裁判所のジャッジ
Xさんの勝訴です。足りない給料896万円の請求が認められました。
▼ まずは足りない分の給料
裁判所
「年俸は1466万円なのに会社は1300万円しか払っていなかった。もろもろ計算すると896万円の未払いがあるから払え」
会社
「ちょっと待ってくださいよ!Xさんは入社してから3年間、何も文句を言わなかったんですよ!ってことは年俸が1300万円であることを了解してたってことでしょ!」
――Xさん、何で文句を言わなかったんですか?
Xさん
「収入としては十分でしたし……。あと、もし会長に抗議すれば年収を大幅に下げられるおそれがあったんです。最悪、退職させられることにもなりかねず、文句を言えませんでした。ガマンしたほうが経済的合理性があると考えたにすぎず、1300万円という金額に納得していたわけではありません」
裁判所
「そうだね、会長は創業者で社内で一定の影響力を持っていただろうから、ガマンするというXさんの行動も理解できる。1300万円で合意していたとは認定できません。契約書記載のとおり1466万円だと認定します」
▼ 賃金の減額もダメ
会社
「としてもですよ!弊社は、キチント社内規程に基づいてXさんの賃金を減額しております。これは何ら問題ございません!」
裁判所
「問題ありありです。今回の賃金減額はダメです」
・ 解説
社員の同意を得ずに賃金規程などに基づいて減額する場合、減額事由、減額方法、減額幅などの点で、基準としての一定の明確性がなければならないんです。
裁判所
「この会社の規程は『担当職務の見直しに合わせ、給与の見直しを行なう場合がある。見直し幅は、都度決定する』とフワフワとしており、一定の基準が示されているとはいえません。なので減額は無効です」
ですよね。会社にドデカイ采配を与えたらバンバン減額してきますもんね。
会社
「しかしですよ!Xさんは降格を受け入れて仕事を続けていたんですよ。賃金の減額を了解していたといえるでしょう」
裁判所
「またこの反論ですか……。了解してねぇと認定します」
・解説
賃金の減額に同意していたか?については裁判所はチョー慎重に検討します。従業員にとって死活問題ですから。ザックリいえば「ホントに心の底から同意してたのか?」を検討します。正確にいうと「賃金の減額に対する労働者の同意の有無については、労働者が自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か」という観点から判断されます。
裁判所
「今回のケースでは、Xさんが自由な意思で減額に同意していたとはいえません」
シブシブ降格を受け入れてシブシブ働き続けていただけでは、減額に同意してたと認定されないようですね。
というわけで、足りない給料896万円の請求が認められました。
さいごに
一方的な賃金減額については、裁判所は「同意があったか?」について慎重に検討するのですが、同意書を書いてしまった場合にはカナリ危険度が上がります。
■ 社員が勝った裁判例
同意書を書いても勝った裁判例もあるんですが、例外的だと考えてください。
この事件では社員が「今後貴社に賃金等一切の請求をすることはありません」と書かれた書面にサインしたのですが裁判所は「同意は無効」と判断。理由は、自由な意思に基づいた同意ではなかったから。
こざかしい会社などは同意書へのサインを求めてくるので、サインする前に労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストしてください。また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
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