理解されなかった味づくりのこだわり
味が完全に決まったのは2023年1月。ベースが固まってから半年以上を要した。
完成した味はフレッシュブーケと名付けられた。口に含んだ瞬間、フローラルの香りがふわっと広がり、ゆすぐと心地よいひんやり感とフレッシュで透明感のあるフルーティーな味わいが口いっぱいに広がる。
味づくりのこだわりはなかなか理解されなかった。研究開発本部サイエンティフィックエンゲージメント プリンシパルサイエンティストの水野紗耶香さんは次のように振り返る。
「今までは1回の試作検証で済んだところ、今回は味づくりに工数をかけたので、本国から疑問を呈されることもありました。しかし、味がキーになる以上は妥協できません。1回では済まず2回、3回と検証を重ねないとダメだということは、私たちから声をあげました。これは絶対に譲れなかったところです」
『リステリン 歯周マイルド』と他の『リステリン トータルケア』シリーズとの刺激の比較調査結果(KenvueによるExpert Panel Test[2022年11月実施]より)
『リステリン』のイメージが覆された
味以外で神経を使ったのが安定性。その理由の1つに、『リステリン』が透明なボトルを採用していることがあった。水野さんは次のように話す。
「ボトルが透明なので時間が経ってもクリアな液色をずっと保つ必要があり、その見え方にも気を使いました。医薬部外品ですので、厳しい基準を適用して安定性を確認しています。基準通りに安定性が担保されなければ発売できないので、スケジュール通りに発売できたときはホッとしました」
商品の最終評価として消費者調査を実施。味の評価については、他の『リステリン』よりも突出して高い結果となった。「今まで使ったことがないマウスウォッシュ」「いい意味でリステリンのイメージが覆された」といったコメントが得られた。
消費者調査は企画段階から数えると7回ほど行なった。「いつでも消費者の声を聞くようにしていました」と話す廣瀨さん。商品コンセプトの評価、味の方向性調査、決定した味のベースの評価、液色の評価、パッケージに貼るアテンションステッカーに盛り込むキーフレーズの評価、商品の最終評価、アテンションステッカーのデザイン決定と、節目ごとに実施してきた。
消費者コミュニケーションで「悪玉菌」を打ち出す
売れ行きは予想以上に推移しているが、販促は店頭での施策に重きを置いた。「見た瞬間、0.3秒で立ち止まって手に取ってもらい、最後には購入していただけることを意識しました」と廣瀨さん。目にすると同時に条件反射で購入してもらうべく、アテンションステッカーに大きく「新!」と打ち出した。
アテンションステッカーには「お口でストップ悪玉菌」というフレーズも盛り込んでいる。腸活でおなじみの「悪玉菌」と打ち出したのは、『リステリン』ブランド全体での消費者コミュニケーションを刷新したことと紐づいている。廣瀨さんは次のように話す。
「それまでは殺菌力にフォーカスした消費者コミュニケーションを実施しており、新型コロナ対策などで需要が喚起できました。しかし、2023年にコロナ禍が明けると、マウスウォッシュ市場が縮小しました。日本ではマウスウォッシュは“あったらいいもの”であり、“ないと困るもの”にはなれていません物価高が進むと“あったらいいもの”は真っ先に排除されるので、どうにか排除されず継続購入していただくために『悪玉菌』を打ち出すことにしました」
『リステリン 歯周マイルド』と他の『リステリン トータルケア』シリーズのアテンションステッカー。デザインは大きく異なるが、どちらも「お口でストップ悪玉菌」を訴求している
近年、口腔内の健康が全身の健康に影響する、とも言われており、マウスウォッシュは口腔内の殺菌に有効だとされている。歯周病などの原因菌を「悪玉菌」と位置づけ口全体や健康に関するマウスウォッシュの役割をわかりやすく伝えることに注力した。
2023年7月からテレビや店頭などあらゆるタッチポイントで「悪玉菌」と打ち出したところ、『リステリン』はマウスウォッシュ市場でシェアを伸ばし続けている。「悪玉菌」を打ち出すようになってからは売上が対前年比を上回るようになり、結果的にシェアを拡大した。
Kenvue
ブランドマネジメント部エッセンシャルヘルスアシスタントブランドマネジャー
廣瀨絵麻さん(右)
研究開発本部サイエンティフィックエンゲージメントプリンシパルサイエンティスト
水野紗耶香さん(左)
取材からわかった『リステリン トータルケア 歯周マイルド』のヒット要因3
1.消費者の声を丁寧に拾って反映
商品コンセプトをはじめ、味や商品全体の評価など、節目を迎えるたびに消費者調査を実施。繰り返し実施して丁寧に拾っていった消費者の声を商品に反映した。
2.妥協せずつくり込んだ
日本市場に特化した商品だが、開発は海外。英語でのコミュニケーションとなり、日本語の細かいニュアンスをきちんと理解してもらうことは容易ではなかったが、キーパーソンの力を得たことで理解してもらい、つくり込むことができた。途中で妥協していたら消費者の心は掴めなかっただろう。
3.体全体の健康を意識させることができた
ブランド全体で「悪玉菌」というキーワードを押し出すことにし、口腔内の健康の重要性とマウスウォッシュの役割を訴求。口腔ケアだけではなく健康管理の観点からも利用を促すことができた。
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『リステリン』はそれまで、年齢が高めの男性が使うイメージが強かったが、濃いピンク色という見た目からしてそれまでの『リステリン』とは大きくイメージを変えた。大胆なイメチェンが奏功した形だ。
日本での好調を背景に、今後アジアで販売される可能性もあるようだ。目標としている “Win in Japan,Lead globe.”の達成に動き始めた。
ブランドサイト
https://www.listerine-jp.com/
文/大沢裕司