掲載物件数は進出発表以降顕著に減少、需要増加による空室減少&募集期間の短縮が主な要因
LIFULL HOME’Sに掲載された賃貸物件の数は、ラピダスが千歳市への進出を発表した翌月(2023年3月)以降、特にシングル向け物件が急激に減少し、2023年8月の1,072件が底となっている。
不動産会社は空室に入居者を募集する目的でLIFULL HOME’Sに物件を掲載するが、新工場周辺では賃貸需要の増加に伴って既存の物件の空室が少なくなっていること、さらに、空室が発生しても募集開始後すぐに申し込みが入るなどで、1物件あたりの掲載期間が短くなっていることが、掲載物件数の減少の主な要因と考えられる。これは「新工場の建設関係者の需要が高まっている」(地元不動産会社談)ことに起因するものと考えられる。
現時点で賃料の急激な変化は見られず
LIFULL HOME’Sに掲載された千歳市の賃貸物件の平均募集賃料は、シングル向け物件がラピダスの進出発表後の期間でやや下落しているものの、おおむね4万5,000円前後で推移している。
また、ファミリー向け物件においても新工場着工直前でやや下落が見られるものの、おおむね5万~5万5,000円程度で推移しており、急激な変化は見られない。
■分析担当:LIFULL HOME’S PRESS編集部 渋谷 雄大(しぶや たけひろ)氏のコメント
半導体産業の進出は、その裾野の広さから大きな波及効果があるとされ、従業員の住居あっせんのニーズや新たな投資需要の喚起など、不動産業界からも大きな期待が寄せられています。
ラピダスに先んじて半導体大手TSMCの工場建設が進む熊本県の工場周辺地域では、進出発表後に賃貸物件の需給がタイトになった結果、掲載物件数が9割以上減少し、賃料相場も約1.4倍となるなど、市場に大きな影響が生じました。
特に賃料相場の上昇は、不動産オーナーにとっては所有物件の資産価値向上、賃料収入の増加などのメリットがある一方、住民にとっては住居費の上昇など、生活への影響も避けられません。
ラピダスの工場建設が進む千歳市では、すでにシングル向け物件を中心に問合せが増加するなど早速その影響が表れていますが、賃料相場は現時点で大きな変動が見られません。ただし、TSMC新工場周辺では工場着工後約1年が経過して賃料相場が大きく上昇したことからも、千歳市においても引き続き動向を注視する必要がありそうです。
千歳市では2023年3月に市街化調整区域の一部を市街化区域へ編入したほか、市街化の進んでいない市街化区域で宅地造成を進めるなど、需要の増加を見越した供給の強化を後押ししています。しかしながら、進出発表後に計画された新築物件の完成は早くても今年の秋頃であること、人気の高い駅周辺は特に空室が少なく開発余地も小さいこと、さらなる地価の上昇を期待して地主が土地を手放さない可能性など、家賃相場を上昇させる材料は十分にあります。
賃料相場の急激な上昇は、既存産業や既存住民の流出を招き、結果的に地域経済の半導体産業への過度な依存へとつながる危険性をはらみます。将来にわたる地域経済の安定のためにも、自治体が需給に応じて都市計画を柔軟に運用するなど、機動的な対応が求められます。
構成/こじへい