流通する魚はほぼ全て外来種。しかし外来種=悪というイメージの定着には懸念
松本 本記事の中で私が思わず目を留めてしまったのが、安直に放流された生体が野外で生き延び、繁殖して生じる問題の「捕食」「競合」「交雑」の3点について触れていた部分でした。
これまでにも観賞魚を飼い切れずに安易に放流したり、スポーツフィッシング目的で意図的にバスを放流する人の存在が問題視されていますが、そうした、間違った生き物の扱い方が横行した結果、外来種などの定着が問題視され、販売が禁じられるなどの事態に及んでいます。
このような、一部の飼い主の放流が招いたであろう定着化によって生体が一部販売できなくなる事態を、観賞魚を販売する立場としてはどう捉えていらっしゃいますか?
笠間さん 生体が一部販売できなくなる、という事態は、すなわちアクアリウムから選択肢が一つ消える、ということです。
アクアリウムという趣味を長きにわたって存続させるためには、飼育可能な魚種の選択肢は多ければ多いほど豊かなものになると弊社では考えています。
もし放流や逸出により、例えばグッピーが規制され、シクリッドが規制され、プレコが規制され……とさらに規制が強くなれば、いずれアクアリウムという趣味そのものが縮小してしまうという残念なことになりかねません。
このような事態を避け、将来への選択肢を可能な限り多く残すためにも、私たち販売店からの啓蒙活動はとても重要と考えます。
アクアリウムにおいて流通する観賞魚は、言ってしまえばほぼ全てが外来種です。
販売店側こそがしっかりと外来種による影響とリスクを発信して、とにかく”放流はいけない”ということをより多くの人に知ってもらうことが、今後重要になっていくと考えています。
一方で外来種と言えど、記事中にもある通り「人の手で適切に飼育管理されている」限りは、アクアリウムを楽しむためには無くてはならない存在です。
管理の手を離れた時にはじめて悪影響を与えることになるのであって、外来種=悪という図式は、あまりにも安直すぎると考えています。
適切に飼育管理されている限りは、外来種は有害な存在ではありません。
弊社としては、管理を離れてしまった外来種が悪影響を及ぼすということを認知して頂くこともとても重要なことと考えています。
昨今においてすべての外来種を安直に悪とみなす風潮も醸成されつつあるのは、やや心配なところですが、今後の未来にアクアリウムを楽しめる環境を残していくためにもこういった啓蒙活動を行っていきたいと考えます。
2023年はアメリカザリガニの販売が終了!チャームに影響はあった?
松本 これは以前から気になっていた、非常に個人的な質問となってしまうのですが……最近になって環境省によってアカミミガメ・アメリカザリガニの販売が制限され、放流も禁止となってしまいました。
これについてはアメリカザリガニがまさに上記3点の要素のうち、「捕食」と「競合」を複合しており、アカミミガメになると3点全て兼ね備えていることから、妥当な措置と考えています。
一方で私の周りの愛好家からは「これでザリガニをショップから購入できなくなった」と嘆く人の声も出ているところですが、チャームさまにおかれましては規制後、アメリカザリガニやアカミミガメを販売できなくなった影響はございましたでしょうか?
笠間さん 弊社では今のところ、両種が販売できなくなったことによる大きな影響はございません。
アカミミガメ、アメリカザリガニ共に、ペットジャンルとしてはそれぞれ「水棲カメ」、「ザリガニ」というカテゴリーの入門種という位置づけでした。
入門種の選択肢が減るということは、その生き物を初めて飼育したいという方も減ってしまいます。そうなると『水棲カメ』を愛好する人が減っていき、用品やエサのような関連する商品も売れなくなります。
関連用品が売れなくなると、メーカー様は商品を生産しなくなる、用品も選択肢が減ってくる……とどんどん飼育するためのハードルそのものが上がってしまい、さらに飼育者が減ってしまうという悪循環になってしまうことが危惧されます。
今は影響が小さくともこれからじわじわと影響が大きくなっていくと予想しています。
アメリカザリガニに関しては規制以前、「タイゴースト」「ブラックキング」など品種改良が盛んなカテゴリーでしたが、ジャンルごとアクアリウムショップからは消滅する結果となりました。
(規制以前にチャームで購入していた青ザリガニ。美しく人気だったが現在は販売不可)
愛好家にとっては大変残念な、大きな衝撃を与える結果になってしまいました。
規制前から飼育していた個体は引き続き飼育可能ではあるものの、以前のような品種改良の発展や、イベント開催による愛好家同士の交流は、今後はもう望めないでしょう。
ザリガニやアカミミガメに限らず全ての生物に共通して言えることではありますが、特に「捕食」「競合」「交雑」への影響が大きいと予想される分類群の生物においては、より一層取扱いに注意し、適切に飼育管理しなければなりません。
さもなくば、ザリガニのように“カテゴリーごと消滅してしまう”事態が、改良メダカやグッピーなどの他の生物でも起こる可能性があります。
品種改良に真剣に取り組んでいた愛好家にとってこれ以上、悔やんでも悔やみきれないことはないと思います。
特にアメリカザリガニについては、
・品種改良が盛んになる以前から「生態系被害防止外来種」のリストに名を連ねており、悪影響が問題視されていたこと。
・アメリカザリガニが規制される少し前に、単為生殖が可能なザリガニ「ミステリー・クレイフィッシュ」が野外で発見される事例が起きたこと。
この2点が立て続けに起きたことが、アクアリウムにおけるザリガニというジャンルにとどめを刺したと考えています。
アメリカザリガニが元々属していた「生態系被害防止外来種」のリスト内には、アクアリウムでもよく目にする種として「アカヒレ」「ゼブラダニオ」「グッピー」などが既に名を連ねています。
ザリガニ以外の愛好家にとっても、これは対岸の火事ではありません。
これ以上、飼育できる魚種、ジャンルを減らさないためにも、弊社でも啓蒙活動を行っていきたいと考えています。