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「わかりかねます」の意味は?
ビジネスシーンや電話応対では、『わかりかねます』という言い回しがよく使われます。丁寧な敬語表現のように思われますが、目上の人や顧客に使用しても問題ないのでしょうか?
■「わかりません」の遠回しな言い方
わかりかねますは、動詞『わかる』・補助動詞『かねる』・丁寧語『ます』から成り立つ言葉です。補助動詞のかねるには、~しようとしてもできない・~するのが難しいという意味があります。
ビジネスシーンでは、「わかりません」「知りません」とストレートに伝えると、口調によっては角が立つ可能性があるでしょう。
かねるを使えば、「お答えしたいのですが、私にはお答えすることが難しいです」という遠回しな言い方になり、相手への配慮を示せます。丁寧な敬語表現であり、目上の人や顧客に対しても使える表現です。
■「わかりかねません」は間違い
わかりかねますを『わかりかねません』と間違える人がいますが、意味がまったく異なる点に注意しましょう。
『~かねない』は、動詞『かねる』に打消の助動詞『ない』が付いた表現で、~しないとはいえない(二重否定)の意味があります。わかりかねませんは、わかってしまうかもしれない(わかりそうだ)という意味になり、わかりかねますとは真逆の意味になってしまうのです。
また、『わかりかねませんでした』という過去形の表現も、一般的には使いません。
「わかりかねます」が冷たく聞こえる理由
わかりかねますは、ビジネスシーンや電話応対でよく用いられる表現ですが、冷たい・ぶっきらぼう・失礼な印象を受けるという意見も少なくありません。丁寧な婉曲表現であるにもかかわらず、あまりよい印象を与えないのはなぜなのでしょうか?
■お詫びや配慮の言葉が欠けている
相手の問い合わせに答えられない場面では、回答を断る意味で使われます。「わかりかねます」と一言だけ伝えられた場合、相手は自分が拒否されていると感じる可能性があるでしょう。
これは、わかりかねますを単独で使うことに問題があります。特に顧客対応では、自分が力になれないことや知識不足であることに対して、お詫びや配慮の言葉が必要です。以下のようなクッション言葉を添えるだけで、印象は大きく変わるでしょう。
- あいにくですが
- 申し訳ありませんが
- 大変恐縮ですが
- 誠に申し上げにくいのですが
■責任が感じられない
電話口で「わかりかねます」とだけ伝えられると、電話をしてきた人は「じゃあどうすればいいの?」と困惑してしまいます。担当者が違っていて問い合わせに答えられない場合は、以下のような代替案や解決策を提示するのが基本です。
- 確認してご連絡いたします
- 担当部署である〇〇課におつなぎいたします
- 調査後に改めてご連絡いたします
- 担当者が戻りましたら折り返しお電話いたします
取引先や顧客にとって、電話口に出た人は会社の顔です。わかりかねますだけで済ませずに、最後まで責任を持って対応しなければなりません。
「わかりかねます」の言い換え表現
ビジネスパーソンは、相手や状況に合わせて、言葉や表現を使い分けることが重要です。相手の質問に答えられない時は、わからない・知らない・答えられないの意味を持つ敬語表現で対応しましょう。いずれにしても、お詫びや配慮の言葉を忘れずに添える必要があります。
■存じ上げません
『存じ上げません』は『存じ上げる』の否定形です。存じ上げるは、思う・知るの謙譲語『存ずる(存じる)』と相手への敬意を示す『上げる』から成り立ちます。自分の行為を低めて相手の立場を高める敬語表現のため、目上の人や取引先、顧客などに問題なく使えます。
【例文】
相手:〇〇会社の鈴木さんをご存じですか
自分:大変申し訳ありませんが、鈴木様のことは存じ上げません
上記のように、存じ上げませんは対象が『人』の場合にのみ使えます。例えば、相手から「請求書の内容について聞きたい」「開催場所を教えてほしい」と言われた際に、存じ上げませんと答えるのは間違いです。
■存じません
『存じません』は、存じ上げませんと同じように、わからない・知らないを意味する敬語表現です。対象が人の場合は存じ上げませんを使い、対象が人以外の場合は存じませんを使いましょう。
【例文】
相手:明日のミーティングの議題を教えていただけますか
自分:失礼ながら、存じません。担当者に確認いたしますので、少々お待ちいただけますでしょうか
相手:先日、返品の連絡をしたのですが、どのような状況ですか
自分:大変恐縮ですが、その件については存じておりません
■お答えいたしかねます
『お答えいたしかねます』は、何らかの事情により、相手の質問に答えられない場合に使う表現です。
『~しかねる』は、~することが難しい・~に抵抗を感じるという意味です。するの謙譲語『いたす』を使うことで、相手への敬意を示します。『お答え』を『ご返答』と言い換えてもよいでしょう。
【例文】
相手:御社では、どのような管理システムを使っていらっしゃいますか
自分:大変恐縮ですが、お答えいたしかねます
相手:〇〇(商品名)は、いつから販売されますか
自分:申し訳ございませんが、その件についてはご返答いたしかねます
構成/編集部