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「心ばかり」の基礎知識
相手に贈り物や金封を渡す際には、「心ばかりですが、どうぞお受け取りください」という言い回しがよく使われます。『心ばかり』にはどのような意味があるのでしょうか?使用できる相手、シチュエーションについて理解を深めましょう。
日本ならではの謙遜表現
心ばかり(こころばかり)の意味は、『気持ちの一部を表したものであること』です。漢字表記は『心許り』で、『許り(ばかり)』には、~だけ・~のみ・~くらいといった意味があります。
日本には、自分の能力や成果、価値などをあえて控えめに表現する『謙遜の文化』があることはご存じでしょう。心ばかりは、相手に贈り物や金封を渡すときのへりくだった表現で、「贈り物や金額は大したものではありませんが、気持ちを示すためものとして」というニュアンスを含みます。
目安となる金額はいくら?
心ばかりとは、いくらくらいの金品を指すのでしょうか?明確な決まりはありませんが、目安としては1万円以内です。
『ほんの気持ちだけ』『ささやかな』という意味があるだけに、高額な金品を贈られると、相手は違和感を覚えます。3,000円程度のお花代にはふさわしいですが、3万円のお祝いには不適切といえるでしょう。
基本的に、相手が負担に感じる金額の贈り物に対して、心ばかりは使えません。お金の価値観は人によって異なるため、相手との関係性や状況によって言葉を選ぶ必要があります。
使用できる相手とシーン
心ばかりは、主に目上の人や顧客に対して使います。自分をへりくだる謙遜表現であるため、自分と同等の相手や目下の相手には使わないのが基本です。職場の同僚や部下に贈り物をする際には、「ちょっとしたものですが」と言って手渡しましょう。
相手と金額にさえ注意すれば、心ばかりが使えるシーンは以下のように少なくありません。
- お土産を渡すとき
- お礼やお詫びの品を渡すとき
- お祝い金やお見舞金などを渡すとき
- 香典や霊前に供えるお花を渡すとき
会話の中だけでなく、メールや手紙、贈り物に添えるメッセージカードでも問題なく使えます。
「心ばかり」の使い方とマナー
さまざまなシーンで使える表現ですが、正しい使い方やマナーを守る必要があります。使い方を間違えると、相手の気分を害する結果になり、良好な関係性にひびが入る可能性があるでしょう。
自分がもらう際には使わない
自分がもらう立場にある場合には、心ばかりは使えません。くれぐれも「心ばかりの品をいただきありがとうございます」とは伝えないようにしましょう。相手からの贈り物を『ほんの気持ちばかり』と言い表すのは、失礼な表現です。
相手から「心ばかりですが、お受け取りください」と言われて贈り物を手渡された場合は、以下のように返答するのが理想です。
- ご丁寧にありがとうございます
- お心遣いありがとうございます
- お気遣いいただき、恐縮です
- 遠慮なくいただきます
- おいしくいただきます
もらったらお返しするのがマナーと考える人もいますが、心ばかりと言われて受け取った際は、基本的にお返しは必要ありません。すぐにお返しをする行為は、相手の心をそのまま返すことを意味するためです。
さらに言葉を付け加える
「心ばかりですが」と一言だけ述べて、贈り物を手渡す人もいますが、以下のような言葉を付け加えると、より丁寧な印象になります。
- どうぞお受け取りください
- よろしければ、お納めください
- お召し上がりください
- お気に召していただければ幸いです
- 受け取っていただけると光栄です
お詫びの品を渡す際は、必ず先に謝罪の言葉を述べましょう。謝罪の前に品物を差し出すと、「物を渡せば済むと思っているのでは」と、相手の気分を害する恐れがあります。
のしにはTPOに応じた表書きを
心ばかりは、のしの表書きにも使用できます。『お祝(御祝)』『お歳暮(御歳暮)』『お中元(御中元)』と書く代わりに、心ばかりを使えば、謙虚な姿勢を示せます。
前述の通り、心ばかりは目上の人にしか使えない表現です。目下の相手に対しては、『寸志(すんし)』や『薄謝(はくしゃ)』を使いましょう。寸志は『わずかな志』、薄謝は『わずかな謝礼』という意味です。
また、お詫びの品の表書きは、『深謝』『お詫び(御詫び)』『陳謝』などとするのが一般的です。深謝(しんしゃ)は、心からの深い謝罪を意味するため、ただのお詫びでは軽すぎると感じる場合に使いましょう。陳謝(ちんしゃ)には、事情を述べて謝るという意味があります。
「心ばかり」の例文をシーン別に紹介
心ばかりは、お礼・お祝いをする場面はもちろん、謝罪が必要な場面でも使えます。シーン別の例文と使い方のポイントをチェックしましょう。
お礼・お祝いをする場合
職場の先輩や上司に日頃の感謝を伝える際は、ちょっとしたプレゼントを贈ると喜ばれます。出産祝いや新築祝いなどの贈り物を渡すときは、心ばかりという表現を使って、相手に気を使わせないように配慮しましょう。年代にもよりますが、出産祝いや新築祝いの相場は5,000~1万円前後です。
【例文】
- 部長のご指導のおかげで、ここまで成長できました。心ばかりの品ですが、どうぞお受け取りいただけましたら幸いです
- ご出産おめでとうございます。心ばかりですが、お祝いの品をお贈りいたします
- 本日はご列席いただきありがとうございます。心ばかりですが、お車代を用意いたしました
お菓子・お土産などを手渡す場合
お菓子やお土産などを渡す際にも、心ばかりが使えます。食べ物を手渡すときは、「召し上がってください」という言葉を添えましょう。
弔問でお悔やみのお花を手渡す場面では、『心ばかりのお花』という表現がよく使われます。最初に「このたびはご愁傷様です」「心よりお悔やみ申し上げます」と、遺族に声を掛けるのがマナーです。
【例文】
- 心ばかりですが、北海道の特産品を持ってまいりました。皆さまで召し上がってください
- このたびはご愁傷様でございます。心ばかりですが、ご霊前にお供えいただけますと幸いです
- 先生のご霊前にお供えいただきたく、心ばかりのお花をお持ちいたしました
謝罪する場合
相手に迷惑をかけたときは、謝罪の気持ちとしてお詫びの品を渡すのがマナーです。お詫びの品は3,000円~1万円前後の菓子折りが一般的でしょう。
最も重要なのは、心からの謝罪の気持ちを伝えることです。しっかりと謝罪し、最後に「心ばかりではございますが、どうぞお納めください」などと伝えて、菓子折りを手渡します。
【例文】
- ご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません。これは心ばかりのお詫びでございます。どうぞお受け取りください
- このたびは私の不注意でおけがをさせてしまい、大変申し訳ございません。心ばかりではございますが、お納めいただけると幸いです
「心ばかり」の類語・言い換え表現
語彙力が少ない人は、いつも同じような言葉や言い回しを使いがちです。類語や言い換え表現を覚えておくと、相手や状況に合わせて言葉を選べるため、コミュニケーションがより円滑に進みます。心ばかりには、どのような類語・言い換え表現があるのでしょうか?
ささやか
『ささやか』は、形ばかりで粗末なさまや取るに足りないさまを意味します。心ばかりと同様、謙遜表現として用いられ、『ささやかながら』『ささやかではありますが』『ささやかな〇〇』などの言い回しが一般的です。
【例文】
- ささやかながら、日頃の感謝を込めて花束を贈ります。どうぞお受け取りください
- ささやかではありますが、〇〇ちゃんの入学祝いをお持ちいたしました。
- このたびは、ご昇進おめでとうございます。ささやかな品ですが、どうぞお納めください
些少
『些少(さしょう)』とは、金額や数量がわずかなことを意味します。相手に渡すものが少ないことを謙遜の意味を込めて表す言葉で、本人が主観的に少ないと感じれば、『些少ながら』『些少ではありますが』を使えます。冠婚葬祭をはじめとする、フォーマルなシーンで使われるケースが多いでしょう。
【例文】
- 些少ではございますが、香典をお包みいたしました
- ご協力いただいた方には、些少ながら原稿料をお渡しいたします
- 鈴木さまのサポートのもと、プロジェクトを無事成功させることができました。些少ではありますが、感謝の気持ちです
構成/編集部