毎日の歯みがきにマウスウォッシュをプラスしてオーラルケアをしている人もいることだろう。ただ、「口に含んだときの刺激が強い」「味が好きになれない」といった理由から、マウスウォッシュの使用が継続されないケースも多い。
マウスウォッシュブランド『リステリン®』をグローバルで展開するKenvue(ケンビュー)は、低刺激で日本人女性が好む味の『リステリン トータルケア 歯周マイルド』(以下、リステリン 歯周マイルド)を開発、2023年8月に発売した。Kenvueは米国のジョンソン・エンド・ジョンソンのコンシューマーヘルス事業が2023年5月にIPO(新規上場)を実施して発足した企業だ。
『リステリン 歯周マイルド』は口腔内菌の集合体であるバイオフィルムの中にまで浸透し、バイオフィルム内の悪玉菌(歯周病・虫歯・口臭の原因菌)を殺菌する機能(バイオ殺菌)はそのままに、日本で独自に開発した日本人女性が好む味を採用。刺激も『リステリン』史上最少級を実現した。これまでに40万個以上が販売されている。
容量は3種。写真の1000mLのほか、500mLと1500mLを揃えている
刺激と味に敏感な日本人
『リステリン』は現在、世界50か国以上で販売。日本では1985年から販売されており、マウスウォッシュでは国内ナンバー1の売上を誇っている(インテージSRI+ マウスウォッシュ市場2022年1-12月 主要シリーズ別金額シェア)。
『リステリン 歯周マイルド』の開発は、世帯浸透率を上げるという『リステリン』全体の課題に対応することを目的に、発売の約3年前から検討され誕生した。
「世帯浸透率が上がらないバリアになっていたのが、刺激の強さと味でした」
このように話すのは、ブランドマネジメント部 エッセンシャルヘルスアシスタントブランドマネジャーの廣瀨絵麻さん。これが理由で、30代、40代女性の支持がなかなか得られず日本で独自に味をつくることになった。
マウスウォッシュ未使用の30代、40代女性がマウスウォッシュ使わない理由(Kenvueによるマウスウォッシュに関する調査[n=354]、2022年9月)
『リステリン』の長い歴史の中でも日本で味をつくるのは初のこと。開発が始まった頃に入社した廣瀨さんはいきなり大役を任され「身が引き締まった」と振り返るが、同時に次のようなことも思った。
「日本法人には “Win in Japan,Lead globe.”という目標があります。日本で勝ちグローバルを引っ張っていくことが、このプロジェクトで体現できるかもしれません。日本で生まれた『リステリン』の新製品で世界をリードしていこうと皆が思いを一つにすることができました」
味づくりのキーパーソンは日本人のおじさん
30代、40代の日本人女性が好む味をつくるに当たっては、この世代に人気のある味を組み合わせることにした。調べた結果、好む味は人気がある順にミント系、フルーツ系、フローラル系となった。
研究開発を担うラボがあるシンガポールにいるフレーバリスト(調香師)と味づくりを進めることになったが、英語でコミュニケーションを取らなければならないことから、要望を汲み取ってもらうのが容易ではなかった。
「『ミント、フルーツ、フローラルで味をつくってください』とオーダーすると、パイナップルやハイビスカスといったインパクトの強い味が提案として挙がってきました」と振り返る廣瀨さん。「ほどよい甘さ」「えぐ味のない甘さ」といった細かいニュアンスを伝える適切な言葉が英語にはなく、意思疎通がうまく図れなかった。
そんなとき、キーパーソンになり得る人物を見つけた。その人はシンガポールのフレーバリストが所属する会社にいる日本人フレーバリスト。普段はイギリスにおり、このプロジェクトには関わっていなかったが、間に入ってもらい日本の要望を細かいニュアンス含めて伝えてもらうことにした。
廣瀨さんをはじめ日本のスタッフは、その人のことを親しみを込めて「おじさん」と呼ぶ。過去に『リステリン』のフレーバーをつくった経験があり、日本のチームからのリクエストをイギリスからシンガポールのフレーバリストに細かく伝えてもらった。
「おじさんが間に入ってくれるようになったことで、『甘ったるくない』といった日本語表現を、フレーバリストの間で使う専門用語に変換、翻訳し、シンガポールのフレーバリストに伝えることができるようになりました」と廣瀨さん。 シンガポールのフレーバリストの理解も一気に深まり、その後は具体的な味づくりが加速した。