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「拝借」の意味と概要
『お手を拝借』や『お知恵を拝借』など、『拝借(はいしゃく)』という言葉を見聞きしたことがある人は多いでしょう。拝借は、自分を下げることで目上の人を敬う敬語のひとつです。意味やニュアンスを解説します。
■「借りる」の謙譲語
拝借は、『借りる』の謙譲語です。謙譲語とは、自分の立場を下げ、相手を立てる敬語の一種です。目上の人やお客さまに適した表現であり、自分よりも目下の相手や同等の相手には使いません。したがって、借りることをへりくだった表現になります。
拝借は、『拝』と『借』の二つの漢字から成り立ちます。『拝』には、拝む・おじぎをするという意味があり、自分の動作に付け加えると謙譲語になります。
『拝』が付く言葉には、『拝読(はいどく)』『拝見(はいけん)』『拝聴(はいちょう)』などがありますが、これらは全て自分の行為にのみ使えます。
「拝借」が使えるシーンと例文
拝借は、物を借りる場面はもとより、目上の人の意見を伺う時や、時間を割いてもらう時にも使えます。シーン別の例文を紹介します。
■物を借りる時
仕事では、上司や取引先、お客さま(クライアント)などから、サンプルや資料を借りるシーンが多くあります。目上の人から物を借りる際は、「〇〇を拝借します」「〇〇を拝借できますか」と伝えましょう。
【例文】
- 15時から会議室のプロジェクターを拝借できますか
- ホームページを作成する上で、事業内容に関する資料を拝借してもよろしいでしょうか
- サンプルを1週間ほど拝借できれば幸いです
同僚や部下に対しては、「貸してください」や「貸してもらえますか」と伝えて問題ないでしょう。
■意見を伺う時・時間を割いてもらう時
返却を前提とした『物』に使うのが基本ですが、目上の人の意見を聞きたい時や時間を割いてもらいたい時にも使えます。また、『お手を拝借』『お耳を拝借』のように、貸し借りができないものにも、慣用句的に使われています。
【例文】
- 一晩考えましたが、行き詰まってしまいました。よろしければ、部長のお知恵を拝借したく存じます
- 本日は、貴重なお時間を拝借させていただき、誠にありがとうございました
- それでは皆さま、お手を拝借
『それでは皆さま、お手を拝借』は、宴会や行事の最後に行われる手締めで使われるフレーズです。代表者の掛け声とともに、全員で手をたたきます。
「拝借」を使う際の注意点
敬語は使い方を間違えると、相手に不躾な印象を与えてしまいます。そうならないよう、『拝借』を使ううえでの注意点をおさえておきましょう。
■尊敬語は「お借りになる」
拝借は、謙譲語のため自分以外の行為には使えません。「鈴木さんに拝借ください」や「部長が拝借しました」は、相手に対して失礼な表現です。
目上の人の行為を丁寧に表す場合は、尊敬語を使いましょう。尊敬語とは、相手や第三者の行為・物事・状態などを立てて述べることです。借りるの尊敬語は、『お借りになる』や『借りられる』です。
■「ご拝借」は二重敬語
『ご拝借できますか』『ご拝借に伺います』など、拝借に『ご』を付けるのはNGです。『拝借』自体が謙譲語であるため、『ご拝借』は二重敬語に当たります。
二重敬語とは、ひとつの語で同じ種類の敬語が重複していることです。接頭辞の『ご』には、謙譲の意味があるため『ご拝借』とすると謙譲語を2回使っていることになります。ご拝読・ご拝見・ご拝聴など、拝が付く語には、『ご』は付けないようにしましょう。
なお、二重敬語は一般的に不適切とされていますが、『社長がお召し上がりになる』や『お客さまがお見えになった』など、習慣として定着している言葉もあります。
人から物を借りる時の敬語表現
『拝借』以外にも、人に物を借りる時の敬語表現は複数あります。相手やシーンに応じて使い分けましょう。使い方のポイントと例文を紹介します。
■お借りしてもよろしいでしょうか
『お借りしてもよろしいでしょうか』は、物を借りる敬語表現の中でも、敬意の度合いが高めです。『お借りする』は、借りるの謙譲語です。『よろしいでしょうか』は、相手に許可を求める時や、問題ないかを確認する時に使われる丁寧な表現で、相手に謙虚な印象を与えます。
【例文】
- パソコンをお借りしてもよろしいでしょうか
- 13時から15時まで、会議室をお借りしてもよろしいでしょうか
- 過去の事例を参考にしたいので、〇〇についてのレポートをお借りしてもよろしいでしょうか
■貸していただけますか
『貸していただけますか』の『いただけますか』は、『もらう』の謙譲語『いただく』・丁寧語の『ます』・疑問の終助詞『か』で構成されています。
否定の疑問形で「貸していただけませんか」と伝えれば、より腰の低いニュアンスになります。「貸していただけませんでしょうか」と言うと相手への配慮を十分に含んでいますが、回りくどさを感じる人もいるようです。
【例文】
- 大変恐縮ですが、電話を貸していただけますか
- 成分をチェックしたいので、試供品を貸していただけますか
- イベントで使う展示用パネルを貸していただけませんか
■貸してくださいますか
『貸してくださいますか』の『くださる』は『くれる』の尊敬語です。『貸していただけますか』と敬語の度合いは同じですが、行為の主体が異なります。
『くださいますか(尊敬語)』は、『行為(くれる)』の主体が相手です。『いただけますか(謙譲語)』は、『行為(もらう)』の主体が自分です。より謙虚な姿勢を示すのであれば、『~くださいませんか』と伝えましょう。
【例文】
- 筆記用具を忘れてしまいました。恐れ入りますが、ペンを貸してくださいますか
- 秘書室の椅子を2脚貸してくださいますか
- どうか、部長のお力を貸してくださいませんか