「オレの背中を見て覚えろ」世代の管理職には価値観変容を目的とした手法を
人材育成・研修サービスを提供するアルー株式会社は、企業のパワハラをはじめとしたハラスメント研修のサポートも行っている。
同社は過去に研修をサポートしたある日系メーカーで、管理職向けハラスメント防止研修を行った。
アルーのデジタルマーケティング部部長で、10年以上大手企業の人材育成コンサルティングに従事する羽鳥丈太氏に話を聞いた。
「この企業様では、管理職とメンバー間でコミュニケーションの齟齬を発端としたハラスメント事案が複数発生していました。例えば管理職が多く集まる会議中に、管理職から若手メンバーである外国籍社員に対するコミュニケーションが十分でなかったために、部下の心象を傷つけてしまったケースも。これは管理職が多くの人が集まる前で、メンバーの価値観や背景を考慮せず、自身のスタイルや文脈を押し付けていると捉えられてしまうコミュニケーションをとったことが原因でした」
そこで管理職向けにハラスメント防止を目的とした人事施策を行う必要性が生じた。
管理職自身がハラスメントに対する意識を強化する必要があったが、従来よくある半日~1日のハラスメント研修では効き目が薄いことは、明確だった。ましてや、長年の経験と知見を有している管理職の価値観を変化させることは単発施策では不可能に近い。そこで同社は単発ではなく、管理職の価値観変容に伴走するオリジナルの「マネジメントジャーニー」手法を提案した。
「マネジメントジャーニーとは、1時間~2時間の短時間かつ対話型の研修と実践・振り返りを交えたスタイルで、実践→対話→振り返りを9回繰り返すことで、難易度の高い管理職の価値観の変化を現場経験を通じて行う手法です」
技術面として、コミュニケーションスキルもアップデートが必要だ。講義でインプットし、グループワークやロールプレイなどの演習でスキル習得を体得することにした。
●パワハラ研修を成功させる秘訣
羽鳥氏はパワハラ研修を成功させる秘訣について次のように話す。
「管理職のハラスメントに対する課題を解決するためには、まずハラスメントに対する適応課題と技術的課題に分け、それぞれの課題への対応を検討することが必要です」
適応課題では管理職の思い込みを取り除くことが肝要。よくある管理職の価値観は次のようなものだという。
『これまでの上司は皆、指示命令系で部下はそれに従うだけだったし、自分は丁寧に教えてもらったことがない。それで成長してきた。だからこれまでの上司と同様のコミュニケーションや部下指導をしようと考えている。そもそもなぜ、丁寧に教えないといけないのかわからない。昔なら皆、そうして頑張って仕事をしていたのに、最近の若者はただ、甘えているだけではないか?』
このような価値観を変えるには、「管理職に自身が変化することに対して当事者意識を持たせることが重要です。そのためにも、管理職自身にこれまでになかった新しい価値観・考え・行動を実践する現場経験と振り返りを通じた対話を何度も繰り返すことで、新しい価値観へと変えることにつながります」だと羽鳥氏。
また価値観の変化が起きたとしても、部下との関わりの中で管理職が適切なコミュニケーションや行動をしていくことが必要。そのためには、管理職の技術的課題としてスキルのアップデートも必要だ。
「ハラスメントにおける技術的課題は、知識だけでなく、具体的に部下にどう接すればよいかというHOWを身に着けることで対応します。講義の知識インプットだけでなく演習やロールプレイで管理職本人に体感させることが求められます。例えば上司の背中を見て育ったタイプは指導の仕方の方法を知りません。そこで『やってみせ、言って聞かせ、させてみてほめる』という手順を実践できるようにするなどが有効です」
また、部下に一律の対応しかできない管理職の場合は、部下をタイプ別に分類し適切なコミュニケーション、関わり方をしていくことが求められます」(羽鳥氏)
無自覚のパワハラは、管理職の価値観やコミュニケーションスキル不足によるところもあることがわかった。ただ「パワハラは良くない」と植え付けるだけでなく、価値観変容やスキルアップもパワハラ研修の一種となりそうだ。
パワハラ研修をはじめとしたハラスメント研修は、企業規模問わず重要になっている。この機会に、自社の研修の見直しを行ってみるのもいいかもしれない。
【参考】
パーソルイノベーション「コミックラーニング」
アルー株式会社 サービスサイト
https://service.alue.co.jp/
文/石原亜香利