手塚治虫の代表作のひとつ『ブラック・ジャック』が『TEZUKA2023 ブラック・ジャック 機械の心臓─Heartbeat Mark II』という〝新作〟として、2023年11月に漫画誌『週刊少年チャンピオン』に掲載された。手がけたのは、手塚プロダクションを中心としたクリエイターとAI。制作のプロジェクトに携わった栗原 聡教授に、漫画制作におけるAI活用の最前線を聞いた。
慶應義塾大学理工学部管理工学科
栗原 聡教授
NTT基礎研究所、大阪大学、電気通信大学を経て現職。以前には、AIを活用して制作された手塚プロダクションによる世界初の漫画『ぱいどん』(講談社)にも参画した。
『TEZUKA2023 ブラック・ジャック〜』
栗原教授が開発した〝御用聞きのAI〟と、漫画のクリエイターが共同制作した、手塚治虫作『ブラック・ジャック』の新作。2023年6月に制作を開始し、5か月後に『週刊少年チャンピオン』(11月22日発売)で掲載された。現在も同プロジェクトのWebサイトなどで読める。
AI活用の試みは様々な領域で進んでいる。その波は漫画制作の現場にも及んでいた。栗原教授が漫画制作に初めて本格的に関わったのは、2020年のこと。機械学習やディープラーニングという言葉が浸透し始めた頃だ。
「その時は『ぱいどん』という作品で、2020年春に漫画誌『モーニング』(講談社)に掲載されました。当時は、自前で研究していたAIを活用しました」
その時に行なったのは、プロットとキャラクターデザインをAIに提案させるというもの。研究室で開発したAIに複数の案を生成させて、手塚プロダクションのクリエイター陣に渡すという流れ。クリエイターとAIのやりとりは、極めて限定的だった。
それに対して『TEZUKA2023 ブラック・ジャック~』はベースのツールとして「ChatGPT Plus」とともに画像生成AI「Stable Diffusion」を使用。本作に携わるクリエイター陣がAIとのやりとりを直接できる環境を整えたそうだ。
「どんなに優れたAIでも、効果的な回答を得られなければ意味がありません。そこで私たちが開発した、人とAIを仲介する〝御用聞きのAI〟を使いました」
原作『ブラック・ジャック』に関する200話分のテキストデータと、手塚治虫の描いたキャラクター2万枚の画像データを学習した〝御用聞きのAI〟が仲介役となることで、クリエイターはAIとの簡単なやりとりを通して、求める素材を生成できるという。
当初はプロットやシナリオ、キャラクター制作のみに使う予定だったが、シーン説明(ト書き)にも試験的に活用。漫画のコマの生成にも挑戦し、一定の成果を得たそうだ。もちろんAIの提案をそのまま使って完成させたわけではない。ストーリーも作画もAIの提案は参考にしつつ、最終的には人が手を加えて完成させたという。
「今後もAIは進化します。ただし、人が何かを作りたい意欲を持つことが必要。その時、AIが無駄な作業を代行するとともに、人の創造力を引き出してくれます」
AIの進化と同時に、使う人も進化できるかが問われそうだ。