賃金改善の理由として「労働力の定着・確保」が75.3%へ増加
2024年度に賃金改善が「ある」企業に、その理由を聞いたところ、人手不足などによる「労働力の定着・確保」が75.3%(複数回答、以下同)と最も高かった。
また、昨年の調査から問うている「従業員の生活を支えるため」は63.7%だった。前回よりは低下したものの、依然として6割を超える水準となっている。
さらに、飲食料品などの生活必需品の値上げが響いている「物価動向」(51.6%)は前回より5.9ポイント減少したものの、引き続き半数超の企業が理由としてあげていた。
また、今回初めて質問した「採用力の強化」(35.8%)が4番目にあげられており、賃金改善を通じて採用活動へのプラス効果を期待している状況が考えられる。
以下、「自社の業績拡大」(26.1%)、「同業他社の賃金動向」(25.3%)が続いた。
■賃金を改善しない理由は「自社の業績低迷」が56.3%でトップ
他方、賃金改善が「ない」企業にその理由を尋ねたところ、「自社の業績低迷」が56.3%(複数回答、以下同)と2023年度見込み同様に最も高くなった。
また、「物価動向」(17.8%)は賃金改善を行う理由でも上位にあげられた一方で、物価上昇が賃金改善を行えない状況をもたらしていたことも考えられる。
以下、新規採用増や定年延長にともなう人件費・労務費の増加などの「人的投資の増強」(13.6%)、「同業他社の賃金動向」(13.3%)、「内部留保の増強」(11.2%)が続いた。
■総人件費は平均4.32%増加見込み、従業員給与は平均4.16%増と試算
2024年度の自社の総人件費が2023年度と比較してどの程度変動すると見込むかを尋ねたところ、「増加」(1)を見込んでいる企業は、72.1%と前年比で2.5ポイント増加していた。
一方、「減少」すると見込む企業は5.3%(前年比0.5ポイント減)となった。その結果、総人件費の増加率は前年度から平均4.32%増加すると見込まれる。そのうち従業員の給与は平均4.16%、賞与は平均4.04%それぞれ増加、さらに各種手当などを含む福利厚生費も平均4.06%増加すると試算される。
また、大企業において、総人件費の増加率が3%以上とした企業は52.6%(前年比5.0ポイント増)、中小企業でも総人件費の増加幅が3%以上の企業は54.9%(同4.1ポイント増)となった。
(1)「増加」(「減少」)は、「20%以上増加(減少)」「10%以上20%未満増加(減少)」「5%以上10%未満増加(減少)」「3%以上5%未満増加(減少)」「1%以上3%未満増加(減少)」の合計
デフレからの脱却と経済の正常化に向けた動きが加速する?
2024年は賃金と物価の好循環が達成されるか否かに大きな注目が集まっている。デフレから脱却するとともに、長く続いた非伝統的な金融政策であるマイナス金利政策の解除など、経済の正常化に向けた動きが一段と加速すると予測される。
こうしたなか政府は、政労使が一致して賃上げを行う環境を整えようとしている。
本調査によると、2024年度に賃上げを見込む企業は59.7%と、2007年以降で最も高い水準となった。特に、ベースアップにより賃上げを進めようとする企業が半数を超えており、賃金の基礎的な上昇傾向が表れてきた。
2023年度の実績では企業の74.4%が賃上げを実施しており、2024年度は最終的に同年度をさらに上回ることが期待される。
総人件費も企業の72.1%と7割超の企業が増加を見込み、金額ベースでも約4.32%と調査開始以降で最も高い上昇を想定している。
2024年度は賃金改善に上向きの傾向がみられるが、賃金改善が「ある」と見込む理由では、引き続き「労働力の定着・確保」が最も多く7割を超える。さらに、非正社員においても企業の約3割で賃金改善が「ある」と見込んでいた。
今後の景気回復には継続的な賃上げが欠かせない。しかしながら、とりわけ従業員数が5人以下の企業で厳しい見込みとなっており、賃上げの動きが小・零細企業へ広がるかどうかがカギを握る。
国内外においてさまざまなリスク要因が山積しているが、バブル崩壊以降30年あまり続いてきた日本経済の沈滞感を払拭するためにも、生産性をさらに高めて賃金の上昇を進めることが重要となる。
調査概要
調査期間/2024年1月18日~1月31日
調査対象/全国2万7308社
有効回答企業/1万1431社(回答率41.9%)
賃金に関する調査は2006年1月以降、毎年1月に実施して今回で19回目
関連情報
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p240206.html
構成/清水眞希