今後検討が多いのは「シニアのキャリアチェンジ」「新戦略実行」「新規事業」のための知識・スキル獲得
実施企業中、成果実感がある企業の割合を図表4の縦軸に、実施検討中の企業数を横軸に示し、縦軸を50%、横軸を50社で便宜上区切り、4つのエリアに分けた。円の大きさは現在実施している企業数を表している。
左上エリアは、今後も安定運用される<定着施策>となることが考えられ、「1.現在の担当業務の生産性を向上するための知識・スキル獲得」が該当する。
右上エリアは、実施企業が増え成果の見通しもある<トレンド施策>といえ、「10.社内・グループ内の公募異動や副業制度などを通じたキャリアチェンジのためのスキル獲得」が該当する。
右下エリアは、今後実施意向の企業が多いが難度の高い<注力施策>といえ、「11.役職定年後または定年後のシニア層のキャリアチェンジのためのスキル獲得」「2.既存事業において新しい戦略を実行するための知識・スキル獲得」「5.新規事業やイノベーション創出のための知識・スキル獲得」などが該当する。
⇒個人のキャリアや事業の転換につながる取り組みが本格化していくと見られるが、成果実感につなげるには一層の工夫が求められそうである。
左下エリアは、今後の継続・導入の必要性を慎重に検討すべき<要点検施策>といえる。
「リスキリング」の推進課題は非財務的戦略シナリオと学ぶべきスキルの特定。「学び直し」の推進課題は支援環境づくり
会社主導の「リスキリング」と個人主導の「学び直し」を、どのような対象に求めているか尋ねたところ、そのパターンから4タイプが見出された。
企画・推進上の課題認識は、「リスキリング」「学び直し」のいずれにおいても、「15.従業員の学ぶ意欲を引き出すことが難しい」「16.従業員が学ぶ時間の確保が難しい」の選択率が高い。推進対象も方法も幅広い<全方位型>の課題感が強い。
従業員に「リスキリング」を求める<全方位型>、<キャリア別使い分け型>では「3.財務的目標を達成していく上での、非財務的な戦略シナリオが具体的でない」「5.学ぶべき具体的な能力・スキルを特定することが難しい」の選択率が高い。
⇒これらは「学び直し」中心の<個人主導型>では選択率が低く、「リスキリング」推進の要点と考えられる。
<個人主導型>では「学び直し」の推進課題として、「18.社員がお互いに学び、高め合う風土づくりが難しい」「20.自社内のキャリアパスの可視化・明示が難しい」「21.部下の能力開発・キャリア開発に対する管理職の意識が低い」など支援環境づくりの選択率が高い。
⇒意識や行動の個人差を埋める施策や個人の学びと自社内のキャリアパスとのつながりを示す施策が求められており、管理職の意識改革が必要とされている。
成果実感の有無は関与する部署により違いが見られる
「リスキリング」の各施策(図表3)のうち導入割合の高かった【生産性向上】(図表3の1)、【DX】(図表3の6)、【キャリア自律】(図表3の12)を取り上げ、成果実感の有無で群分けをして、1~11の企画・推進プロセスそれぞれに各部署・機能が関与している割合に統計的に有意な差が見られた場合にポイント差を記載している。
【生産性向上】については、戦略策定の最上流工程とスキル開発目標の具体化・すり合わせに、「2.本社人事企画部門」、「3.本社人材開発・育成部門」、「4.事業部人事・HRBP」といった人事機能が関与することが成果実感の有無を分けている可能性がある。
【DX】については、「1.経営・事業責任者」が、学んだスキルを発揮する実践の場の提供まで責任を持つことが重要といえる。また、「3.本社人材開発・育成部門」と「4.事業部人事・HRBP」による、新しい戦略や技術と業務プロセスやスキル要件や学習目標の接続から支援環境づくりまで一貫した連携が有効と考えられる。
【キャリア自律】については、「3.本社人材開発・育成部門」の関与に差が見られ、個人のためと企業のためという学習の文脈の接続が成果実感を分ける可能性がある。