株式会社の最高意思決定機関である「株主総会」にもデジタル化の波が押し寄せている。
会社法が改正になり、2023年3月からは上場企業に対し、株主に送る株主総会資料のオンライン提供が義務化された。また2020年のコロナ禍を発端に、株主総会の開催自体もデジタル化が進み、わざわざ会場に出向かず、自宅から出席可能になる企業が増えた。
ビジネスパーソンの教養として知っておきたい知識や、未だに残る課題などを本記事でまとめた。
株主総会資料の電子提供制度
2022年9月の改正会社法によって制定された。これまでは、株主総会資料や議案への投票を行なう議決権行使書はすべて紙で送られてきた。電子提供制度では、通知書面に資料が閲覧できるウェブサイトのURLが書かれており、株主はスマホやパソコンから資料が確認できる。
引用元:日本証券業協会
電子提供制度を支えるソリューションの例
2023年5月から提供が始まった電子提供制度向けのソリューションである。” 株主総会の日時・場所や議案の詳細といった招集通知の閲覧機能に加え、企業情報の閲覧、議決権行使、バーチャル株主総会サイトへのアクセスなど、株主総会に関連する各種サービスをシームレスに提供”(プレスリリースより)と銘打ち、株主総会関連事務のデジタル化を推し進め、上場企業経営の合理化に一石を投じている。
完全デジタル化にはまだ至らない。難易度が高い課題とは?
株主総会の議案説明資料は電子交付されているのに、議決権行使書が紙なのはなぜだろう。
議決権行使書はそもそも下図のように、株主総会の議案に対し賛否を投票する目的がある。
■議決権行使書のイメージ
先述した株主総会ポータルをはじめ、同類のソリューションでは印刷されているQRコードを読み取って投票ができるので、この用紙を提出する必要はない。しかし、株式会社では保有する株数に比例して票数が増えるので、大株主になればなるほど議決権行使書に、意思決定の重みが出てくる。この議決権行使の重みがリスクになってしまうのだ。
つまり、第三者が勝手に投票できてしまうリスクがあるので、議決権行使をする人の本人確認が必須になる。
郵送で議決権行使書が株主宛に送り、そこに書かれたQRコードとパスワードを使って投票させることで本人確認となっている。
株主一人ひとりの番号が振られているので、ネット銀行やネット証券のログイン機能と同じように、パスワードを設定させれば完全電子化の道が見えてくる。だが、証券取引の事務処理の仕組み上、業界横断的な対応が必要であるため、難易度が高いといえる。
■証券取引・株主名簿管理の仕組み
複数の証券会社で同じ上場企業の株式を売買した場合でも、名寄せが行われて株主総会の招集通知や配当金の支払いなどが行われる。証券会社の口座と、株主名簿管理人とを紐づけられれば、議決権行使の電子化ができそうだが、投資家の中にはネット証券ではなく営業店舗でしか取引をしない人や、機関投資家のように法人で取引を行っている場合もあり、株主データ管理がかなり複雑であるといえる。