卸売の売上高が半分にまで急減
SNSでは「スノーピークは直営店を増やしすぎたのではないか?」という声が聞こえきます。しかし、2023年12月末時点の直営店は35。1年間で店舗数は変わっていません。
ポイントは、店舗が増えていないのに直営店の売上高は増加していること。2022年12月期の44.4億円から46.5億円へと4.7%増えました。
■スノーピーク国内販売チャネル別売上高
※決算説明資料より
すなわち、直営店に足を運ぶようなコアなスノーピークファンは、積極的に商品を購入しているのです。ファン離れが加速しているとは言えず、直営店の拡大そのものが失敗だったとは言えません。
上のグラフで注目したいのが、キャンプ用品店などへのディーラー卸金額の急落です。100.8億円から52.3億円へと半減しています。2023年10-12月に至っては、24億円から9.8億円へと6割も減少しました。
キャンプ用品店へと足を運ぶ、一般的なキャンパーの需要減退が業績に急ブレーキがかかった主要因なのです。実際、スノーピークの中でもビギナー向けのカテゴリーの売上高は2割減少しています。
国内エントリー製品は縮小に向かう?
ここがスノーピークの業績立て直しの結節点となるでしょう。
スノーピークは2月20日にアメリカの投資ファンド、ベインキャピタル支援のもとでMBOを行うと発表しました。MBOとは経営陣が流通する株式を買い取ること。主に上場企業で行われ、スノーピークはMBOによって非上場化を目指しています。
関係者以外の株主を排除し、経営の意志決定のスピードを上げて事業整理や成長投資を実施。企業価値が高まった(業績を立て直した)時点で、再上場やM&Aを行います。
スノーピークは非上場後、ビギナー向けの製品開発体制を改めてエントリー部門を縮小し、人員を整理した上で滞留した在庫の評価損を計上。スリム化を図ることで利益率の向上を目指すのではないでしょうか。
現在、スノーピークポイント会員は90万人います。根強いファンがついているため、いつまでも減収が続くとは考えられません。スノーピークが公表したMBOの意見表明においても、非上場後の経営方針として「顧客のLTV向上」が掲げられています。
LTVとは顧客生涯価値のこと。顧客1人当たりの購入頻度や購入額を高め続け、生涯価値を引き上げる方針を指します。
国内事業の整理によって止血することはできそうです。ただし、固定ファンだけでビジネスを拡大することはできません。増収に向けた新市場の獲得が必要です。
巨大市場の中国で勝者となることができるか
注目の市場が中国でしょう。
中国も日本と同様、コロナ禍でキャンプブームが起こりました。iiMedia Research(艾媒諮詢)の調査によると、2021年の中国キャンプ市場は前年比62.5%増の748億元。1元20円換算で1兆5,000億円に上ります。
矢野経済研究所の調査では、日本国内のキャンプの市場規模はおよそ4,500億円。中国はその3倍以上の規模があるのです。
万が一、日本のように成長に急ブレーキがかかったとしても、中国で事業展開する価値は十分にある魅力的なマーケットです。
スノーピークはすでに中国には進出済み。2024年1月末時点で旗艦店2店舗、インショップを15店舗出店しています。今後、更に4店舗の追加オープンを予定しています。
日本貿易振興機構の調査によると、中国のテントの価格帯は200~10,000元(4,000円~200,000円)。日本と大差はありません。
ただし、問題点があります。日本が中国でキャンプ用品を販売する場合、関税と日本の消費税に相当する課税がかかり、販売事業者の手数料が上乗せされるため、中国メーカーの同クオリティの製品よりも割高になってしまうのです。
スノーピークが得意とする、アフターサービス面でも海外市場であれば、手薄になるでしょう。日本で販売している製品をそのまま中国に持ち込んで競争するのは難しく、ローカライズした新製品の開発が欠かせません。
それをやり切れるかどうかが、苦境を抜け出す分水嶺となるでしょう。
取材・文/不破聡