担い手不足や高齢化などの課題に直面する農業。様々な分野の知見や技術を組み合わせることで課題解決を目指しながら、新しいイノベーション創出につなげる手法が進められている。
今回は、農業と何かをかけあわせることで、課題を解決すると共に、イノベーション創出を目指す取り組みを3つ取り上げる。
1)「農業×障がい福祉×企業」~3つの社会課題を積極的に解決
農業の担い手不足と障がい者と企業の雇用問題の3つ「農業×障がい福祉×企業」をかけあわせたのが、株式会社ワンライフが手がける「ONENOUEN(ワンノウエン)」だ。
「農家が減少する一方で、障がい者人口は増加の一途を辿っています。我々は『障がい福祉に選択肢を増やすこと』を目指しており、ワンノウエンはその一つ。農業を通じて就労の技術を向上させ、障がい者の農業での独立や就職をするためのスキルを磨くAB多機能事業所です」
そう話すのは同社の取締役 梅沢徳宏氏だ。
障がいや病気などにより就業がむずかしい人に対して、必要な支援を提供する「就労継続支援」にはA型・B型の2種類がある。
簡単にいえば、A型は障がい者は事業所と雇用関係を結び、給料が支払われる形で、B型は雇用関係を結ばず軽作業などの就労訓練を行う形。AB多機能事業所はそれらの両面を持つ。
「ワンノウエンでは障がい者が農業を通じてさまざまな経験・体験をすることができ、就労技術を向上させ農家・農業従事者を目指せる環境を提供。または日々の作業で培った自分への自信により企業などへの一般就職に向け、学習するための就労継続支援事業所の役割も持ちます」(梅沢氏)
このモデルは企業の課題解決にもつながる。
障害者雇用促進法により、対象企業は障がい者雇用について法定雇用率2.3%の達成を求められているが、法定雇用率達成企業の割合は48.3%(※)にとどまっており、半数以上の企業が達成できていないのが現状だ。
さらに法定雇用率は2024年4月から段階的に引き上げられ、2026年7月からは2.7%の達成を求められることになり、現段階で達成している企業も含め、ますます法定雇用率の達成はむずかしくなると見られている。
「就業継続支援は国から給付金を受けられるので、企業は事業を安定化させることもできます。ワンノウエンでは農業に従事する人も確保でき、農家としても収益性は向上します。そのため『農業×障がい福祉×企業』の3つの社会課題を積極的に解決する新しい形であり、持続可能な地域を創出する一つのモデルとなり得ると思っています」(梅沢氏)
同モデルは全国的にフランチャイズ展開も開始し、同事業所で栽培した野菜のブランド化も進めている。
栽培野菜ブランド「ハート農(ハートノウ)」ブランドロゴと商品イメージ
●取り組みへの思い
「障がい者などが農業で活躍することを通じて、自身の生きがいを持って社会に参画する機会を作りたいと考えています。減っていく農家と増えていく障がい者が相互に支援し合いながら成長することで、持続可能な共生社会を生み出したいと思っています」(梅沢氏)
3つの社会課題解決により、フランチャイズ化や新しいブランド価値の創出などを通じてイノベーションが生まれることも期待したい。