ちょっと猫背な動物のぬいぐるみが現在、人気を集めている。ドリームズの『ふんばるず』のことである。
2023年2月に発売された『ふんばるず』は、姿勢を補正する機能を持っているのが最大の特徴。机と人間の間に挟むと、人間の背筋がピンとなるようにしてくれる。
サイズ、動物の種類で豊富なバリエーションを擁し、バラエティショップやECサイトなどで販売。2023年11月末日時点で、累計12万6000個以上が売れている。
Lサイズ。現在15種類がラインアップされている
イスに座ったとき、机やテーブルの間に挟むと猫背な姿勢をシャキッとさせてくれる
ぬいぐるみをオフィスで使える健康グッズに
ドリームズは生活雑貨を企画・開発・販売する企業。『ふんばるず』は、自社ブランド商品としては初のぬいぐるみになる。
開発がスタートしたのは発売の1年ほど前。ただ、構想自体は少なくとも、発売の5年ほど前にはされていたという。開発の背景をマーケティング部 係長の川島大志さんは次のように話す。
「当社の商品はすべて『お客様に癒しを提供する』というコンセプトに基づいて企画・開発しています。見ていただいたり使っていただいたりすることで疲れを癒すという思いから様々な商品をつくってきましたが、新ジャンルの商品をつくる上で注目したのが、ぬいぐるみでした」
ぬいぐるみの新ブランドを立ち上げるに当たり、差別化の観点から使ってもらえる機能をプラスすることにした。同社の商品は25歳の働く女性をメインのペルソナ(=ユーザー像)にして開発していることから、オフィスでのデスクワーク時に使える機能的かつ健康にいいグッズを検討した結果、背筋を伸ばし猫背を正す機能を持たせることにした。
猫背に着目したのは、猫背で悩んでいる人が社内にいたことや、猫背を正す既存の健康グッズがオフィスで使いづらいことがあった。川島さんは次のように話す。
「猫背を改善する既存の健康グッズは、いかにも健康器具といった見た目なものばかりでした。女性は人の目を気にしがちですので、オフィスで使いづらいです」
人間の姿勢を思いやる心を持った動物たち
『ふんばるず』の開発は、まずはLサイズ4種とMサイズ『小さなふんばるず』全4種(販売終了)、Sサイズ『もっと小さなふんばるず』全10種から始まった。
動物の選定基準は、単体でふんばっている姿がカワイイことだという。Lサイズ4種とMサイズ全4種だとウサギ、クマ、ナマケモノ、オランウータンが選ばれている。
ウサギとクマは、ぬいぐるみの定番であることから選ばれたが、ナマケモノとオランウータンは、見た感じがユルく使っているとなでたいと思わせることができることから選ばれた。
使っていくうちに潰れて機能が果たせなくならないよう、中に芯材を入れることにした。芯材はハート形。猫背の姿勢をサポートする思いやりの心を持っているという商品の世界観から決まった。「硬さと大きさは試行錯誤しました」と川島さんは振り返る。
中に仕込まれているハート形の芯材
開発で難航したのが、ぬいぐるみ単体でふんばらせることだった。川島さんによれば、ぬいぐるみのサイズ、芯材の大きさ・形状・配置場所によってはふんばって机にしがみつくことができず床に落ちてしまう。様々なサイズのぬいぐるみと様々な大きさ・形状の芯材をつくって組み合わせて検証を重ねた。
ぬいぐるみだけに第一印象で「カワイイ」と思ってもらえる表情にすることも大切だったことから、サンプルは数え切れないほど大量につくった。川島さんから見て表情づくりが難しかったのはオランウータン。社内では評価が「カワイイ」と「カワイくない」の真っ二つに分かれたほどだった。
動物ごとにキャラクターを細かく設定
『ふんばるず』の動物には名前があり、細かなキャラクター設定もなされている。例えば、ナマケモノであれば名前はノッソリー。キャラクター設定は次のようになっている。
ナマケモノのノッソリーはのんびり屋。動いていないように見えて実は少しずつ動いている。ウータン(オランウータンの名前)のいたずらにまったく気づいていない
キャラクター設定は、キャラクターとして認知してもらうことと愛着を持ってもらうために行なった。『ふんばるず』同士の関係性やストーリーを深める要素になっているという。川島さんは次のように話す。
「キャラクターとして性格や設定を設けることで、ただの動物のぬいぐるみとしてではなく、より愛着を持ってもらえるようにしました。お買い求めいただく際に、好きな動物で選んでいただくことももちろんですが、キャラクターを設定することによりご自身の性格と似た動物を選んでいただくなど、購入する際の楽しみが増えます」
海外メディアでも紹介され注目を集める
開発した中からまず発売になったのはLサイズの4種。MサイズとSサイズは、Lサイズが発売された1か月後の2023年3月に発売される。
Lサイズは働く女性向けだが、一回り小さいMサイズは中高生向けで、Sサイズは『ふんばるず』の認知拡大を目的としたマスコットという位置付けになる。Sサイズはボールチェーンでスクールバッグなどにぶら下げられるようになっているが、中に芯材が入っていない。その代わり、LサイズやMサイズにはないハートの刺繍が胸に施されている。
初のぬいぐるみであることに加え機能性があることから、市場の反応が読めなかったが、「売れ行きは予想以上」と川島さん。小売店の反応も好意的で、「カワイイ」という声が多くを占めた。マーケティング部の玉城桃佳さんは次のように話す。
「とくに女性から『カワイイ』という声を多くいただくことができました。猫背が気になっていた人も多くいらっしゃったことから、今までにないアイテムだと機能面も好評でした」
ドリームズ
マーケティング部係長 川島大志さん(右)
マーケティング部 玉城桃佳さん(左)
発売後はブランドサイトを開設して商品の世界観を伝えるようにしたほか、インフルエンサーを活用してSNSで世界観を伝えるなどした。店頭では、ぬいぐるみ単体でふんばっているところや思いやりの心を持っていることを象徴するハート形の芯材を見せる専用の什器を使って陳列することもした。
『ふんばるず』の特徴である単体でふんばれる点と思いやりの心を象徴するハート形の芯材を示す店頭の什器
Sサイズについては2023年3月に、ハートの刺繍がないバージョンをカプセルトイ『ボクたちねこぜな ふんばるず』としてバンダイが発売。若年層へのアピールに一定の成果があったという。
ぬいぐるみに機能を持たせたことから、発売直後からテレビの情報番組を中心にメディアで取り上げられる機会が多かった。同社が思っていた以上にメディアで注目されたが、予想外だったのは、海外でも発売直後から注目を集めたこと。2月に香港の現地メディア『U Magazine』、X(旧Twitter)でのタイ人のポスト、フランスの現地メディア『CREAPILLS』で『ふんばるず』が紹介される。これがきっかけで、海外から同社の公式オンラインショップに注文が入るようになり、一時期は大いに賑わった。
海外での情報発信は同社から働きかけて実現したものではなく、メディアやXユーザーが自主的に行なったこと。思いがけない形で海外展開が進んだ。
心地良い温かさでお腹を温める『ふんばるずウォーマー』
『ふんばるず』は2023年夏からラインアップの拡大を始める。
まず7月にLサイズでミケネコ、ハリネズミ、アヒル、パンダの4種、8月に同じくLサイズでカワウソ、アザラシ、ペンギン、ウーパールーパーの4種が発売された。同じく8月に新たなサイズとしてLLサイズ1種(ナマケモノ)、11月に温める機能をプラスした『ふんばるずウォーマー』2種も発売されている。
LLサイズはLサイズを約1.3倍に拡大したもの。『ふんばるずウォーマー』は電子レンジで30秒(500W)温めたビーズ袋を本体の背中に入れると心地よい温かさが約40分間持続する。
『ふんばるずウォーマー』。ナマケモノ(左)とハチワレの2種類をラインアップしている
LLサイズと『ふんばるずウォーマー』の発売の狙いについて、玉城さんはこのように話す。
「メインで販売しているLサイズで動物の種類を増やすだけでは話題性に欠けてしまうところがあるので、カンフル剤の意味として発売することにしました」
『ふんばるずウォーマー』に関しては以前からアイデアはあったが、「お腹を温めてくれるタイプが欲しい」といった声もあり商品化に至った。デスクワーク中に寒さや冷えが気になったときや腹の調子が良くないときなどに使える。
また12月下旬には、大人気アニメ『SPY×FAMILY』とコラボした『ふんばるず SPY×FAMILY』3種の新発売と、Lサイズのシバイヌ、クロシバ、ドラゴン3種の発売が控えている。
『ふんばるず SPY×FAMILY』。左からボンド・フォージャー、キメラさん、ペンギン
取材からわかった『ふんばるず』のヒット要因3
1.機能性で差別化
動物のぬいぐるみは無数にあり、普通につくったら目立たない。猫背を正すという機能性をプラスし差別化したことで話題性が生まれ、売場で埋没することもなかった。
2.独自の世界観と動物ごとのキャラクター設定
人間の姿勢を良くする思いやりの心を持った動物、といった世界観を打ち出したほか、動物ごとに名前をつけキャラクターも細かく設定。ブランドサイトを通じて世界観とキャラクター設定に関する情報を発信するなどして、共感を得たり親近感を感じ取ってもらえたりした。
3.健康器具らしからぬかわいさ
姿勢を正すこれまでの健康グッズは、いかにも健康器具という見た目などから、女性がオフィスで使うには人目が気になり使いづらいところがあった。カワイイ動物のぬいぐるみにすることで、家だけではなくオフィスでも使いやすくなった。
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同社がSNSで確認した限りでは、ユーザーの中には最多で3個持っている人がいるほど。猫背を正す機能を求めて購入するのであれば1個持っていれば十分だが、動物のぬいぐるみなので集めたくなる側面もある。
果たして集めたくなる健康グッズはこれまであっただろうか? 『ふんばるず』は売れるべくして売れた感がある。
ブランドサイト
https://www.dreams6.com/products/funbarus/
文/大沢裕司