「ネオガラパゴス音楽」の起源、日本独自の音楽の進化
マンガ・アニメ・日本食などの産業は音楽に10年先行して海外で成功を収めてきた。
農林水産省の推計によると、2013年に5万5000店だった海外の日本食レストラン店舗数は、2021年には約16万店舗とおよそ3倍に増加した。アニメの世界市場はここ10年で成長を続け、ついに海外比率が日本の需要と肩を並べた。米国で日本のマンガはアメコミを凌ぐ売上だ。
では、音楽はどうだろうか。
J-POPはここ数十年、洋楽の文化を取り入れた形で日本国内で消費されてきた。そもそも成り立ちとして「洋楽と一緒にラジオで流しても遜色ない」として成立したジャンル、という説もあるくらいだ。
日本の音楽が2010年代まで世界で受け入れられづらかったのはそういった背景がある。つまり、日本の「神秘の国」としての独自性を音楽は見失っていたのだ。
その中で登場した日本独自の新しい潮流こそ、ボカロ文化だ。2003年にヤマハが制作したこのソフトウェアは、歌詞とメロディを入力すれば楽曲のボーカルパートを制作でき、新しい音楽制作の形を提供した。ボカロで作曲する人はボカロPと呼ばれ、アングラ文化として何年もの期間、地下で力を貯めていた。その中で登場してきたアーティストこそ、米津玄師であり、YOASOBIであり、Adoなのである。
ボカロ文化の成長を支えたのは、ニコニコ動画の存在が大きいことも言及したい。2007年に登場したニコニコ動画は、動画作品を投稿・評価・共有する場として地位を確立し、コミュニティとしての側面を強く持ち合わせていた。
ボカロPが初音ミクに歌わせた作品をニコニコ動画に投稿し、それが沢山の人に見られ、評価され、共有される。そうやってボカロ文化は成長してきたのである、
このニコニコ動画とボカロ文化の蜜月関係をよく表わしたのが「ボカロはニコニコのものではない」というニコニコ動画代表のインタビュー記事である。現在、ニコニコ動画はボカロ音楽の発信地として、メインの潮流とは言えなくなってしまったが、今でも「ボカコレ」というボカロ用の祭りを開催するなど、その貢献が色褪せることはないだろう。
■2024年は「ネオガラパゴスな音楽」の重要なターニングポイントになる
日本独自の音楽として世界で存在感を増す、ボカロ文化。その代表としてYOASOBIと初音ミクが、世界最大の音楽イベント『Coachella』に参加する。
2024年は、日本の音楽が世界でどのようなポジショニングをすべきかがわかる、重要なターニングポイントなのかもしれない。そしてそれこそが、「ネオガラパゴス」として世界を熱狂させる、日本の音楽になるだろう。
文/ ホシカワハヤト
Googleに入社してアジアマーケットを担当した後に、THECOOでプロダクトマネージャーや事業責任者として活動。現在はサンフランシスコ在住。Xで『海外の日本エンタメトレンド』を発信中。X はこちら。