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2024年2月27日、「2023年 日本の広告費」が発表されました。マスコミ四媒体、インターネット、プロモーションメディアの各広告市場の変化について、電通メディアイノベーションラボの北原利行が解説します。
北原利行さん
株式会社電通
電通メディアイノベーションラボ 研究主幹
「2023年 日本の広告費」の概要──人流に関わる業種を中心に広告需要が回復!
2023年(1~12月)における日本の総広告費は、前年比103.0%となる7兆3167億円でした。昨年、1947年に推定を開始して以来の過去最高値を更新する7兆1021億円を記録しましたが、それをさらに更新した形となります。
大きなトピックとしては、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の5類移行に伴い、人流が戻ったことが挙げられます。プロモーションメディア広告費の中でも、「イベント・展示・映像ほか」が大きく回復しました。また、コロナ禍で急速に進んだ社会のデジタル化を背景とするインターネット広告費の伸長も、市場全体をけん引しました。
※2019年からは、日本の広告費に「物販系ECプラットフォーム広告費」と「イベント領域」を追加し、広告市場の推定を行っていますが、2018年以前の遡及修正は行っていません。詳細は日本の広告費 ナレッジ&データをご参照ください。
2023年、上半期は新型コロナの5類移行に伴い、外出の増加、国内外の観光やリアルイベントなども活発化。人流が回復するに従い、関連する広告需要の回復が見られました。
下半期は、記録的な猛暑や中東問題などの影響を受けたものの、社会・経済活動は活発化し、交通やレジャー、外食サービスなど、人流に関わる業種を中心に広告需要が高まりました。
日本の広告費は大きく
「マスコミ四媒体広告費」
「インターネット広告費」
「プロモーションメディア広告費」
に分類しています。
総広告費におけるそれぞれの構成比は、マスコミ四媒体が31.7%、インターネットが45.5%、プロモーションメディアが22.8%です。
インターネット広告費は前年比107.8%の3兆3330億円と、前年より2418億円も増加しました。コネクテッドTV(インターネット回線へ接続されたテレビ端末)などの利用拡大に伴う動画広告の需要増加や、デジタル販促の積極的な市場拡大が追い風となりました。
また、「イベント・展示・映像ほか」というカテゴリーが前年比128.7%の3845億円と高い伸びを示し、プロモーションメディア広告費をけん引しているのが、2023年の大きな特徴でもあります。コロナ禍で開催中止や小規模開催となっていたイベントの復活に加え、複合型大型商業施設にも人流が戻り、さらにインバウンド需要も回復したことによります。ただし、コロナ禍以前の2019年の水準までは戻っていません。こちらについては後述します。
●マスコミ四媒体広告費
新聞、雑誌、ラジオ、テレビメディアのマスコミ四媒体広告費は、前年比96.6%の2兆3161億円でした。これらの広告費は、いずれも媒体費と制作費の合算です。マスコミ四媒体トータルでは、2年連続の減少です。
各メディアの前年比は、新聞が95.0%、雑誌が102.0%、ラジオが100.9%、地上波と衛星メディア関連を合わせたテレビメディアが96.3%で、雑誌広告費とラジオ広告費が増加しています。
●インターネット広告費
インターネット広告費(インターネット広告媒体費、インターネット広告制作費、物販系ECプラットフォーム広告費の合算)は、前年比107.8%の3兆3330億円と、引き続き広告市場拡大を大きくけん引しています。
中でも動画広告が引き続き好調で、市場全体の成長を支えています。インターネット広告媒体費の詳細は3月に別途発表します。
●プロモーションメディア広告費
前年比103.4%の1兆6676億円でした。新型コロナの5類移行などに伴い、中止されていたイベントの再開や拡大が進み、前述した通りイベント・展示・映像ほかの広告費が増加しています。加えて、人流が回復したことで、昨年に引き続き交通広告や屋外広告などの媒体もプラスとなり、プロモーションメディア全体の成長に寄与しています。
以下ではより細かく、カテゴリー別に解説していきます。
マスコミ四媒体広告費:雑誌広告費がプラスに転ずるも、全体では引き続き減少
●マスコミ四媒体広告費<新聞広告費>
新聞広告費は前年比95.0%の3512億円でした。2023ワールド・ベースボール・クラシックやラグビーワールドカップ2023などの大型スポーツイベントが開催されたものの、前年の北京2022冬季オリンピック・パラリンピックの反動減や物価上昇の影響もあり、通年では減少しました。
業種別では、交通・レジャーに関する広告費が前年比114.9%と前年に引き続き増加しました。もともと新聞では旅行・宿泊や交通業種における広告費が多い傾向があり、新型コロナ5類移行により、人流が前年以上に活発化したことが見て取れます。
基本的に官公庁・団体の業種において参議院・衆議院選挙は新聞広告にプラスの影響がありますが、2022年の第26回参議院議員通常選挙の反動減により、前年比82.4%となっています。
●マスコミ四媒体広告費<雑誌広告費>
雑誌広告費は前年比102.0%の1163億円と、やや伸長しました。
業種別でみると、新聞広告同様に交通・レジャーに加え、雑誌広告では大部分を占めるファッション・アクセサリーが増加しています。特にファッション・アクセサリーは、5類移行により外出機会が増えたことがプラスに作用したといえるでしょう。
なお、出版市場自体の減少は昨年から続いており、2023年の紙の出版物の推定販売金額は前年比94.0%でした(数字出典:出版科学研究所「出版指標」2024年1月号)。特に雑誌は前年比92.1%となっています。これに対して電子出版市場は同106.7%と引き続き成長しましたが、紙と電子をあわせた出版市場全体では前年比97.9%で、前年を下回りました。
●マスコミ四媒体広告費<ラジオ広告費>
ラジオ広告費は、通年で前年を上回り、前年比100.9%の1139億円でした。2020年から3年連続のプラス成長となっています。
業種別では、コロナ禍からの回復や外出・行楽需要の高まりによりファッション・アクセサリー、外食・各種サービスといった業種が伸長し、ラジオ広告費を押し上げています。
●マスコミ四媒体広告費<テレビメディア広告費>
テレビメディア広告費(地上波テレビ+衛星メディア関連)は、前年比96.3%の1兆7347億円。地上波テレビだけでいうと、前年比96.0%の1兆6095億円です。
2023年は、2023ワールド・ベースボール・クラシックやブダペスト2023世界陸上競技選手権大会、FIBA バスケットボール ワールドカップ 2023などの大型スポーツ大会や各種イベントが実施されました。
しかし、地上波テレビにおけるタイム広告費については、2022年の北京2022冬季オリンピック・パラリンピックや2022 FIFA ワールドカップ カタールなどの反動減を打ち消すまでには至りませんでした。
同じく地上波テレビのスポット広告費については、新型コロナの5類移行により、トラベル関連や映画の大型タイトルの出稿量が増えました。その結果、交通・レジャー広告も回復基調です。
目立つトピックとしては、10月1日から施行された酒税法改正に伴い、アルコール商品などの広告需要も好調でした。一方、地上波テレビ広告費の中で売上構成比の大きい情報・通信は低調でした。
インターネット広告費:社会のデジタル化を背景に、3兆円超えを維持
インターネット広告費は3兆3330億円。そのうち、媒体費は2兆6870億円でした。
円安や原材料高騰・物価高などの影響を受け、成長率自体は前年より鈍化したものの、急速に進む社会のデジタル化を背景に、引き続き大きな伸長が続いています。
中でも、動画サービスはコロナ禍をへて利用者・利用時間ともに増加傾向となり、動画広告の数字は大きく伸びています。
また、企業の販売促進活動におけるデジタル活用も進んでおり、デジタル販促の数字も伸長した結果、広告媒体費が全体的に伸びています。
●マスコミ四媒体由来のデジタル広告費
マスコミ四媒体の広告費が減少する中、電通の調査でも毎年注目しているのが、いわゆる「マスコミ四媒体由来のデジタル広告費」です。
テレビ局やラジオ局による、番組配信サービスや、新聞社が提供する電子新聞や出版社の雑誌のウェブサイトなどがこのカテゴリーになります。
マスコミ四媒体由来のデジタル広告は、マスコミ四媒体広告費ではなく、インターネット広告媒体費に含まれます。前年比106.9%の1294億円とプラスになりました。
●新聞デジタル広告費
「新聞デジタル」は、デジタル広告市場が成熟しつつあること、またクッキーレスの影響により、広告単価が伸び悩んでいます。動画広告へのシフトの動きもあり、これまで続いた成長トレンドから一転。前年比94.1%の208億円と、マイナス成長となりました。
●雑誌デジタル広告費
マスコミ四媒体由来のデジタル広告費のうち、特に市場が大きいのは「雑誌デジタル」です。1294億円のうち約半分、611億円を占めています。
出版社が展開する主要ウェブメディアのPVや、主要SNSのフォロワー数は堅調に推移しているほか、SNS内のコミュニティで商品開発やイベントを企画するなど、SNS内だけで完結するような広告企画なども出始めています。
紙媒体と連動したSNSキャンペーンなどは、出版社の得意とするところです。そういった出版社の培ってきたコンテンツ制作力、コミュニティ力を強みとした企画は、デジタルメディアとしても評価が高く、広告収益を支えています。
また、電子書籍では漫画の市場が一番大きいですが、漫画・アニメコンテンツのグローバル人気が高まる中、IP(知的財産)の海外輸出と広告配信による新収益の創出なども、今後進んでいくでしょう。
●ラジオデジタル広告費
「ラジオデジタル」の広告費は前年比127.3%の28億円と、こちらも前年に続き大きく伸長しています。
前年に引き続き、Podcastをはじめとする音声メディアでのデジタル展開が高い注目度を維持し、radikoを含むラジオデジタル広告への新規出稿数に増加の傾向が見られました。音声メディア全体の伸びしろに注目です。
●テレビメディアデジタル広告費
テレビメディアデジタルのうち、「テレビメディア関連動画広告」は443億円(同126.6%)と、前年に続き大きく増加しました。
テレビメディア関連動画広告というのは、テレビ番組の見逃し無料配信動画サービスなど、主にテレビメディア放送事業者によるインターネット動画配信での広告費を推定範囲としたものです。ドラマだけでなく、バラエティーやスポーツのライブ放送を楽しむ視聴者が増加していることが、このカテゴリーの広告費の伸長を後押ししています。
インターネットテレビサービスでも、恋愛リアリティーショーやドラマ、バラエティーに加え、スポーツ関連番組にも幅が広がるなど視聴者の選択肢も豊富になってきており、ユーザー数も着実に伸びています。一昨年、2022 FIFAワールドカップカタールが開催され、その中継を見るために増加した視聴者が根付いていることも大きいでしょう。
●物販系ECプラットフォーム
物販系ECプラットフォーム広告費は、前年比110.1%の2101億円と、インターネット広告費全体の伸び率(前年比107.8%)よりも高い伸びを示しています。
コロナ禍でECでの購買が定着したことにより、物販系ECプラットフォーム広告費は2桁成長を継続しています。コロナ禍前の2019年からの4年で市場規模がほぼ倍増しており、インターネット広告費の中でも成長が著しいカテゴリーです。
一方で、EC需要の活性化が徐々に落ち着き、主に巣ごもり特需として伸長した一部の商品カテゴリーは苦戦する結果となりました。
●インターネット広告制作費
新型コロナ5類移行に伴う消費活動の活性化を受け、インターネット広告制作の需要は前年から引き続き拡大しています。
制作物別では、ウェブ動画広告制作が、伸び率は鈍化しつつも引き続き拡大中。中でも動画サイトやアプリなどのコンテンツ内に表示される動画広告の制作数の拡大傾向は、維持されています。
一方で、広告制作費の単価が伸び悩んでいることもあり、インターネット広告制作費は前年比103.7%の4359億円と、他の媒体と比較してそれほど伸びない傾向がここ数年続いています。運用型広告の領域ではAI活用の動きも盛んになっており、今後に注目です。
詳細は3月に発表するインターネット広告費の解説をお待ちください。
プロモーションメディア広告費:人流回復で4年ぶりにプラス成長
この数年はコロナ禍による外出制限で落ち込んでいたプロモーションメディア広告費。2023年は前年比103.4%の1兆6676億円とプラス成長に回復しました。
●プロモーションメディア広告費<屋外広告、交通広告>
屋外広告は、前年比101.5%の2865億円と前年に続き伸長しています。都市部を中心に、ラグジュアリーブランド、エンターテインメントなどの業種に加え、飲料、アパレルなどさまざまな業種での需要が回復しました。特に、テレビ・デジタルでは到達しにくい若年層向けの商材での広告需要が高まっています。
屋外ビジョンのほか、大型で目立つOOH媒体の広告費が引き続き増大しています。1つの素材で各地に配信するネットワーク型のデジタルOOH媒体は多様な業種での活用が進み、大きく伸長しました。
人流が戻ってきたこともあり、交通広告も前年比108.3%の1473億円と増加しています。主要駅の構内に設置されたデジタルサイネージは引き続き需要が多くなっています。
空港は、新型コロナによる入国制限が撤廃されたことで、国際線の広告需要がデジタルサイネージを中心に大きく回復し、コロナ前の水準近くまでに復調しました。
タクシーでは、BtoB企業による積極的な出稿はひと段落したものの、高級消費財などでの活用も増え、前年と同程度の水準を保っています。
●プロモーションメディア広告費<折込、DM(ダイレクトメール)>
新聞の折込広告は、行動制限がなくなり増加が期待されたものの、経費や紙代の上昇が影響し、前年比97.1%の2576億円と減少しました。一方で、物価高騰による家計防衛策として、食品スーパーやドラッグストアなど、日用品を販売する流通・小売の出稿需要は高まっています。国による住宅リフォームの支援制度が始まったことから、リフォーム業種からの出稿需要も好調でした。
DMは前年比91.8%の3103億円です。新型コロナ5類移行に伴い、対面営業が復活したため、DMで代替されていた在宅向けやBtoB営業目的の需要が減少。また、印刷資材の高騰などもあり、前年に比べて大きく減少しました。一方、データマーケティングを活用したパーソナライズDMなどは評価を得ており、特に新型金融商品などへの期待も相まって、金融・保険系では増加傾向が見られました。
●プロモーションメディア広告費<フリーペーパー>
フリーペーパーは、前年比96.3%の1353億円と減少しています。人流が回復し、復調に転じた業種はあるものの、依然として新型コロナや物価高の影響により、発行部数や発行頻度は低下したままです。地域情報を主体としたフリーペーパーは、地域活性化などを担う媒体の一つとして回復しましたが、そもそもの発行部数が少ないことから、全体的な押し上げには至っていません。
●プロモーションメディア広告費<POP>
POPは前年比96.5%の1461億円です。新型コロナ5類移行に伴い、リアル店舗での商品体験に関しては、デジタルを融合したPOP広告などエンターテインメント性の高い施策も実施されていますが、まだ実証段階のものが多く、広告費を押し上げるまでには至っていません。
●プロモーションメディア広告費<イベント・展示・映像ほか>
前年比128.7%の3845億円と大きく増加しました。イベント領域においては、イベントの復活や大規模化、特にジャパンモビリティショー2023の開催による反動増が大きく寄与したと言えます。
リアルイベント自体は今後回復していくことが期待されますが、オンラインとのハイブリッド開催も定着しており、コロナ禍以前の水準に戻るにはまだ時間がかかるでしょう。
新型コロナが5類に移行。広告費はコロナ禍以前と同じ状態に戻るのか?
2023年は新型コロナ5類移行に伴って人流が大きく回復したこともあり、広告費も前年に引き続き増加、過去最高を記録しました。業種別では交通・レジャー、外食・各種サービスなどの広告費が前年より増加しています。
今年特に注目すべきは、イベント・展示会系の広告費です。コロナ禍に突入した2020年以降、減少が続いていましたが、新型コロナ5類移行となった2023年は前年比128.7%の3845億円と、大きく回復しました。
しかし、広告費で見ると、コロナ禍以前の2019年の水準(5677億円)には大きく及んでいません。これには、コロナ禍でオンラインイベントが普及し、人々の間に定着したことも大きく影響していると考えられます。
イベントは基本的に体験型のため、リアルでのコミュニケーションを求め戻ってくる顧客向けに、リアルイベントの開催需要が今後も回復していくことは確かです。一方で、いわゆるセミナー型のイベントなどであればオンラインのみ、もしくはリアルとオンラインを掛け合わせたハイブリッドでの開催も十分可能です。オンラインで開催した方が全国から人が集まり、トータルの参加者が増えるという側面もあり、今後もハイブリッド開催が続くと見込まれます。また、コロナ禍ではオンラインイベントだけでなく、リモートワークの普及もあり、交通広告も完全に元に戻っているとは言えません。
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以上のように、コロナ禍が明けても、以前の状態に戻るものと戻らないものがあり、日本の広告費にもそれが反映されています。ポストコロナ時代は、良くも悪くも「コロナ以前」とは別の世界になっていることは留意が必要です。
2023年日本の広告費を俯瞰(ふかん)すると、全体的にはマスコミ四媒体広告費は減少し、インターネット広告費が増加するという、コロナ禍以前の動きに戻っています。その中でも、マスコミ四媒体由来のデジタル広告費は引き続き伸長しています。見逃し無料配信動画サービスなど、インターネット動画の視聴者数が着実に伸びていることもあり、広告効果への期待が高まっている結果と言えるでしょう。
新型コロナ5類移行に伴い、ここ数年で大きく変わった社会で、何がどこまで元に戻るのか。新たなメディアのあり方と併せて、しばらく注視することが求められそうです。
「2023年 日本の広告費」詳細はこちら(電通ニュースリリース)。
※こちらの記事はウェブ電通報からの転載記事になります。