「風向き」が変わる瞬間は?
一方、「炎上が沈静化に向かう対応法」も存在します。前薗氏が解説します。
「『想像を上回る対応』があると炎上は沈静化に向かいます。対応次第では信頼に変わることも特徴です。
その例が丸亀製麺でしょう。カエルが混入したのは長崎県諫早市の店舗でした。しかし同社は野菜加工工場での混入と判断するや、生野菜を扱う取引先の全工場で立ち入り検査を実施、同時に保健所の指導も積極的に受け入れています。するとネットでは『丸亀、徹底してるな』という評価が一般的となり、結果、ブランドイメージの失墜は免れています」
ちなみに、食品に関する炎上は下記の手順を踏めば、一定の評価が集まります。
1 謝罪、顧客への対応
2 原因究明
3 万全を期した事後の対応策を発表
その点、高島屋のケーキ騒動は、顧客対応は徹底していたと感じます。消費者がSNSに『電車で2時間はかかる自宅までわざわざケーキを届けに来てくれたのはありがたかったけれど、管理体制がどうだったのかは気になりますね』というコメントをアップすると、ネットでは『老舗がメンツをかけて謝罪しているんだな』といった声が出始めました。
しかし、前薗さんは「評価ばかりもできません」と話します。
「製造側からは責任転嫁を感じさせる発言もありました。もっとも大きいのは、この件の原因が特定できていないことです。すなわち、事後の対応策も発表されていません」
これではこの件を「一件落着」にはできません。原因究明ができなければ、また次の年のクリスマスに「今年の高島屋は大丈夫なのか?」といった話題が出るはずです。
(なお、あくまで記者の推測ですが、高島屋はこの件の原因をほぼ特定できていると感じます。ただし、原因を特定したせいで製造メーカーやパティシエなどに「延焼」する可能性もあるため、「原因不明」で幕引きをしようとしている、と感じます)
そして最後に、前薗さんはこう話します。
「食品に関する炎上には特殊性があります。『世の中』は食品の炎上に関し『どれだけ気を付けていても起きてしまうこと』という認識を持ちつつあるのです。だから初動で謝罪し、次に原因を究明、その次に万全を期した事後の対応策を立案すれば鎮火に向かいやすいという特徴があります。
ただし、まさにクレームや非難が殺到している最中に適切な判断を下すことは非常に難しいのです。そこで、食品メーカーや飲食店は万一の時のために対応マニュアルを整備しておくべきでしょう。
高島屋のような企業でさえ、取材対応に慣れていない製造側から、さらなる炎上につながりかねない発言がありました。だからこそ今後は、原料を供給する会社、加工業者、運輸業者などを含むサプライチェーン全体でマニュアルを共有することも必要かもしれません。
炎上も、備えあれば憂いなしです」
取材・文/夏目幸明