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「とんでもございません」は間違い?
『とんでもございません』は、仕事やビジネスシーンはもちろん、日常会話でもよく見聞きする表現です。ごく当たり前のように使われていますが、実は正しい敬語とは言えません。
■元の言葉は「とんでもない」
『とんでもございません』の『とんでもない』は『徒でもない(とでもない)』の音が変化した形容詞で、以下のような意味があります。
- 思いがけない(意外である気持ち)
- もってのほかである(非難する気持ち)
- 全くそうではない(相手の言葉を否定する気持ち)
『とんでもございません』は、相手の言葉を否定する意味で使われるのが一般的です。例えば、上司や先輩に称賛されたとき、謙遜の意味を込めて「とんでもございません」と返します。
■正しくは「とんでもないことでございます」
『とんでもございません』は文法的に誤った表現で、『とんでもないことでございます』が正解です。『とんでもない』で一語の形容詞であるため、本来であれば『とんでも』と『ない』を切り離せません。
従って、丁寧に言い換えようとすれば、『とんでもないことでございます』や『とんでもないです』が正しい表現といえます。とはいえ文化庁の『敬語の指針』というガイドラインによると、習慣として定着している一部の敬語表現は、使い方に誤りがあっても、使用上は問題がないとされています。
出典:敬語の指針|文化庁
「とんでもございません」の使い方
前述の通り、今では『とんでもございません』は習慣化している言葉。仕事やビジネスでは、『とんでもございません』を使う機会が少なくありません。具体的な例文を挙げ、どのような場面で使われているのかを解説します。
■謙遜の意味で使う場合
目上の人やお客さまからお褒めの言葉をいただいたときは、『まだまだです』『もったいないお言葉です』といった謙遜の意味で使います。
【例文】
先輩:山田さんは仕事が丁寧で的確なので、安心して任せられます
自分:とんでもございません。先輩方のご指導のおかげです
上司:今日のプレゼンテーションは要点がまとまっていて素晴らしかったね
自分:とんでもございません。いつもサポートしてくださってありがとうございます
■相手の言葉を否定する場合
相手から感謝や謝罪の言葉があった場合、「その必要はありませんよ」と相手の言葉を柔らかく打ち消す意味で使います。『とんでもございません』だけで済ませると、相手の気持ちを拒絶しているように聞こえるため、気遣いの言葉を添えるのが望ましいでしょう。
【例文】
先輩:遅くまで手伝ってくれてありがとう。本当に助かりました
自分:とんでもございません。また何かありましたら、いつでもお声がけください
お客さま:子どもが迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした
自分:とんでもございません。お気になさらないでください
「とんでもございません」の言い換え表現は?
『とんでもございません』は、他の表現にも言い換えられます。相手に対して否定的な表現を使いたくない人は、『恐れ入ります』『恐縮です』『光栄です』などと伝えてもよいでしょう。
■恐れ入ります
申し訳ない気持ちや感謝の気持ちを、敬意を持って示したい場合は『恐れ入ります』を使いましょう。『恐れ入る』は、恐縮する・申し訳なく思う・怖がる・脱帽する・あきれるなど、複数の意味を持つ言葉です。
目上の人から褒められたときや謝罪を受けたときは、『とんでもございません』と同じような使い方ができます。
【例文】
上司:気の利いた気配りができるね
自分:恐れ入ります。お褒めいただきありがとうございます
取引先:発注書にミスがあり、大変申し訳ございませんでした
自分:恐れ入ります。こちらも確認が足りず、失礼いたしました
■恐縮です
『恐縮(きょうしゅく)』とは、恐れるという意味の『恐』と、身がすくむという意味の『縮』から成り立っています。
本来は、恐怖で身がすくむことを意味しますが、現代では、ありがたさや申し訳なさ、気恥ずかしさなどを感じて、身がすくむような思いをすることを指します。相手から感謝されたときに『恐縮です』を使えば、謙遜の姿勢を示せるでしょう。
【例文】
上司:山田さんは、目の付けどころが違いますね。これからも期待しています
自分:大変恐縮です。お褒めの言葉をいただき、ありがとうございます
上司:(提出物について)誤字・脱字が一つもなく、内容も素晴らしいです
自分:恐縮です。これからも期待に応えられるよう尽力します
■光栄です
『光栄(こうえい)』とは、相手に褒められたり、重要な役目を任されたりして、名誉に思うことです。目上の人はもちろん、同僚や目下の相手にも使えるため、『とんでもございません』よりも活用シーンは多いでしょう。
より丁寧な表現をしたいときは、『光栄に存じます』を使います。『存じます』は、知っている・思っているの謙譲語『存じる』に、丁寧語の『ます』を付けた敬語です。
【例文】
上司:山田さんのアイデアで、とても魅力的なパッケージが完成しました。これからも頼りにしています
部下:お褒めの言葉をいただき、身に余る光栄です
お客さま:山田さんの丁寧なサポートのおかげで、長年の課題が解決しました
スタッフ:お褒めに預かり光栄です。今後ともよろしくお願いいたします
構成/編集部