2)「農業×ICT×流通」~AIで野菜の受注と生産をコントロール
持続可能な農業のアプローチの一つ、植物工場。近年は驚くほど発展を続けている。最先端のICTやAI、植物工場技術を駆使し、持続可能な食料供給や環境保護の実現へとつなげている企業がある。
その企業の一つが、「農業×ICT×流通」を手がけているベンチャー、株式会社ファームシップだ。
「植物工場で生産された野菜を、スーパーやコンビニに届けるのが当社の事業です」
そう話すのは同社取締役の宇佐美由久氏。
植物工場の生産から販売まで、ノウハウやハード面、ソフト面、技術面からバリューチェーン全体を支援する。
その起点となる植物工場は関東、静岡、三重、福島などに広がりネットワークを構築している。同社は大手企業の植物工場事業参入をサポートし、野菜流通は同社が請け負う。
その植物工場の一つ、 静岡県にある「ブロックファーム沼津」は全量自家消費メガソーラーによりほうれん草を栽培している。収穫後の加工や冷凍も切れ目なく行える一体型となっており、生産量の柔軟なコントロールにより、多様な市場ニーズに対応する。
宇佐美氏は青果物市場や流通の課題について次のように語る。
「スーパーなどの小売店からは出荷の前日に注文が入りますが、生産や卸売側にとっては生産量との不一致が起こることから、野菜の廃棄ロスや機会ロスの発生につながる課題があります」
そこで同社は「天候や卸売市場の動向から、受注量をAIで予測する技術」や「植物工場の生産量のAI制御」などを通じて受注と生産をマッチさせ、野菜の過不足を極限まで少なくする技術を確立した。
「天気まかせだった農業を、AIが工業のように制御された生産に生まれ変わらせることはイノベーションであると自負しています」(宇佐美氏)
●取り組みへの思い
「高齢化と後継者不足により、農業の仕組みの大規模な改革が必要である中、我々はAIと植物工場技術を活用し、より良い労働環境を構築し生産性を高め、フードロスを削減します。また植物工場では、生産性を従来の100倍以上に向上させながら、再生可能エネルギーの活用によりゼロカーボンを目指すことができます。これらを通じて農業の未来を刷新することに尽力します」(宇佐美氏)
植物工場は、新たな農業として可能性が広がっている。若手も含めた新規参入者が期待できる分野ともいえそうだ。