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「先方」とは?意味と例文をチェック
「先方に確認します」「先方から修正依頼がありました」など、ビジネスシーンでは『先方』という言葉がよく登場します。先方には2通りの読み方があり、読み方によって意味が変わるのをご存じでしょうか?例文を挙げながら、言葉の意味と正しい使い方を解説します。
■「せんぽう」と読む場合
一つ目の読み方は『せんぽう』です。せんぽうと読む場合は、相手または相手の側を意味します。社内でのやりとりでは、その場にいない取引先や顧客を先方(せんぽう)と呼ぶケースが多いでしょう。「先方に連絡してください」という言葉は、「取引先(顧客)に連絡してください」という意味です。
【例文】
- この案件は、先方の意向を聞いてからでないと進められない
- 改善策について、先方とミーティングを行ないました
- 先方から了承を得たので、すぐに作業をスタートしてください
■「さきがた」と読む場合
もう一つの読み方は『さきがた』です。日常会話やビジネスシーンでは、『せんぽう』と読むケースが多いため、『さきがた』という読み方を初めて知った人もいるのではないでしょうか?
『さきがた』と読む場合は、少し前・ついさっきを意味します。会話(口語)では、『せんぽう』と『さきがた』を間違えることはありませんが、以下のようにメールや手紙などの文面では、意味の取り違えが発生する可能性があるでしょう。
【例文】
- 先方(せんぽう)から連絡がありました
- 先方(さきがた)連絡がありました
やりとりにおけるミスを防ぐためにも、文面では『今しがた』『先刻(せんこく)』『先ほど』などを使うのが望ましいといえます。
「先方(せんぽう)」を使う際の留意点
ビジネスシーンでは、先方(さきがた)よりも、先方(せんぽう)の方が多く使われます。今回は、先方(せんぽう)の正しい使い方や留意点を確認しましょう。
■その場に相手がいる場合は使わない
『先方』は、その場にはいない第三者を指す表現です。社内や身内でのやりとりにおいてのみ使え、話題に上っている相手がその場にいる場合には使えません。
例えば、社内ミーティングや社内のグループチャットにおいて、取引先であるA社を『先方』と呼ぶのはOKですが、A社の担当者が出席しているミーティングやチャットで、A社を『先方』と呼ぶのは間違いです。
その場に相手がいる場合には『〇〇様(担当者名)』、相手と直接やりとりをする場合には『御社(おんしゃ)』を使いましょう。御社は相手の会社に対する敬称です。文面でのやりとりにおいては、御社の代わりに『貴社(きしゃ)』を使います。
■「先方様」や「先方殿」は誤用
ビジネスシーンでは、敬語を用いるのが常識です。「相手を先方と呼ぶのは失礼だ」と考えて、『先方様』や『先方殿』という言葉を使う人がいますが、これらは正しい表現ではありません。丁寧に感じるどころか、敬語の使い方を理解していない人と認識されてしまう恐れがあります。
そもそも先方はその場にいない第三者を指すため、敬語自体が存在しません。『殿』は、人の姓名の下に付ける敬称で、役員や上司などの目上の人から目下の人に対して使われます。目上の人はもちろん、取引先や顧客に対して用いる際にもふさわしい表現とはいえません。
敬意を示すなら「先様」を使う
話題に上っている人物への敬意を示したい場合は、先方様ではなく『先様(さきさま)』を使いましょう。先様は、相手または話題に上っている人を敬って用いる言葉です。
例えばビジネスパートナーとの商談で、その場にはいないA社が話題になった際に、A社に敬意を示して先様と表現します。ただし人によっては、古めかしさや違和感を覚える可能性もある点を覚えておきましょう。
【例文】
- 先様の意向はどうなのでしょうか
- 先様からは、問題がないと聞いております
- 先様がどのようにお思いかは分かりませんが、私どもとしては取引を続けたいと考えております
「先方」の言い換え表現・類義語は?
ビジネスシーンで使えるボキャブラリーを増やすことで、相手や状況に応じた適切な言葉や表現ができるようになります。先方の言い換え表現や類義語もチェックしましょう。
■相手方・あちら・向こう
先方の類義語は、『相手方(あいてかた)』『あちら』『向こう』です。自分や自分が属する側と相対する代名詞で、相手がいる前では使えません。失礼な呼び方だと感じる人もいるため、TPOに応じた適切な言葉を選ぶ必要があります。
【例文】
- 相手方に確認をしたところ、数量に間違いはないとのことでした
- あちらが提示してきた金額には納得がいきません
- 今回のトラブルは、向こうが過失を認めています
■取引先・客先・〇〇様
社内でのやりとりにおいては、先方を『取引先』や『客先』と呼ぶケースがあります。
【例文】
- 取引先との打ち合わせに行ってまいります
- 鈴木さん、客先に資料を送っていただけますか
- 客先から工場に直接クレームが入ったようです
呼び方が丁寧さに欠けると感じる場合は、以下のように言い換えてもよいでしょう。
- 名前が分かっている場合:〇〇様
- 名前が分からない場合:(〇〇社の)ご担当者様
取引先や客先といった呼び方だと、どこの誰を指しているのかが分かりにくく、認識の違いによるミスが生じかねません。複数の取引先を相手にしている場合は、具体的な社名を出すのが望ましいといえます。
「〇〇会社さん」や「〇〇会社様」は、会社の敬称として正しくはないものの、マナーとしては問題ないとする見方もあります。
「先方」の対義語も覚えておこう
先方の対義語には、『当方』『私ども』『当社・弊社』などがあります。いずれもよく使う表現なので、意味や正しい使い方をしっかりと覚えておきましょう。相手やシーンに応じて、言葉を使い分けることが重要です。
■当方
『当方(とうほう)』は、自分が所属する組織(会社・部署・チーム)を指す言葉で、自分の方・自分の属している側・こちらという意味があります。使用の際は以下の点に注意しましょう。
-
- 個人の見解を述べる際には使わない
- 契約書などの正式なビジネス文書では使わない
- 社内の人には使わない
自分の見解を述べる際に当方を使うと、組織全体の見解と認識されてしまいます。当方ではなく、『私』や管理職であれば『小職(しょうしょく)』を使いましょう。以下は当方を使った例文です。
【例文】
- 異物混入の件につきまして、当方で原因を調査中です
- 書類の確認後、当方からご連絡いたします
- 破損や紛失があっても、当方は一切の責任を負いかねます。何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます
■私ども
『私ども(わたくしども)』は、自分や自分が属する集団を意味する言葉です。私どもと同じ意味の『手前ども(てまえども)』を使う人もいます。自分をへりくだるニュアンスが含まれるため、取引先や顧客などの社外の人に対して使いましょう。
【例文】
- このたびは、私どもの不手際により多大なるご迷惑をおかけしました
- 私どもの都合を先に申し上げますと、〇月〇日の〇時以降を希望しております
- 手前どもの都合で大変恐縮ですが、別の日程で調整いただけると幸いです
■当社・弊社
『当社(とうしゃ)』と『弊社(へいしゃ)』は、どちらも自分が属する会社を指します。両者の違いは、謙譲の意味合いが含まれるかどうかという点です。
弊社は自分の会社をへりくだる表現であり、相手や相手の会社を立てる目的があります。当社には謙譲の意味合いがなく、相手や相手の会社を立てる必要がない場面で使われます。当社は社内文書や社内のプレゼンテーションでも使えますが、弊社は社外の人に対してしか使えません。
【例文】
- 当社は創立以来、相続・事業承継の専門家として、多くの事案を取り扱ってきました
- 当社の強みは、全ての作業を自社工場で行なえることです
- 平素より弊社のサービスをご愛顧いただきまして、誠にありがとうございます
構成/編集部