用がますます広がろうとしている時代。4Gの浸透は3G以上なので、5G投資の初期戦略の見誤りが尾を引く度合いが大きい。
法林氏:パケ詰まりの問題が起きているのは昨年だけど、原因を探っていくと2020年、2021年あたりの、5Gサービスが始まった当初の設計から失敗をしていたということだね。
石野氏:昔は、ここまでトラフィックが多い端末もなかったので、リカバリーもしやすかったけれど、高トラフィックの端末がいたるところにある今だと、全国の基地局を見直さなければいけない。挽回の難易度は世代を経るごとに高くなっている。問題が連鎖的に出てきているので、全解決まではまだまだ時間がかかりそうです。
石川氏:ドコモがもたもたしている間に、KDDIは5Gの出力を上げる発表をしているし、KDDIとソフトバンクは5Gの次、6Gを視野に入れようとしています。出遅れたドコモは、使い放題プランをやめたほうがいいとすら思います。
……続く!
次回は、楽天の「最強家族プログラム」について会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦