【炎上の真相――専門家が見た裏側】「食品炎上問題」、デスマフィンと高島屋の違い
食品は「炎上しやすい」!?
食品炎上事件は毎年繰り返されます。2023年1月に男性がお寿司屋さんの醤油ボトルをなめた「寿司テロ事件」が起き、同年5月には丸亀製麺の「シェイクうどん」に生きたカエルが入っていた動画が拡散されています。11月にはイベントで売られていたマフィンが納豆のように糸を引く動画が拡散された「デスマフィン」事件が、クリスマスには高島屋の通販で買ったケーキが崩れた状態で家に届いた「高島屋ケーキ騒動」が起きました。
炎上事件の研究、対応マニュアル等の作成を行う「デジタルクライシス総合研究所」の前薗利大氏が解説します。
「『炎上』には衝撃的な写真や動画の存在が欠かせません。その点、食品はインパクトがある写真や動画が撮れる場合が多いんです。うどんのなかでカエルが生きている動画やマフィンが糸を引く様子は、誰が見ても気持ち悪いですからね」
高島屋ケーキ騒動と同じ時期に、ダイハツが30年も不正を隠していた問題が発覚しています。問題の大きさを比べれば、間違いなく高島屋よりダイハツのほうが大きかったはずです。しかし炎上の勢いでは、ダイハツと高島屋はイコール程度でした。
「今後も食品の炎上はなくならないでしょうね。飲食業の会社や食品メーカーは、どれだけ気を付けていても『ありえない経路で虫が混入する』『髪の毛が落ちる』といったことが起こりえます。
ただし、その後の対応で炎上の結果は大きく変わります」
ミスが「憎しみ」に変わると…
商品が炎上した時、企業はどう対処するのが正解なのでしょう? 前薗さんは「初動がすべて」と解説します。
「初動で『認めない』『被害者を軽視する』といった態度をとると、炎上がどんどん勢いを増していく場合があるのです」
対応を誤ると、「食品に異物が混入した」という事実が「この会社の対応はひどい」「こんな会社を許すな!」と変わっていってしまうのです。
「最悪の例」として思い出されるのは、2014年、まるか食品のロングセラー商品「ペヤングソースやきそば」にゴキブリの死骸が混入していた事件です。これが写真付きでツイートされると、同社は「こういった苦情は初めて」「考えられない」といった文章を公表し、異物混入を全面否定しました。しかしゴキブリは麺に絡みついていたため、ネットでは「腑に落ちない」といった投稿が相次ぎます。これに加え、最初にツイートを行った方が、まるか食品の担当者が商品の買い取りに来たこと、その際に問題の写真の削除を依頼されたことを投稿。さらに「お互いのためが云々いって圧力かけてくるあたりカチンときた」とも投稿し、炎上はますます大きくなっていきました。すなわち、最初は食品への異物混入が問題だったはずが、いつしか「あの会社の対応が許せない」になっているのです。
同様の展開が起きたのは「デスマフィン」でした。店主はマフィンに関する苦情が来ているにも関わらず「たっくさんのご来店ありがとうございます」「本当に本当に幸せな2日間でした」といった文章とハートの絵文字を掲載。同じ投稿で「~マフィン達が納豆みたいな匂いがするというご報告をいただきました。もし、納豆のような匂いがしたら食べずにすぐにLINEで~」と書いています。
この危機感のない対応が怒りを買いました。その後、店主のSNSが発掘され『商品にコバエがとまっている写真があった』『派手なネイルをつけたまま調理している写真もあった』などと、炎上は大炎上へと変わっています。「あのマフィンは腐っているのでは?」という疑問が、「店主憎し」に変わってしまったのです。