企業依頼が多いアナログ印刷、人気の理由は「感性に届く」
大阪府堺市に本社を置く株式会社 羽車(はぐるま)は1918年(大正7年)創業、2024年10月に105周年を迎える老舗の封筒・紙製品メーカー。
企業向けに名刺や封筒、パッケージなど、そのブランディングを支援するデザイン性が高い紙製品を提案・製造する中で、「古い機械」から生まれる温かさのある紙製品が好調だという。
それがアナログ感のある活版印刷による製品。同社は昔ながらの印刷技術である活版印刷(レタープレス)を提供し続けており、この数年の昭和・平成レトロブームのなかで活版印刷の人気は衰えることなく、個人や企業を問わず、多くの注文依頼があるとのことだ。
■活版印刷とは
活版印刷は活字を組んだ凸版にインクをのせ、垂直に圧をかけるハンコの原理の印刷方法で、世界三大発明の一つ(1450年頃 グーテンベルク(独))。
日本では1960~70年代まで主要な印刷手法だったが、その後オフセット印刷などの台頭により衰退していった。
しかし1900年頃よりデジタルデータから樹脂の印刷版を作成。イラストやロゴなど自由なデザインを印刷して楽しむ「レタープレス」がアメリカ東海岸で流行。日本を含め世界に広がっており、羽車でも、この樹脂版による活版印刷を採用している。
■魅力は「感性に訴えるレトロな温かさ」
活版印刷で印刷された名刺
同社によれば、活版印刷は紙や書体にこだわる個人ユーザーに人気があるという。その温かさは今も変わることなく、個人のセンスを引き立てる。
そして同じように多くの企業が名刺、案内状、パッケージ等に活版印刷を導入して、カスタムオーダーの販促品や商品パッケージ等に利用している。
ただし活版印刷機は現在製造されていないため、50年以上前のマシンしか存在しない。シンプルな構造ゆえ、作業には人の感覚によるアナログな調整が必要だ。
同社でも経験豊かなスタッフが、紙の素材や印刷内容によって微妙な調整をしているが、インクの濃度や圧の違いによってインクのムラや凹みの強弱が生まれるため、常に同じ仕上がりにはならない。
■18年前から始まった羽車の活版印刷
羽車ではプラテン機と呼ばれる活版印刷機を15台所有。 女性を含む20~50代のスタッフ15名がアナログ印刷に携わっている。
羽車では2006年より活版印刷のサービスを提供している。それまで活版印刷機は所有していなかったが、廃業が決まった印刷会社より活版歴50年超の職人が愛着ある活版印刷機とともに入社。印刷担当スタッフは、初歩から活版印刷を教わりながら事業はスタートした。
その後、一台、また一台と活版印刷機が増えスタッフの技術も向上。職人の技術と機械の充実と併せ、多くの人が気軽に活版印刷を楽しめる環境も整えてきた。
活版印刷機は50~60年前の機械だが、解体してオーバーホール後、再び組み上げることで新品に近い状態のパフォーマンスを発揮できる。一部ユニットを付けかえれば、箔押し加工やダイカット(くり抜き加工)加工機にもなる、汎用性の高い機械であることも魅力だ。
同社は最新のデジタル印刷機も所有しているが、数年で新機種への変更が必要。長く使い続けることができる活版印刷機は、モノを大切に長く使うという点で非常に優れていて、環境に優しい側面もある。
現在はA3サイズまで印刷できるプラテン機(垂直に圧をかける活版印刷機)15台、大型のシリンダー式の印刷機4台が稼働中だ。
サステナブルな考えが浸透する中で、紙製品も大量に使うものから質感があり、感性に訴えるものへと変化を遂げつつある。
同社は、「旧来からの活版印刷のあたたかみと共に、最新のデジタル印刷機や箔押し加工の技術も積極的に取り入れていますので、引き続きお客様のブランディングに寄与する紙製品を提案してまいります」と今後の展開に意欲を見せている。
関連情報
https://www.haguruma.co.jp/store
構成/清水眞希