世界40か国65都市のネットワークを展開するコンサルティングファームのベイン・アンド・カンパニー(以下ベイン)から、『Global M&A Report 2024』が発行された。
2023年のグローバル全体でのM&A取引額は、ここ10年で最も低水準となり、前年比マイナス15%の3.2兆ドルを記録するなど、本稿では、その内容の一部をお伝えしていく。
2023年のM&A市場
テクノロジー関連のディール額が約45%低下したことが最大の要因となり、ストラテジックディールが減少した。一方で、エネルギーやヘルスケアセクターは複数の大規模ディールに支えられ好調となった。
年の後半からメガディールが増え始め、ディールメーカーにとって良い兆しも捉えられるようになった。ディールを頻繁に行った企業と消極的になった企業との差が広がった年となり、前者は市場が停滞する中でもディール活動を継続していた。
M&Aを積極的に実行している企業は、そうでない企業を上回る総株主利回りを実現しており、この差は広がり続けている。
■変化する規制環境
過去2年間にグローバル全体で発表されたM&Aの内、少なくとも3610億ドル分のディールは規制当局の審査対象になっている。
最終的に成立した2550億ドル相当のディールのほぼ全件で改善措置が求められた。規制当局の審査対象になったディールは、大半は成立に至った一方で審査結果が出るまでに平均で12か月を要し、ディールの期間が大幅に長期化した。
変化する規制環境の中でも上手く立ち回っている企業は、徹底的なデューデリジェンスを通じてディールの仮説を検証し、承認獲得までの紆余曲折に耐えうるシナリオを用意している。
■生成AIを活用したディール実行
ベインが約300社のM&A活動を調査したところ、現在ディールプロセスで生成AIを活用していると答えた企業は16%、今後3年以内に導入予定と答えた企業は80%だった。
アーリーアダプターは、ディール機会の洗い出しやデューデリジェンスのデータ評価などM&Aの初期プロセスの効率化に生成AIを活用している。
これらの企業の85%は、生成AIのパフォーマンスは期待通りまたは期待を上回っていると回答しており、78%は従業員の負荷を減らし生産性を改善できたと答えている。
同時に、データの正確性、プライバシー、サイバーセキュリティ関連のリスクが主な懸念点だと指摘し、生成AIをM&Aに活用する際の課題として挙げている。
生成AIを最大限活用するためには、競争優位性に繋がる効率化の機会を特定し、早い段階でその領域に投資することが肝要だ。生成AIを適切な用途に早期に導入することが、正しい活用の定着と、将来大きな成果を創出するための基盤となる。
日本におけるトレンド
ベイン東京オフィスのパートナーである大原 崇氏は次のようにコメントしている。
「2023年はグローバル全体でのM&A活動が縮小する中、日本における取引額は前年比23%増の1230億ドルと主要国の中ではいち早い回復トレンドを示し、足元でも非常に活発なディール環境となっています。
プライベート・エクイティのディール件数及び取引額は歴史的な高水準にあり、2023年の後半にかけて、事業会社によるディールも大きく拡大しています。事業会社のディール拡大の背景には、企業価値向上にむけてM&Aを含む大胆な投資に目を向ける企業が増えていることがあります。
日本企業、とくに複数事業を抱えるコングロマリットにとっては、収益性・競争力に欠ける非コア事業の売却、M&Aを通じたコア事業の強化は極めて重要な経営アジェンダです。
手元のキャッシュが積みあがる中、また、『PBR1倍』を合言葉とした、政府・規制当局のプレッシャー、アクティビストファンドが先導する『正しく投資しないなら還元せよ』という資本市場からの圧力が強まる中で、M&Aにより積極的に取り組む企業が増えてきています。
一方、M&Aの価値を最大化する上では、経験を積み、その経験を正しく組織知にしていく工夫が重要です」
構成/清水眞希