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身近だからこそ、とても大切。食卓から生まれるウェルビーイング考【後編】

2024.03.11

「インスタを見ているだけで癒し」と人気の料理家・麻生要一郎さん。フォロワーが4万3000人以上いる麻生さんのInstagramを見ると、麻生さんの食卓に集う仲間たちが、料理を食べながら、実家のようにくつろいでいる様子が垣間見える。麻生さんがいる空間そのものが、そこいる人のウエルビーイングになるのだろう。料理は大量の唐揚げのときもあれば、刺身の隣にシチューがあるなど決まりがないことが伝わってくる。新刊『365 僕のたべもの日記』(光文社)にも、その型にはまらない緩やかな空気は流れており、発売直後に重版決定。今、最も注目される料理家・麻生さんへのインタビューを行った。1回目では生い立ちについて、2回目は料理を中心に紹介していく。

前編はこちら

麻生要一郎(あそう・よういちろう) 1977年茨城県生まれ。建築会社勤務を経て、東京都新島(伊豆七島の一つ)の民宿『カフェ+宿 saro』主人として料理を担当。現在は家庭料理や食卓から、ライフスタイルを提案している。著書に『僕の献立:本日もお疲れ様でした』『僕のいたわり飯』(光文社)がある。

『365 僕のたべもの記』麻生要一郎著 光文社 2200円
1年間、毎日たべものにまつわることを、写真と共に紹介している。「集中力に欠けているから美味しくできなかった。そんな日もある、それも家庭の味だ」(3月15日)、「冷蔵庫の中の、早く食べねばと気がかりなものが消化されると、気持ちもすっきりする。何事もため込むのはよくない、という教え」(11月5日)など、読むと心にじわりとくる。

毎日30人分の食事を作る、民宿の主人の経験で得たこと

DIME WELLBEING(以下・D) 麻生さんが仕事として料理をするようになったのは、祖父が創業した会社の経営から抜けた後だったそうですね。

麻生要一郎(以下・麻生)いろんな縁が重なって、新島(伊豆七島のひとつ)の民宿運営に参画することになったんです。2009年の7月に開業ですから私が32歳の時です。ハイシーズンだと30人分くらい作るんですよ。ただ、宿の経営は春から秋にかけてのみ。オフシーズンは別の仕事をしていました。

前編で、母を看取る話をしましたが、母のがんの再発は、民宿のオフ中のことだったのです。僕が38歳の春に母は亡くなりました。

D 離島には食料品は船や飛行機で運ばれてきます。食材の調達も大変そうです。

麻生 島で調達できる食材は限られています。地元の野菜や魚の比重も高くなるでしょう。それらの食材が「よそいき」の料理……例えば、フレンチやイタリアンなどの文脈に乗らない可能性もあります。

そうなると、宿の料理は自ずと家庭料理になりますよね。いろんな嗜好を持つ人、連泊する人、住み込みのスタッフさんなどに対応しやすいのも家庭料理です。

やがて、毎回の食事が家族だんらんのようになっていき、その宿が訪れる人の実家のような役割を果たすようになっていました。僕は共働きの一人っ子で、大人数で食卓を囲む経験をしたことがなかった。一緒にみんなで同じものを食べていると、心に生じた不満やトゲのようなものが落ちていくことが伝わってくるんです。

そういう変化を感じていると、僕にとっての料理は、食べる人のものであり、僕の自己表現の手段ではないということ。あくまでのコミュニケーションなんですよ。

無機質な空間で、弁当を食べていたら涙が出た

D SNSの発達とともに、入手困難な料理がもてはやされるようになりました。数年先まで予約が取れないお店などが話題になっています。麻生さんの料理もある意味、「予約が取れない」文脈で語られる可能性もありますが、そうはなっていません。

麻生 人との繋がりの中で、「たまたまそこにある料理と空間」だからでしょうね。家庭料理は、承認欲求から離れた営みのひとつなんです。それを痛感したのは、母を看取った後に、実家の片付けをしていた最終日のことです。

その日は、朝から何も食べずに作業して、夜になっていました。食べに出ようとしたら、花火大会と重なっていたんです。飲食店には長蛇の列ができていました。自分で作るにしても、明け渡しを控え、ガスも水道も止めてしまっていました。

仕方がないので、コンビニでお弁当を買って来たんです。それをがらんどうの実家で食べたときに、無性に悲しくなってしまって。コンビニの弁当は美味しいですし、僕の性格を考えても、どんなときも食事を楽しめるタイプなのに、無機質な空間で、ポツンと孤独に食べていると、涙が出そうになった。

それと同時に、こういう日々を暮らしている人は僕が思うより多いんじゃないかと。人と食べたり、自分で作ったりする食事の機会が増えれば、世の中のウェルビーイングは上がるのではないかと思ったのです。

食卓には、そこに集う人の好物が乗せられる。

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