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岩谷技研が挑む気球による「週末宇宙遊覧フライト」の可能性

2024.02.09

宇宙を旅する岩谷技研の気球はココが凄い!

宇宙遊覧フライトでは当然「気球」で宇宙を目指すわけだが、我々がどんな気球にどのように乗り込むのか、いまいちピンとこない。ここでは、岩谷技研が独自に作り上げた『気球』について詳しく紹介しよう。

地上から打ち上げられるのは上の写真のような気球だが、実際に我々が乗り込むのは特殊プラスチック製の2人乗り気密キャビン。ここに参加者とパイロットが搭乗する。

(気密キャビン)

【気密キャビンの特徴】

・骨格設計や気密構造に数々の特許技術が使用され、機内の気圧変化は旅客機より小さく飛行時の振動や揺れは新幹線より小さい。
・宇宙船としては極めて大きな直径160cmのドーム型窓を備え、壮大な宇宙の姿を遊覧することができる。

このキャビンが、宇宙空間に近い環境の高度25kmの成層圏に辿り着くという。

ここで断っておくが、厳密に「宇宙」とは高度100km以上と定義されており、気球が到達するのは成層圏と呼ばれる高高度の領域。高度25kmは地球軌道や月面の環境とは厳密には微小な差はあるものの、真空・低温・無酸素のため人間にとっては宇宙とほぼ同じ環境だという。

――宇宙遊覧フライトのスケジュールは?

「高度25kmに到達するのに約2時間、1時間ほど宇宙の眺めを楽しんで地上に帰還する、往復で合計約4時間の旅となります。この旅では見慣れた青い空が徐々に宇宙の暗さになっていく様子をじっくりと眺めてもらうのはもちろん、気球は音も一切なく、ほとんど加速を感じることもなく上昇するので、乗り心地も抜群なんです」

(高度25km地点からの地球)

この経験はロケットでは絶対に味わえない、気球ならではのもの。まさに画期的な宇宙ツアーといえよう。

旅の魅力は分かった。では、安全性についてはどうなのだろうか。

「気球で一番怖いのはガスが抜けて墜落することですが、私たちの気球は万一ガスが抜けた場合、気球自体が巨大なパラシュートに変形するように設計されています。そのため、たとえガスが抜けても、いきなり墜落ということはまず起きません」

「加えて、搭乗するキャビン自体にもパラシュートは設置されており、キャビン単独で軟着陸が可能です。更に個々の乗員用のパラシュートも用意されていて、いざという時はキャビンから脱出することもできるなど複数の安全装置を兼ね備えています」

そして、よく聞かれる質問の一つに「気球が割れたらどうするのですか?」というものがあるという。その答えはこうだ。

「気球にどれだけの負荷がかかると、どのようなプロセスで割れるのか?を確かめるため、限界を超えるまで気球を膨らませて、わざと破裂させる実験をくりかえし実施しています。その結果、気球の形状や構造も日々進化し、現在では気球がいきなり破裂するようなことはまず起きないと自信を持って断言できるほど洗練されたものになっています」

宇宙の民主化へ。気球での宇宙遊覧は未来を変える

非日常だった宇宙が気球によって「日常」になる日がすぐそこまで来ている。そんな気球宇宙遊覧のメリットを聞いた。

「まず何よりも身体に負荷がかからないことです。猛烈な勢いで加速して僅か数分で宇宙に到達するロケットとは異なり、ヘリウムガスの浮力のみでゆっくりと上昇する気球は動いていることすら殆ど感じません。これにより、従来のロケットでは搭乗がほぼ不可能だった子供からお年寄りまで誰でも搭乗できますし、宇宙が見える高さまで連れていくことが可能になります」

「次に経済性と安全性。ロケットと比べ低コストで宇宙を見に行けますし、気球の推進力となるヘリウムガスは火をつけても全く燃えないくらい安定した物質なのでロケットのような爆発事故も起きません。ロケットよりはるかに構造が単純な気球は自動車や飛行機のような身近な乗り物と同レベルか、それ以上の安全性を実現できます」

現状、参加費用は2400万円。今後は打ち上げられる人数や回数を増やすことで200万円台にしたいという。

そしてもう一つの気球のメリット、「青い地球を長く体感できる」。

「一般的なロケットによる弾道飛行のフライト時間は僅か数分ですが、気球による宇宙遊覧のフライト時間は約4時間。青くて丸い地球を見下ろすことができる時間はたっぷり1時間以上あります。ゆっくりと宇宙の眺めを楽しむことができる気球での宇宙遊覧は、それまでとは全く異なる宇宙体験になることは間違いありません」

未知なる宇宙体験は、今年の夏以降に実現するとのこと。それに向けて今、着々と準備が進められている。

「今年初めはお客様をお乗せするものと同型の2人乗りキャビン「T-10 EARTHER」を実際に飛行試験で運用しながら、問題点を徹底的に洗い出し改良を重ねる予定です。同時にパイロットのトレーニングを繰り返しオペレーションの練度を上げていきます」

「そして4月頃を目処に目標高度の25kmに有人で到達する予定。その後、飛行実験を繰り返し、運用面や安全面の最終的な確認を済ませていきます。7月以降はいよいよお客様を実際に乗せて成層圏までお連れする、コマーシャル・フライトを開始する予定です」

幼い頃に買って貰った「宇宙ステーション」の絵本で心躍らせ、頭上の宇宙という広大な未知の世界に憧れた岩谷氏の夢が、まもなく実現しようとしている。

限られた人にしか許されなかった、「地球の外から地球を眺めるという体験」を世界中の多くの人に提供しようと突き進んできた。そんな岩谷技研が今後目指すものとは?

「気球に乗るお客様だけではなく、様々な産業や企業も含めて宇宙という場所に多くの方に関わって欲しいと思っています。これまで国家プロジェクトや一部の限られた人や企業だけのものだった宇宙が、全ての人に開かれた場所になっていく、そんな「宇宙の民主化」を進めていきたいですね」

今年の夏以降に搭乗予定のメンバーは既に選出済み。今後、気軽な宇宙遊覧を楽しんでみたい方は是非チェックして欲しい!

取材協力
株式会社岩谷技研

文/太田ポーシャ

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