■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、災害時の通信キャリアの対策について会議します。
能登半島地震で4社が合同で記者会見
房野氏:1月18日に「令和6年能登半島地震」における携帯電話サービスの復旧対応に関する共同会見がありました。ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社が共同で記者会見し、復旧に向けた各社の取り組みを説明しました。
石川氏:4社共同というのが、ちょっと気持ち悪いなと思った。総務省に言われてやった、みたいな話を聞いています。復旧も本来であれば競争軸だったはずなんだけど、そうじゃなくなってきたことに戸惑いを感じるというキャリア関係者もいました。でも一方で、燃料を融通し合うとか、一緒に船を出すとかってこともやっている。
石野氏:あとはローミングですね。
石川氏:非常時の事業者間ローミングをやろうとしている。4社合同でやるのであれば、復旧作業もみんなで一緒にやった方が効率的なんじゃないのかとも思いました。災害時に広域で携帯電話を使えなくなったのなら、じゃあドコモはこの地点を集中してやって、KDDIはこの地点、ソフトバンクはここ、楽天モバイルはここっていう感じで復旧させてローミングでつなぎましょう、という感じでやる方が良いんじゃないかと思う。今回のように4社体制で記者会見をやるくらいなら、これからはもっと分担してやっていくような仕組みづくりがあってもいいんじゃないのかなとは、ちょっと思いました。
石野氏:という内容を、某媒体で原稿にしました(笑) あそこまで4社で揃えて、一斉に「応急復旧しました」、質疑応答で「ドコモさんに同じです」「KDDIさんに同じです」みたいな回答をされると、うーん……と。広い能登半島でいろいろなところに移動できないなら、この地点、この地点、この地点……みたいな感じで各社が分担して復旧に努めるのがいいんじゃないかと。まだ、楽天モバイルには若干荷が重いような気はしますけど……
石川氏:楽天にはまだ無理だけど……でもやっぱり避難所の支援は重複してると思うんですよ。2つのキャリアが「充電器を持っていきますよ」「Starlink持って行きますよ」っていうようなことで無駄な部分もあると思う。だったら地域ごとに分担してもいいんじゃないかな。そういうタイミングに来ているんじゃないのかなっていう気がしました。
法林氏:僕は全然違う意見だな。4社が共同で会見をしたことは基本的に良いと思います。通信は社会基盤なので、それを4社が担っているのであれば、4社が「共同でこれをやってます」「発電機に使う燃料を相互に融通しています」「一緒に船上基地局を運用していました」っていうことは、僕は全然問題ないと思う。あの会見は一般向けにやっているのではなくてメディア向けにやっているので、各キャリアが個別に4回、会見をやることを考えれば、まとめてやるのは全然OKだと思う。
ビジネスとして競争していくことに関しては、それはまた別次元の話。4社それぞれ「うちはここまで早く復旧できた」「うちはここまで来た」みたいなことはある。楽天の三木谷さんがSNSで「うちはそろそろ目途が立ちそうだ」と投稿していたけれど、「能登半島の楽天モバイルの独自エリアはほんのわずかじゃないですか」って、ツッコみたくなったけど。エリア展開と、エリア復旧のためにみんながこうやって作業していますということに関しての話は別。4社が共同で会見をして、お互いに融通し合いましたということをメディアに対して伝えて、メディアはそれをちゃんと正しく伝えることが大事。
石野氏:緊急時に競争するのはどうなんだっていう話もありますね。今回、最も遅いところは応急復旧に2週間ぐらいかかり、まだまだ完全復旧はされていない。道路が途絶しちゃって行けないとなると、そこに4社が集うのは本当にいいのかっていうと、それが渋滞の原因になっちゃいますし。今回、ドコモとKDDIは一緒に船に乗って電波を吹き、ソフトバンクとKDDIは共同で給油し、広い意味で言うと楽天モバイルがKDDIのローミングエリアに沿って復旧したところが結構ある。というか、能登半島の楽天モバイルのカバーエリアを見ると、陸地に近いところしかカバーしてない。たぶん輪島市の一部くらいしかカバーしていない。広い半島のほとんどを、KDDIのローミングでサービス提供しているような状態で、auが復活したら楽天モバイルも復活した。もしそれが楽天の独自エリアになっていたとしたら、そこにKDDIと楽天モバイルの2社で乗り込んでいくのかって考えると、ちょっと微妙だし効率も良くない気がするんですよね。
総務省で非常時の事業者間ローミングについて検討されていますけれど、あれは基本的に4社中、2社か3社がつながらなくなった場合、無事な2社なり1社がネットワークを貸しましょうという話になっていて、全社不通になった状況はあまり想定されてないような気がします。代表でローミングするなり復旧にあたることを検討してもいいのかな思いました。当然、容量の問題はある。例えば楽天モバイルがエリアを復旧させたとして、そこにドコモのユーザーがドンと乗っかってきた場合、楽天のネットワークが負荷に耐えられるのかっていう問題もあると思いますが、キャパシティや技術的なところ、運用できるのかとか、そういうところも含めて事業者間ローミングをやってほしいなと思いました。今回、そこまで協力するんだったら。
石川氏:船上基地局にしても、NTTの船にドコモとKDDIだけ乗っていることも……
石野氏:どうなんだろうなって思いますよね。まぁ、事前にNTTとKDDIが協定を結んでいたためでもあるんですけど。
法林氏:それはもともと2社が災害対策の協定を結んでいたんだから、しかたない。長崎と沖縄ともう一箇所に作業ベースがあって、災害が起きてから機材を積むまでに3日を要している。現地に行く人たちの準備は2社個別でやったそうです。あとは、実際にアンテナを付けた時に、どちらの向きに合わせるのか、みたいな話もあって、いろいろ考えなきゃいけないこともあるようです。言い出したらキリがなくて、例えばソフトバンクはドローン基地局を上げたけど、なぜソフトバンクの電波だけ吹いているのか、みたいな話になっちゃう。だから、やっぱり、ネットワークについては4社が個別に対策するのが基本で、災害対策や復旧について連携できるところは連携する。会見は4回やるよりも1回で済ませたってことは間違っていないと思っている。
災害の対応に関しては全然問題ないと思うけれど、その先に考えなきゃいけないことと一緒にしちゃいけない。例えば、能登半島や瀬戸内海の島々といったエリアをカバーする場合、インフラシェアリングしましょうよっていうのは、もちろん議論としてある。それと災害の話を全部ごっちゃにして話すのは間違っていると思います。災害対策は各社が責任もってやらなきゃいけないこととして定義されているので、やらなきゃダメ。
房野氏:能登半島の通信ネットワークは特殊な条件だったんですか?
法林氏:いや、特殊じゃないと思います。ただ、今回は電柱などだけでなく、管路も壊れた。
房野氏:管路というのは?
法林氏:トンネルですね。小さいのも大きいのもある。水道管とかも含めて壊れたそうですね。地面があんなに隆起したら、そりゃ壊れる。それをどうやって直していくのかという話になる。当然、共同でまた管路を作るけれど、じゃあ誰がやるのか、みたいな話に当然になる。
房野氏:管路ってどのくらいの長さになるんでしょうか。
法林氏:何キロ、何十キロとかいうレベル。
房野氏:能登半島全域にあるんでしょうか。
法林氏:たぶん、本来は各都市に通っていたと思います。
石野氏:基地局があるところから通信設備に通っている。最終的にコアネットワークに持っていかなきゃいけないので、通信設備同士や基地局があるところに通っています。
房野氏:その管理はNTTがやっているんですか?
石野氏:NTT西日本がやっている。
石川氏:NTTは本来、そこをきっちり直さなきゃいけないのだろうけど、この先、元通りに人が戻ってこられるのかわからない。たぶん頭を悩ませているんじゃないかな。
法林氏:NTT法の話、広くあまねく電話サービスを提供する話に結びついてくる。NTT法が廃止されたら「儲からないからやりません」とか「今度親会社になった他国の株主は、光ファイバーはいらないと言っている」とか言いかねないから、だからNTT法を廃止することはダメだと言っているんです。
房野氏:今回、復興予算はNTTがファイバーを整備する費用などに注入されるのでしょうか。
法林氏:いや、会社の持分でやると思います。4社で共同のトンネルみたいなものを作る可能性はあるかもしれませんが、その所有権を誰が持つのかは、また各社の競争軸。基本的に、光ファイバー網を引いているのは、石川県だったらNTT西日本。NTT西日本が持っている予算の中でやるしかない。それをひっくり返して、「いや、共同でやるんでしょ?」と言うんだったら、NTT法関連の話でも出てくる光ファイバー網の管理会社みたいなものを作ってやるしかない。そのためには業界の構造を根底からひっくり返すことになる。「じゃあ明日からやりましょう」という話ではない。今回の本格復旧を難しくしているものに雪もある。地震がどこで起きるのかわかりませんけど、北陸だけじゃなくて、もっと北の方の日本海側で地震が起こって、豪雪で基地局に入っていけなくなることは起こりえる。その障壁を乗り越えて、ネットワークを作っていかなければならないのが携帯電話会社であり通信会社。
石川氏:NTTとしては「光回線を引くんじゃなくてStarlinkでいいんじゃないの?」っていうようなところに持っていきたいんだろうなと思います。2023年の夏からのNTT法の議論もまさにそこで、ルーラルエリアでサービスを提供するには、光ファイバー敷設にお金をかけるよりも、Starlinkをポンと置いて、そこに基地局を建てて、市外局番で使える電話サービスを提供すればいいんじゃないのか、というような話になってくると思う。これからそういった議論になっていくんじゃないかな。災害対応としてもそうだし、地方は人もどんどん減っていくので。
石野氏:各社、あまり言ってませんが、衛星エントランスで応急復旧したところも多い。ドコモやKDDIはそれもあって応急復旧が早かったらしいんですけど、たぶん、Starlink基地局とそうじゃない普通の静止衛星基地局とで、応急復旧のクオリティに差があるような気がするんですよね。まぁ、そんなに一斉にたくさんの人がつなぐようなエリアは少ないとは思いますが。
石川氏:人が少ないエリアだから足りているんじゃないのかなっていう気もするよなぁ。
石野氏:被災した人のXの投稿で興味深いなと思ったものがあって、やっぱりKDDIの応急復旧が早かったと。ソフトバンクは圏外になり、ドコモもダメで、KDDIだけが通信できたということで、その場でpovoをeSIM契約したという強者もいましたね。
房野氏:ソフトバンクはドローン基地局を上げていましたね。
石川氏:ドローンを飛ばしたって言っていたけれど、質疑応答でそれが役に立ったのかを聞いたんですよ。役に立ったとの答えをもらったけれど、ちょっと怪しいなと思って(笑)
石野氏:ドローン基地局は電波を吹ける範囲がそんなに広くないんですよ。
石川氏:広くないし、ドローンはうるさいでしょ。前から思っていたけれど、上空を飛んでいたらうるさい。避難所の上空で24時間ドローンが飛んでいたらイライラするでしょう。なので、たぶん、そんなに役立ってないんじゃないかなって気がする。
石野氏:通信の役には立つけれど、安眠を阻害しそう。
石川氏:あと、飛ばせる場所が限られてるという話もあった。
法林氏:自治体が認めている場所でしか飛ばせない。今回も飛ばせない場所があったと言っていた。
石川氏:ソフトバンクは新しい技術を導入しようと、気球での基地局もやっているけど、気球は運用に人がいっぱい必要で効率が悪いだろう思ったし、厳しいんじゃないのかなと思った。
石野氏:HAPS(High Altitude Platform Station:基地局設備を搭載して成層圏で飛ばす無人航空機)待ちかなって気もしますね。