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シナジーとは?基本知識を解説
ビジネスシーンでは、『シナジー』という言葉をよく見聞きします。大体の意味は理解できても、正しい使い方が分からない人もいるのではないでしょうか?意味や語源、対義語など、シナジーの基礎知識を解説します。
■元は薬学や物理学などでの「相乗効果」を意味する
『シナジー(synergy)』とは、相互作用によって機能や効果が高まること、すなわち『相乗効果』を意味します。元は、薬学や物理学などで使われる専門用語の一つでしたが、近年はビジネスの分野でも多く使われています。
ビジネスにおけるシナジーとは、複数の企業や事業、部署の統合および連携により、単独で動くときよりも高い効果や価値が生み出されることです。どちらか片方だけが利益を得る、または1+1以上の価値が生み出されない場合は、シナジーとはいえません。
■反対の意味を持つ言葉は「アナジー」
シナジーの対義語は、マイナスの相乗効果を意味する『アナジー(anergy)』です。
多くの業界では、シナジーの創出を目的とした業務提携や企業買収、事業の多角化が行なわれています。しかし、必ずしもシナジーが発揮されるとは限らず、以下のようなアナジーが生まれるケースが珍しくありません。
- 売り上げが減少する
- 想定外の経費が増える
- 優秀な人材やキーパーソンが離職する
- 長年の顧客や取引先が離れる
アナジーは、『マイナスシナジー』や『ネガティブシナジー』、『負のシナジー』とも呼ばれます。
代表的なシナジーの種類と意味
シナジーにはさまざまな種類があります。代表的なシナジーとして、『販売シナジー』『経営(マネジメント)シナジー』『投資シナジー』の三つを紹介します。
■物流や生産の共有による「販売シナジー」
販売シナジーとは、流通経路・販売組織・生産拠点(設備)などの共有によって生み出される相乗効果です。
例えば、関西エリアを基盤とするA社と九州エリアを基盤とするB社が協力関係を築いた場合、自社の商品をより広いエリアで販売できるようになります。各社の顧客情報を共有して、クロスセルやアップセルを仕掛ければ、顧客単価の向上も期待できるでしょう。
A社とB社が共同で仕入れをした場合は、価格交渉力が強化され、ボリュームディスカウントが実現します。さらに、倉庫・物流・在庫管理システムを共有すれば、コストの削減や業務の効率化も可能になるはずです。
■ノウハウ共有による「経営(マネジメント)シナジー」
経営(マネジメント)シナジーとは、経営層や管理層が持つノウハウの共有によって生み出される相乗効果です。
長年の事業経営で培ってきた知恵やノウハウを出し合えば、より優れた経営戦略を策定できる可能性があります。経営シナジーにより、赤字企業が黒字回復を遂げた事例も少なくありません。
新たな業界に参入する場合、ゼロから事業を構築しようとすると、膨大な時間や労力がかかります。業界で一定の成果を上げている企業の戦略を活用できれば、スピーディーな事業展開が実現するでしょう。
■技術の共有による「投資シナジー」
投資シナジーは、各社がそれぞれの経営資源を投資することで獲得できる相乗効果です。『経営資源』とは、ヒト・モノ・カネ・情報などを指します。
例えば、新商品の研究開発に際し、複数の企業が自社の技術・ノウハウ・人材を持ち寄れば、これまでにない商品が生み出される可能性が高まります。
近年は、プロダクト・ライフサイクルの短縮化が進んでいるため、商品の開発や改良はスピーディーに行なわなければなりません。投資シナジーが発揮されれば、優れた商品をいち早く世に送り出せるうえ、費用の分担によって、1社当たりのコスト負担が軽減されます。
シナジーを生み出す方法
企業がシナジーを生み出す方法には、『業務提携』『M&A』『多角化戦略』などがあります。それぞれの特徴やメリットを見ていきましょう。
■他社との業務提携
業務提携とは、2社以上の企業が業務上の協力関係を築くことです。M&Aや資本提携と違い、資本の移動は伴いません。互いが独立した状態を保つため、契約・解消が比較的容易です。代表的な業務提携には、以下のようなものがあります。
- 技術提携:ライセンス契約や共同開発契約による技術面の提携
- 生産提携:製造委託契約などによる生産面の提携
- 販売提携:販売店契約や代理店契約などによる販売面の提携
- その他の提携:仕入れ・流通・調達における提携
なお、資本の移動を伴う業務提携は『資本業務提携』と呼ばれます。単なる業務提携よりも、企業間の結び付きが強くなるのが特徴です。
■経営資源と人的資本を得られるM&A
M&Aは、Mergers and Acquisitionsの略称で、『企業の合併と買収』を意味します。
合併とは、二つ以上の企業が統合され、一つの法人格になることです。組織再編を目的に、グループ企業内で合併が行なわれるケースも珍しくありません。合併の際、会社を新たに設立するかどうかによって、『新設合併』と『吸収合併』に区別されます。
買収とは、企業から経営権や事業を買い取ることです。一昔前までは、会社の乗っ取りやハゲタカのイメージがありましたが、近年は経営戦略や成長戦略の一つと見なす企業が増えています。スキーム(手法)は、『株式取得』『事業譲渡』『会社分割』に大別されます。
M&Aは、時間をお金で買う行為です。他社のビジネスモデルや人的資本をそのまま取り込めるため、新規事業や既存事業の拡大にかかる時間を短縮できます。戦略的なM&Aは、大きなシナジーを生み出すでしょう。
■事業を増やす多角化戦略
多角化戦略とは、収益の拡大やリスクの分散などを目的に、事業の柱を増やすことです。事業の組み合わせによっては、さまざまなシナジーが期待できるでしょう。主な形態は、以下の通りです。
- 水平型:既存技術を使い、既存事業と関連のある領域で事業を行なう
- 垂直型:既存事業の川上または川下で事業を行う
- 集中型:既存技術を既存事業と関連の少ない市場で生かす
- 集成型:既存技術や既存事業に関連のない市場に参入する
既存の技術や流通経路を活用できる『水平型』は、シナジーが見込めるうえに、資金の負担が抑えられるのがメリットです。
全く新しい市場に参入する『集成型』は、収益の拡大が狙える可能性が高いですが、多くの資金を必要とします。ハイリスク・ハイリターンの戦略といえるでしょう。
シナジーを活用する際のポイント
シナジーを期待してビジネスを展開しても、アナジーが生まれる可能性があります。アナジーを排除し、想定した以上のシナジーを獲得するには、どのような施策が必要なのでしょうか?
■自社の価値を把握する
シナジーは、相手企業との協力関係の下で発揮されるものです。パートナーを探すうえでは、自社にどのような価値があるのかをしっかりと認識していなければなりません。
業務提携やM&Aに際し、相手企業からはさまざまな質問がなされるため、他社にはない強みやノウハウ、経営資源を洗い出しておく必要があります。
自社の価値や相手企業の価値を把握できていない場合、想定していたシナジーが得られないばかりか、思わぬリスクによって損失が出る恐れがあるでしょう。
■どんなリスクがあるか予測する
組織や事業の統合には、リスクが伴います。得られるシナジーだけでなく、どのようなリスクがあるかを予測し、予想される損失の回避や軽減を図ることが肝要です。
例えば、M&Aで他社を買収する場合、売り手企業の『簿外債務』を見落とすケースがあります。簿外債務とは、未払いの残業代や賞与引当金といった、貸借対照表に記載されない債務です。
組織や事業が統合された後は、新体制になじめない従業員が増える可能性があります。キーパーソンや優秀な人材が離職してしまった場合、想定していたシナジーを得られないかもしれません。
また、業務提携やM&Aを実施する前から、社内外に情報が漏れる恐れがあるため、社内の情報管理体制を見直す必要もあります。
構成/編集部