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こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチわかりやすい法律解説を目指しています。
―― 取引先で大暴れした社員を解雇したんですって?
会社
「はい。取引先の従業員に『殺したる!』『仕返ししてやる!』と怒鳴ったり、フォークリフトで追いかけたりしたんです」
裁判所
「解雇はOK!自己中心的な行為といわざるを得ねぇ」
(株式会社大通事件:大阪地裁 H10.7.17)
以下、わかりやすく解説します。
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
▼ 会社
自動車貨物運送業を営んでいる
▼ Xさん
・仕事内容:フォークリフトの操作
・取引先の工場で仕事していた
どんな事件か
▼ 取引先の従業員に暴言 vol.1
―― 取引先のAさんにお聞きします。Xさんに何と言われたんですか?
Aさん
「Xさんは私がフォークリフトの操作を妨害していると感じたようで『ちょっと待て!嫌がらせしてるんか!誰かに頼まれてるんか?そっちを通ったらええやないか!』と怒鳴りながらフォークリフトを降りてきて、私の胸を小突いてきました」
―― そっから殴り合いですか?
Aさん
「いえ、私はXさんに『すまんな、気いつけるわ」と謝りました。そしてその場を去ろうとして手洗い場に向かったんですが、Xさんが『ちょっと待たんかい!」と怒鳴りながらフォークリフトで追ってきました」
―― あぶね!
Aさん
「Xさんはフォークリフトから降りて大声で『殺したろか!みんなに狙われてるぞ」と怒鳴り「オマエ病気あがりやからコレくらいにしといたろ」と言って、流し台を蹴ってブッ壊しました」
―― 取引先の工場内で大暴れしてますね……。
▼ 取引先の従業員に暴言 vol.2
―― お次はBさんにお伺いします。Xさんに何と言われたんですか?
Bさん
「私がXさんのトラックに近づいて『ええ車やなぁ』と言ったんです。すると、Xさんは大声で突然『オレ会社辞めてもいい。仕返しにくる』と怒鳴ってきたんです」
―― は?ナゾですね。
Bさん
「あと、その場を通りかかったC課長に対してもXさんは『あのヒゲの親父何とかせぇよ。俺は会社を辞めてもいい。アイツを殺したる!このままではおさまらん。必ず仕返ししてやる!俺は並の人間とは違う』と怒鳴りました」
▼ 1週間の休職処分
一連の事実を聞いた会社はXさんに1週間の休職処分を出します。その時の一幕は以下のとおりです。
Xさん
「なんで自分だけが処分されるのか。A社の人間も処分すべきでしょう」
常務
「得意先であるA社の人間を処分することはできない」
Xさん
「そんな一方的な処分あるかい。こんな会社やっていかれへんわ。そんな処分受けるくらいやったらもうこっちから辞めたる」
興奮したXさんは婚約者にTEL。
Xさん
「もう辞めるさかい、オマエも腹決めときや」
電話を切ったXさんは「もう辞めたるわ」と言って事務所を飛び出していきました。そして、翌日は出勤しませんでした。
▼ 謝罪
しかし、次の日、クールダウンしたのでしょう。Xさんは会社に「復職させてほしい。社長に会って謝りたい。A社にも謝罪したい」と詫びを入れてきました。しかし常務は「もう退職したことになっているので無理です」と断りました。
▼ 提訴
Xさんは提訴。言い分は「『会社を辞めたるわ!』は感情的になって売り言葉に買い言葉で言ったにすぎないので退職の意思表示ではない。解雇されたとするなら、んなもん無効だ」というものです。