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「平素」の意味と用法
ビジネスパーソンなら、『平素』という言葉を一度は目にしたことがあるでしょう。『平素』は、いつ・誰に対しても使える万能な言葉ではありません。意味と正しい使い方を覚えましょう。
■「普段」や「常日頃」と同義
『平素』の読み方は『へいそ』です。普段(ふだん)や常日頃(つねひごろ)、平生(へいぜい)と同義で、特別ではない日々や変わらない日々を意味します。言葉の意味をさらに理解するために、平素を構成する二つの漢字(平・素)を詳しく見てみましょう。
『平地』『平安』『平等』という言葉があるように、『平』は凹凸がないこと・穏やかなこと・等しいことなどを意味する漢字です。また、『平素』や『平常心』では、常・普通・並みという意味で使われています。
『素』の漢字の意味は、ありのまま・元・簡単な・常々・普段などです。平素は、似た意味を持つ漢字の組み合わせであることがわかるでしょう。
■「平素は」「平素より」の表現が一般的
『平素』は、『平素は』や『平素より』の表現で使われるのが一般的です。両者には次のような意味の違いがあります。
- 平素は:過去の特定の事柄
- 平素より:過去から現在に至るまでの過程
例えば、「平素は格別のお引き立てを賜り厚く御礼を申し上げます」という表現では、過去の引き立てが強調されています。ビジネス文書で用いる定型句のため、フレーズごと覚えておきましょう。
平素よりの『より』は、動作や作用の起点を意味する言葉です。「平素より弊社の商品をご利用いただきありがとうございます」では、過去から現在に至るまでの過程を指して感謝を伝えています。
■使う相手とシチュエーション
『平素』は主にビジネスメールやあいさつ状、手紙などで使われる『文語(書き言葉)』です。常日頃という意味があるため、ビジネスシーンでは、いつもお世話になっている取引先や顧客に対して使います。平素が使われる代表的なシチュエーションは以下の通りです。
- ビジネスメールの冒頭のあいさつ
- あいさつ状
- イベントの案内状
- 社外の関係者に向けた報告やお知らせ
基本的に初対面の相手には使えませんが、相手が自社商品を長年愛用している人であれば、平素を使っても違和感はありません。
ビジネスで活用できる例文を紹介
ビジネスシーンだけでなく、プライベートなシーンでも問題なく使えますが、かしこまった表現であるため、親しい友人とのやりとりではあまり使われないでしょう。ここでは、主にビジネスシーンで活用できる例文を紹介します。
■「平素」を使った例文
『平素は』『平素より』の言い回しが一般的ですが、『平素の努力』や『平素のご愛顧』『平素のご尽力』など、後に続く言葉を修飾する『副詞』としての使い方も可能です。例文をチェックしましょう。
【例文】
- 平素の努力が実を結び、画期的な製品が誕生した
- これもひとえに平素のご尽力のおかげと厚く御礼申し上げます
『これもひとえに』は、ビジネスメールやフォーマルなあいさつで使われる言い回しで、感謝やお詫びの言葉を伴うのが一般的です。この文脈では、『ひとえに』は原因や理由がそれに尽きることを意味します。
■「平素は」「平素より」を使った例文
ビジネスメールやあいさつ状には、決まり文句があります。『平素は』『平素より』は、文の書き出しで使われ、多くは感謝の言葉を伴います。
【例文】
- 平素より大変お世話になっております
- 平素よりご厚情を賜りありがとうございます
- 平素はひとかたならぬご愛顧を賜り、心より感謝申し上げます
『ご厚情(ごこうじょう)』とは、目上の人からの厚い情けや思いやりを指す言葉です。『賜る(たまわる)』には、『与える(尊敬語)』と『もらう(謙譲語)』の二つの意味がありますが、ここではもらうを意味します。
『ひとかたならぬ』は、程度が普通でないさまを意味する言葉です。『ご愛顧(ごあいこ)』は、目上の人が目下の人に目をかけて引き立てることで、類語として『ご贔屓(ごひいき)』や『お引き立て』などが挙げられます。
相手に違和感を与えないためのポイント
平素は、使用できる対象や場面が限られています。丁寧な印象を与えたいからといって、普段の業務メールに平素を使うと、相手は違和感を覚えてしまうでしょう。平素を使ううえで、必ず覚えておきたいポイントを解説します。
■文章全体をフォーマルな表現にする
平素を使う時は、文章全体をかしこまった表現にする必要があります。後に続く文章に砕けた表現が使われていると、相手は違和感を覚えざるを得ません。
特に平素は・平素よりという表現は、格式の高い文書に使われるケースが多いため、手紙やビジネス文書のルールも覚えておくとよいでしょう。
例えば、フォーマルな文書においては、冒頭に『拝啓(はいけい)』、末尾に『敬具(けいぐ)』を使うのが基本です。拝啓は『頭語(とうご)』、敬具は『結語(けつご)』と呼ばれ、『こんにちは』『失礼します』というあいさつの役目を果たします。ただしメールの場合には、拝啓・敬具は不要です。
■関係性によって言葉を使い分ける
平素は、社内の人や親しい間柄の人に対して使うのはふさわしくありません。堅苦しい印象を与えるため、『いつも』『日頃』『普段』『毎度』などに言い換えるのが望ましいでしょう。
例えば、なじみの取引先に業務連絡をする際は、「平素より大変お世話になっております」や「平素より格別なご厚情を賜り御礼申し上げます」よりも、「いつもお世話になっております」のほうが自然で、親しみやすさを感じます。
丁寧すぎる敬語や言い回しは、良好な信頼関係を築くどころか、かえって距離を離す結果につながります。関係性やシチュエーションに応じて、適切な表現を使い分けましょう。
構成/編集部