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「深謝」の意味と注意点
『深謝』は、かしこまった場面で使う堅苦しい表現のため、日常会話ではほとんど使われません。深謝の意味と注意したい言い回しを解説します。
■感謝と謝罪の2つの意味がある
深謝(しんしゃ)は、『深』と『謝』の二つの漢字から成り立つ言葉です。『謝』には、お礼を言う・お詫びをするという意味があり、深謝は『深い感謝』または『深い謝罪』のいずれかの意味で使われます。
【例文】
- 在職中は並々ならぬご厚情を賜りましたこと、深謝申し上げます(感謝)
- このたびの過失は、弊社の責任です。ご迷惑をおかけした皆さまに深謝申し上げます(謝罪)
深謝の類義語には、以下のような言葉があります。
- 感謝の意味で使える類語:拝謝(はいしゃ)・多謝(たしゃ)・万謝(ばんしゃ)
- 謝罪の意味で使える類語:多謝(たしゃ)・万謝(ばんしゃ)・陳謝(ちんしゃ)
深謝と同様に、多謝と万謝には、感謝と謝罪の二つの意味があります。陳謝は、ただ詫びるだけでなく、理由や事情を述べたうえで詫びることを意味します。
■注意したい言い回し
深謝は、『深謝いたします』『深謝申し上げます』の形で使われるのが一般的です。以下のような言い回しは適切ではありません。
- 深謝に堪えません
- 深謝の意を表します
- 深謝の言葉もありません
- 大変(とても)深謝いたします
『~に堪えません』は、湧き上がる感情を抑えきれない状態を指します。『感謝の念に堪えません』と表現するのが通常で、『深謝に堪えません』では、相手に意味が伝わりにくいといえます。また、『深謝』自体が、とても強い感謝や謝罪を意味するため、『とても』や『大変』などを付け加える必要はありません。
「深謝」の正しい使い方
『深謝』は、普段あまり見聞きしない言葉なので、使い方を理解していない人も少なくありません。適切な場面で使えば、相手に誠意を伝えられますが、不適切な場面で使えば、相手の気分を害してしまう恐れがあります。深謝の正しい使い方と注意点を解説します。
■文書やかしこまった場面で使用する
『深謝』は、ビジネスメール・手紙・新聞などでよく使われる『書き言葉(文語)』です。会話の中で、「深謝します」と伝えても、意味が通じにくいでしょう。
前述の通り、深謝には、感謝と謝罪の二つの意味があります。『深謝いたします』『深謝申し上げます』とだけ述べた場合、相手はどちらの意味で使われているのかが分かりません。
相手が判断に迷わないように、前後に分かりやすい言葉を添えるか、別の表現に言い換えるのが望ましいといえます。
■軽微なミスでは使わない
『深謝』は、相手に謝罪する場面で使いますが、『ごめんなさい』と同じ感覚で多用するのは誤りです。深いお詫びを意味する言葉だけに、軽微なミスや失敗で使うと、相手が困惑します。深謝を使っておけば、失礼にならないだろうと考えない方が賢明です。
深謝に適した場面の一例を列挙します。
- スタッフの不手際が原因で、関係者やお客さまに多大な損失を与えた時
- 不祥事を起こした時
- システム障害で多くの人に迷惑をかけた時
- お客さまに不快な思いをさせた時/失礼な言動があった時
■お詫びの品の表書きに使える
一般的に、相手に迷惑をかけてしまった場合、お詫びの品として菓子折りなどを手渡すのがマナーです。お詫びの品には店の包装紙、またはのしがない無地の掛け紙を付け、表書きは『深謝』としましょう。
深謝が使えるのは、相手に大変な迷惑をかけてしまった場合に限られます。ちょっとしたことに深謝を使うと、相手は違和感を覚えます。『小ばかにされている』『反省していない』と受け取られかねないため、場面に応じた言葉を選ばなければなりません。
軽度のミスで迷惑をかけた際は、表書きを『お詫び(御詫び)』や『松の葉』とするのが適切です。
心からの感謝や謝罪を伝える表現は?
『深謝』は、深い感謝や謝罪を伝えるのに適切な表現ですが、ほかの表現に言い換えた方が気持ちが伝わる場合もあります。深謝と同じように、心からの感謝や謝罪を伝える表現をチェックしましょう。
■深く感謝する場合
深い感謝を伝える表現としては、『深く感謝申し上げます』『心より感謝申し上げます』が一般的ですが、以下のような表現もあります。
- 衷心より感謝申し上げます
- ご厚情痛み入ります
『衷心(ちゅうしん)より』とは、心の奥底からを意味します。『申し上げます』は、『言う』の謙譲語です。『いたします』と敬意の程度は変わりませんが、よりかしこまった印象になるでしょう。
『ご厚情(ごこうじょう)』とは、目上の人から受けた厚い情けや思いやりです。『痛み入る』は、相手の厚意に恐縮することで、深く感謝する場面でなければ、使えない言い回しです。
■深く謝罪する場合
深く謝罪する場面では、『深くお詫び申し上げます』『心よりお詫び申し上げます』のほかに、以下のような表現が可能です。
- お詫びの言葉もございません
- 伏してお詫び申し上げます
『お詫びの言葉もございません』は、言葉を尽くしてもお詫びしきれないという深い謝罪の表現です。『伏してお詫び申し上げます』の『伏して』は、頭を下げるだけでは、お詫びしきれないという気持ちの表れで、謝罪の気持ちを切実に伝えたい時に使われます。
『伏して~する』は、お詫びで用いられるケースが多いですが、『伏してお願い申し上げます』という使い方も可能です。
構成/編集部