今、さまざまな業界から熱視線を集める「マイクロ波加熱」という技術がある。マイクロ波化学が産業利用に成功し、モノづくりの世界を根本的に変えようとしている。代表取締役社長CEOの吉野巌氏に詳しい話を聞くと、ビジネスの驚くべきビジョンが見えてきた。
専門的な領域だが、私たちの生活に直結するビジネスをわかりやすく解説する。
マイクロ波で化学に100年ぶりのイノベーション
食品、衣類、医薬品や電化製品…あらゆる製品の素材、原料を作っているのが化学の力だ。ふだんは目立たないが、古くから私たちの生活を支えている産業。しかし、製品のめざましい進化に対して、基盤となる化学産業は「100年以上も大きなイノベーションがなかった」と、吉野氏は指摘する。
巨大な工場を建設し、石油や石炭を燃やし、たくさんのエネルギーを消費する重厚長大な体質が、19世紀から変わっていないという趣旨だ。同社はそんな化学の世界に、独自開発の「マイクロ波加熱」でイノベーションを起こそうとしている。
マイクロ波は、電子レンジでも利用される電磁波の一種で、狙った物質にだけ直接エネルギーを伝達し、熱を加えることができる。
ガスコンロで調理するときは、鍋やフライパンを通して間接的に物体へ熱を加えるが、電子レンジなら温めたい食品だけ温められる。チンした食品がアツアツでも容器は平気で触れる、といった経験はないだろうか? これは、物質に直接エネルギーを伝えるマイクロ波特有の現象。
しかも、電子レンジは調理が速い。鍋やフライパンを通して、炎や電気で温めるより、ずっと効率よくモノを熱することができるわけだ。