2. 現行犯人は誰でも逮捕できる|私人逮捕もOK
刑事訴訟法213条は「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」と定めています。
「何人でも」とあるとおり、現行犯人は誰でも逮捕できます。したがって、現行犯人を対象とする限りは、私人逮捕も認められます。
3. YouTube企画としての私人逮捕の問題点
YouTube企画の一環として私人逮捕を行なった結果、逆に警察に逮捕されてしまう事件が発生して話題となりました。
YouTube企画として私人逮捕を行うことについては、主に以下の2点について法律上の問題が生じ得ると思われます。
※なお、本記事は個別の事案に関する見解を述べるものではありません。
(1)「現行犯人」の要件を満たさない
(2)私人逮捕後、速やかに検察官・警察官に引き渡さない
(3)犯罪を唆している(教唆)
3-1. 「現行犯人」の要件を満たさない
私人逮捕の対象は「現行犯人」に限られており、現行犯人以外の者に対する私人逮捕は違法です。
現行犯人とは、以下のいずれかに該当する者をいいます(刑事訴訟法212条)。
(1)現に罪を行っている者
(2)現に罪を行い終わった者
(3)以下のいずれかに該当し、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者
・犯人として追呼されているとき
・贓物(=盗んだ物)または明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき
・身体または被服に犯罪の顕著な証跡があるとき
・誰何されて逃走しようとするとき
YouTube企画として私人逮捕を行なおうとする場合、実際には罪を犯していない人を犯罪者に仕立て上げる、過去に罪を犯した疑いを理由に私人逮捕をするなど、脚色的演出が行われることがあるようです。
これらの演出が行われた場合、私人逮捕の要件を満たしていないと判断され、「逮捕罪」(刑法220条)などの責任を問われる可能性があります。
3-2. 私人逮捕後、速やかに検察官・警察官に引き渡さない
現行犯人を私人逮捕した者は、直ちに地方検察庁もしくは区検察庁の検察官、または司法警察職員に引き渡さなければなりません(刑事訴訟法214条)。
速やかに検察官または司法警察職員に引き渡さない場合は、「逮捕罪」(刑法220条)などの責任を問われる可能性があります。
3-3. 犯罪を唆している(教唆)
私人逮捕しようとする相手に対して、目の前で犯罪行為をさせるために何らかの唆し(教唆)を行った場合には、その犯罪の教唆犯の責任を問われることがあります(刑法61条。たとえば、覚醒剤を持ってくるように指示するなど)。
教唆犯には、正犯と同一の刑が科されます。
4. まとめ
私人逮捕は要件を満たせば適法であるものの、その要件は非常に厳格であり、安易に行なうのは危険です。対象者から反撃を受けるリスクもあるため、必要やむを得ない場合を除き、私人逮捕は控えるのが賢明でしょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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