超売り手市場と言われる、エンジニアをはじめとするIT系職種の経験者。特に引く手あまたの職種に従事していた人、あるいはこれから従事する人となると、転職の前後でどれほど給与がアップするのだろうか?
パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda」はこのほど、「IT職種の転職前後の平均年収レポート」を発表した。
IT職種における転職前後の平均年収の実態
2023年1-6月に「doda」のエージェントサービスを利用して転職した個人全体の平均決定年収は451万円だったのに対し、「技術職(SE・インフラエンジニア・Webエンジニア)」(以下、IT職種)に転職した人の平均決定年収は477万円となった。さらに、転職前後の年収変化をみても、転職後に給与が上がった人の割合は、全体が約6割だったのに対し、「IT職種」は約7割と全体より大きくなっている【図1】。
このように「IT職種」が転職によって年収アップする傾向にあるのは、IT人材不足で採用難易度がさらに高まる昨今、給与水準を見直し改善することで、離職防止や採用力強化を狙う企業が増えたためだと考えられる。現に、転職サービス「doda」が発表する転職求人倍率では、「IT職種」の倍率が2022年後半から10倍を超えはじめ、2023年12月には過去最高の13倍を超えた※ことからも、採用競争が激化している様子が伺える。
※doda 転職求人倍率レポートの「エンジニア(IT・通信)」を参照
IT職種経験者で、転職前後の平均年収増加幅が大きいポジション1位は「セキュリティエンジニア」
「IT職種」経験者のうち、どのポジションに転職した人の平均決定年収が高いかを見たところ、1位は「セキュリティエンジニア」で+67万円となった。2位に「ITコンサルタント」(+64万円)、3位に「データサイエンティスト」(+50万円)が続く【表1】。
「セキュリティエンジニア」は、情報セキュリティのスペシャリストとして、サイバー攻撃やシステム障害による情報漏えいなどを未然に防げるよう、セキュリティシステムの提案や設計・構築を行うポジションだ。DX推進やIoT化などの技術革新により、企業では仮想サーバーやクラウドで情報を管理するケースが増加し、サイバーリスクに晒される可能性も高まった。
そのため、どのようにセキュリティレベルを上げるか、対策を講じるべきかを考える「セキュリティエンジニア」の需要が伸びている。しかし、「セキュリティエンジニア」の経験者は少なく、企業は採用競争力を高めるべく決定年収を引き上げている。結果、年収増加幅が最も大きくなったと考えられる。
「ITコンサルタント」は、ITシステムの導入、開発、リニューアルなどIT領域全般に関するコンサルティングを担っている。昨今、業種を問わず企業からコンサルティング会社へDX推進に関する相談が増えているため、コンサルティング会社は即戦力となる人材を採用するべく、決定年収を引き上げていることが年収アップにつながったと見ている。なお、ポジション別の平均決定年収額では「ITコンサルタント」が1位となった。
これは、コンサルがプロジェクトの上流工程を担当すること、また、現場経験を数年積んでから転職することが多く、もともとの年収水準が高いためだろう。
「データサイエンティスト」は、主に、ビッグデータの解析をすることで、経営に役立つ情報を発見し、課題解決に貢献するポジションだ。業務の効率化や顧客体験価値を高めるヒントを得るべく、IoT化により蓄積されたデータを活かしたい企業が増え、こうしたスキルを持つ「データサイエンティスト」に注目が集まっている。比較的新しい職種であることから、貴重な経験者に対して需要が集中しており、各社が採用成功に向けて、決定年収を引き上げているといえるだろう。