■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、楽天モバイルのドイツ1&1社のネットワーク構築について会議します。
楽天モバイルと似ている「1&1」
房野氏:楽天シンフォニーがネットワークを作ったという、ドイツの「1&1」が2023年12月にサービスを開始しました。石川さん、石野さんはローンチイベントの取材に行かれたんですよね。
石川氏:ドイツの1&1という、今までMVNOとして携帯電話サービスを提供していた会社が、周波数をもらってMNOになるというので、運営するにあたってネットワークの開発、運用・保守を丸々楽天シンフォニーが請け負いました。実際、1&1がやっていることは、基地局用地を買って基地局を作ることとマーケティング。オンライン上で販売すること程度ですが、ドイツで第4のキャリアとしてスタートします。
1&1にはMVNOでユーザーが1200万人いて、そのユーザーが順次MNOの方に乗り換わっていく。うまくいくと、1200万のユーザーが楽天シンフォニーのプラットフォーム上で動くようになります。600万契約の楽天モバイルよりも多いユーザーになるので、楽天シンフォニーは1&1が成功することによって評価され、世界でもっとシステムを売っていけるようになる。これは重要なタイミングということなので、三木谷さんがわざわざローンチイベントに行ったという感じです。
楽天グループ株式会社 代表取締役会長兼社長最高執行役員、楽天シンフォニー株式会社代表取締役会長兼CEO 三木谷 浩史氏
石野氏:日本だとMVNOとMNOは完全に分けなさいという話になっている。だから楽天モバイルも楽天モバイルMVNOと楽天モバイルMNOで料金プランは全く違うし、自動で移行されるわけじゃないです。でも、ドイツはどうやら法律的に、料金プランを勝手に変えていいらしいんです。
石川氏:楽天方式ね(笑)(楽天モバイルは2022年7月、「Rakuten UN-LIMIT VI」から「Rakuten UN-LIMIT VII」へプランを自動移行した)
石野氏:平井さん(楽天グループ 副社長 平井康文氏)が「ドイツはそういう法律なんですよ」って言っていましたが、いやいや、楽天モバイルもそうしたことがあったじゃないですかって突っ込もうかなと思ったけれどやめておきました(笑)
法林氏:MVNOも以前はバンバン変えていたじゃない。「今までは4Gで○○円だったけれど、今度から5Gにつながって○○円です」みたいなことはあった。
房野氏:1&1はMVNOだったんですね。
石野氏:そうです。ISPサービスとか色々やっているMVNOでした。ドイツは電波オークションで周波数を買うので、5Gの電波オークションがあった時に1&1も参加して獲得した。じゃあMNOをやりましょう、でもネットワークを作った経験はない。欧州の場合だとファーウェイ、エリクソン、ノキアといったベンダーに頼るのが一般的ですが、「エリクソンだと高いしなぁ、ファーウェイは安いけれど中国メーカーは積極的に選べないかなぁ」という状況の中、「MVNOからMNOにスイッチしてキャリアになるんだったら、ノウハウありますよ!」というところが日本にあった。それって、いいじゃないかというので楽天シンフォニーが丸々、ネットワークを請け負うことになったという話ですね。
房野氏:ドイツは3キャリア体制だったんですか?
石川氏:もともとは4キャリアだったんだけれど3キャリアになっちゃって、これでまた4キャリア体制に戻った。
房野氏:日本の総務省のようなところが後押しした、とかあるんですか?
石野氏:ローンチイベントにはドイツのデジタル・交通大臣も出席していたので、後押しはしたとは思いますが。
房野氏:楽天モバイルと似たような感じなんですね。
石川氏:そうですね、非常に近い感じです。
法林氏:1&1は新興勢力みたいな感じで注目されています。サッカーのドルトムントの胸スポンサーだったりするんですよ。
石川氏:ハースF1チームのスポンサーもしていました。
法林氏:一生懸命プロモートしている感じ。
房野氏:ドイツではメジャーなキャリアなんですね。
法林氏:MVNOとしては新興メジャーみたいな感じ。昔からあるキャリアではない。
石野氏:でも急激に契約者を伸ばしています。
法林氏:そういう意味でも、楽天モバイルMVNOに近い会社。まぁ、フランスやイギリスもそうだけれど、ドイツはMVNOが圧倒的に強い国ではある。もちろんMNOのドイツテレコムやボーダフォンドイツなんかもあるけれど、ドイツのMVNOは日本のように「ようやくシェア1割になりました」みたいなレベルじゃない。
石野氏:ドイツのMVNOのシェアは約5割なんですよ。携帯電話ユーザーの半分はMVNOを利用していて、1&1はその中のトップ。
房野氏:どうして欧州はMVNOが強いのでしょう。
法林氏:文化的な背景がある。もともとMNOが強かった中にMVNOが出てきて、MVNOが一定のシェアを持ち、SIMロックされていない端末が出てきて伸びて行っている市場。日本とは構造が違う。
房野氏:ローミングもできるんですか?
法林氏:もちろん。EUがよく考えていて、EU内ローミングの義務化みたいな話がある。ドイツからフランスに行ってもそのままローミングして使える。さらにローミングの時に追加料金をとってはいけないようになっている。そんなこともあってMVNOが成長しやすい環境になっている。〝EU内は国内〟という扱いに近い。その中で伸びてきたMVNOの1社が、MNOで携帯電話サービスをやりますと手を挙げた形です。
石野氏:ドイツでは安い携帯電話サービスが求められている。昔は海外につなぐための安い音声通話サービスを提供するキャリアが色々あって、MVNOが発展しやすい場所ではあった。スーパーマーケットがMVNOをやったり、MNOが売れないようなすごく小さなタバコ店でSIMカードを売るようなところもたくさんあって、欧州、特にドイツはかなりMVNOが強いです。そこがMNOとして参入する時に、楽天のノウハウを借りた、ということですね。
房野氏:1&1がMNOになったのはどういった理由なんでしょう。
石野氏:まぁ、自由度が高いサービスはできますね。
石川氏:楽天と組むことによって、色んなサービスを組み合わせられる。1&1は固定回線サービスもやっているし、Rakuten TVも提供していると言っていたかな。そういうサービスと組み合わせる場合、ネットワークを借りるよりも自分たちで持った方がやりやすい。基地局は自分たちで建てるけれど、2023年内では国内1000か所ぐらいしか作っていないようなので、基地局はめっちゃ少ない。現状はローミングに頼っています。最初はテレフォニカで、その後ボーダフォンのネットワークを利用する。
房野氏:テレフォニカってスペインのキャリアですよね?
石野氏:そう。基本的にスペインはテレフォニカ、イギリスはボーダフォン、ドイツはドイツテレコム、フランスにはオレンジっていう感じで大手キャリアがあります。欧州は1国がそれほど大きくないので、別の国に行って第2、第3のキャリアになっている感じなんですよ。例えばスペインはテレフォニカがトップシェアですが、その下にオレンジエスパーニャとボーダフォンエスパーニャがあって、でもボーダフォンは売却されちゃったのかな。そういう構造です。
房野氏:楽天シンフォニーが供給しやすい環境だったと。
石野氏:新興キャリアがMVNOからMMOになるんだったら、楽天モバイルはノウハウを持っているし、頼りやすかった。