東京商工リサーチから2023年「休廃業・解散企業」動向調査が発表されたので、本稿ではその概要をお伝えしていく。
2023年の「休廃業・解散」企業(以下、休廃業企業)は、4万9788件(前年比0.3%増)で2年連続で増加した。2000年に調査を開始以降、最多だった2020年(4万9698件)を上回り、過去最多を更新した。2023年の企業倒産は8,690件(前年比35.1%増)と大幅に増加しており、休廃業・解散と倒産を合算した「退出企業」は5万8478件(同4.3%増)で、2020年の5万7471社を超え、最多となった。
2023年の休廃業企業の損益(最終利益)は赤字企業率が47.6%に
コロナ禍で矢継ぎ早に実施された各種支援策で、経営者は事業継続の判断を先送りし、倒産も抑制した。ただ、感染症分類が5類に移行され、支援策も縮小するなかで企業の市場からの退出が加速した格好だ。
2023年の休廃業企業の損益(最終利益)は、赤字企業率が47.6%に達した。それまで最悪だった2022年の45.1%から2.5ポイント悪化し、過去最悪を記録した。支援策の縮小で営業外利益や特別利益が剥げ落ちたことに加え、人件費や原材料価格の高騰が暗い影を落としている。
事業再構築などの取り組みが遅れ、生産性向上や利益率の改善が見通せない状況が続く場合、倒産と休廃業のはざまに揺れながら市場から退出する企業はさらに加速しそうだ。
※本調査は、東京商工リサーチ(TSR)が保有する企業データベースから、「休廃業・解散」が判明した企業を抽出した。「休廃業・解散」は、倒産(法的整理、私的整理)以外で、事業活動を停止した企業と定義した。
■業歴別〜業歴5年未満が1.8ポイント増加
業歴別の構成比は、最多は10年以上20年未満の21.2%(前年22.6%)だった。次いで多かったのは、30年以上40年未満の16.2%(同16.7%)。業歴5年未満は15.1%で、前年(13.3%)より1.8ポイント増加した。コロナ禍初期の前後に起業したものの、外部環境の変化で当初描いたビジネスプランでの存続が難しかったとみられる。
■産業別〜小売業が10.4%増加
10産業中、4産業で増加した。最多は、飲食業や娯楽業、各種士業などを含むサービス業他の1万6286件(構成比32.7%、前年比2.5%増)。また、建設業は8041件(同16.2%、同0.4%減)だった。小売業は6,139件(同12.3%、同10.4%増)で1割以上増加した。
産業を細分化した業種別(45分類)では、AV機器や自動車販売などの機械器具小売業が1,083件(前年比21.6%増、前年890件)、織物・衣服・身の回り品小売業が729件(同15.3%増、同632件)で小売業の増加の一因となった。また、印刷・同関連業が422件(同19.8%増、同352件)、飲食業が2,188件(同15.2%増、同1899件)だった。
一方、宿泊業は276件(前年比10.6%減、前年309件)で大幅に減少した。
■損益別〜赤字率が過去最悪
休廃業、解散する直前期の決算(判明分)は、2023年は損益(最終利益)が黒字の企業率は52.4%、赤字率は47.6%だった。黒字率が過去最低で赤字率は過去最悪だった2022年より、それぞれ2.5ポイント悪化した。
時系列でみると、2000年に調査を開始以降、黒字率は70%前後を維持していたが、2021年に初めて60%を割り込んだ。その後も悪化を続け、2023年は50%台をギリギリ踏みとどまった。
2021年以降、2ポイント程度の悪化が続いている。昨今の人件費や原材料価格の高騰を加味すると、2024年の黒字率は50%を割り込み、史上初めて赤字・黒字率が逆転する恐れがある。
※直前期は、休廃業・解散から最大2年業績を遡り、最新期を採用した。
■代表者年齢〜60代以上の構成比、過去最高を更新
休廃業企業の代表者の年齢別(判明分)は、70代が最も多く42.9%を占めた。以下、80代以上が23.6%、60代が20.3%と続き、60代以上は全体の86.9%を占めた。60代は前年比1ポイント程度ダウンしたが、60代以上の構成比は前年より増加し、過去最高を更新した。
■法人格別〜最多は株式会社
法人別では、最多は株式会社の2万1027件(構成比42.2%)だった。次いで、有限会社の1万4675件(同29.4%)、個人企業の4835件(同9.7%)と続く。
株式会社が前年よりも減少した一方、比較的、企業規模が小さい傾向にある有限会社や個人企業などが増加した。
2022年の「休廃業・解散」企業は4万9788件で、過去最多を記録した。前年比35.1%増の伸びを記録した倒産を含めると5万8478件(前年比4.3%増)に達し、こちらも過去最多となった。
コロナ支援の縮小とともに進行する人件費や原材料価格の高騰などで、中小企業の生き残りは厳しさを増している。
2024年1月1日、令和6年能登半島地震が発生した。大きな揺れと津波に襲われた地域を中心に甚大な被害が生じている。人口減少が続き内需型産業は厳しい環境にあるが、漁業や観光資源が中心の地域では、支援のあり方や復興スピードによって企業の市場退出が相次ぐ恐れもある。
2023年の休廃業企業の赤字率は47.6%(前年45.1%)で、過去最悪を更新した。企業の大半は未上場で資本市場からの資金調達ができないだけに、最終赤字はそのまま内部留保の毀損に直結する。赤字が慢性化すると事業停止の段階で債務清算ができず、廃業を指向しても破産などの法的手続きを選択せざるを得ない。特に、赤字経営で社会保険料や租税公課の滞納が続いた場合、最近活用が進む準則型私的整理でも対応は難しく、結末は「破産一択」に等しい。
休廃業企業の業種別は、飲食業が2,188件(前年比15.2%増)、「アパレル小売」と呼ばれる織物・衣服・身の回り品小売業が729件(同15.3%増)、印刷・同関連業が422件(同19.8%増)などで増加が目立った。これらは市場競合に加え、時代の流れのなかでビジネスモデルが劣化したところに、コロナ禍で深刻な打撃を受けたケースも少なくない。
企業支援は大切だが、抜本的な事業再構築を伴わない安易な延命は負債の増大を招き、取引先や従業員への影響を広げる諸刃の剣になりかねない。今後の企業支援に一石を投げかけている。
また、2023年は業歴5年未満の休廃業、解散の増加も目立った。近年、スタートアップ企業を念頭に資本と負債の側面を持つ「ベンチャーデット」の活用に向けた取り組みが進むが、新設法人のすべてが株式公開や急成長、ユニークな事業モデルを有しているわけではなく、狭義のスタートアップには当てはまらない。こうした網の目から漏れる企業へハンズオンの支援も大切だ。 休廃業企業の代表者の平均年齢は72.0歳(前年71.6歳)、中央値は74歳(同73歳)だった。
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https://www.tsr-net.co.jp
構成/清水眞希