タクシーとライドシェアの「微妙な関係」
高齢者の多い地域でライドシェアサービスのアプリを使う人は多くない、という声もあるだろう。だが、心配は不要だ。
『ささえ合い交通』ではNPO事務局に電話をかけることで、本人に代わり車両を手配するサービスも実施している。
国土交通大臣が認定した運転者講習会を行い、さらに独自の「ドライバー憲法十七条」を制定することにより、ドライバーの質を維持している。運行前のアルコールチェックや健康チェックを行い、その上で全車両にドライブレコーダーを搭載している。
この『ささえ合い交通』のオペレーションが始まったのは、上述の通り2016年という点にも注目するべきだろう。
筆者はこの時期、東南アジア諸国を巡っていた。低価格のスマホが爆発的に普及し、それに呼応するかのように登場したライドシェアサービスに若者からの熱い視線が集まっていた。
日本よりも遥かに国民平均年齢の若い東南アジア諸国では、ライドシェアサービスの浸透も極めて早かった。
しかし、問題がなかったわけではない。既存タクシー会社とライドシェアサービスとの摩擦が顕著になり、やがてタクシー関係者による「ライドシェア禁止デモ」も発生した。
客を奪われたタクシードライバーがライドシェアドライバーを暴行するという事件まであったほどだ。
その名残は、たとえばインドネシア・バリ島の繁華街レギャンで見ることができる。レギャンを通る道路では多くのタクシーが停まっているが、スマホでライドシェアを呼び出すのは禁止されている。
というより、呼び出そうとしても来てくれないと表現したほうがより正確だ。これはタクシー会社とライドシェアサービスとの協定の結果である。
「独自規格」を避けた『ささえ合い交通』
ライドシェアサービスは、良きにしろ悪きにしろ様々な方面に刺激を与える存在だ。
東南アジア諸国の若者は、その刺激の狭間で生活していた。まさに日進月歩、ほんの数ヶ月で街の光景が変化するような伸びやかな成長の只中にあったのだ。
それとまったく同じ時期、京丹後市では高齢住民も気軽に利用できる形の、それでいて該当地域でしか使えない独自規格にならないようなライドシェアサービスを模索していたのだ。この発想のセンスは、大いに称賛されるべきものではないか。
日本版MaaSもそうだが、日本人が新型交通システムについて考えると地域密着を意識し過ぎるがあまり、その仕組みが「オンリーワン」になってしまいやすい。
今後の普及や浸透を考慮した際、「オンリーワン」はアドバンテージよりもハードルになる可能性がある。その地域を訪れた観光客は「地域独自のアプリ」をダウンロードしようとはなかなか考えないはずだ。
そうしたことを鑑みても、『ささえ合い交通』は見事な模範解答を出したと言えるのではないか。
【参考】
気張る!ふるさと丹後町
http://kibaru-furusato-tango.org/
京都府京丹後市で「ささえ合い交通」がスタート-Uber
https://www.uber.com/ja-JP/blog/kyotango/
取材・文/澤田真一