コロナ禍で実行された実質無利子・無担保(ゼロゼロ)融資などの新型コロナ関連融資により、その後に過剰債務状態に陥った中小企業の出口戦略としても注目されている「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」 (以下、GL)。2022年4月の運用開始から1年半が経過した。
今年8月30日に公表された『挑戦する中小企業応援パッケージ』(経産省・金融庁・財務省)における「再生フェーズ」の体制整備項目となっており、10月17日には金融庁が活用事例を公表するなど徐々に利・活用が進んできている。
そんな中、国データバンクは、GL手続きのなかで中立的な立場から再生支援を担う「第三者支援専門家」として中小企業基盤整備機構、および事業再生実務家協会が公表しているリストに登録のある専門家(弁護士・公認会計士・税理士・中小企業診断士など213名)に限定してGLの対応状況についてアンケート調査を実施。
回答結果をもとに現状を分析したレポートを発表したので、本稿では、その内容を抜粋してお伝えする。
「 第三者支援専門家」としての関与は33.3%、手がけた件数は145件
「第三者支援専門家」213名に対して、GL運用開始後、「GLに基づいた事業再生を手がけた・あるいは手がけているか」尋ねたところ、156名が回答(無回答57名)。156名のうち「はい」が52名(構成比33.3%)、「いいえ」が104名(同66.7%)となった。
運用から1年半で約3割の専門家が「第三者支援専門家」としてGLに基づいた手続きに関わったことが判明した。
GLの利用実績
「はい」と回答した「第三者支援専門家」52名に、手がけた・あるいは手がけている案件について尋ねたところ、手続きが開始となった件数は145件だった。145件のうち、再生型私的整理は99件(構成比68.3%)、廃業型私的整理は46件(同31.7%)だった。
手続きが開始となった145件の進捗について尋ねると、すでに再生計画案が成立したものが55件(構成比37.9%)だった。このうち、計画をすでに実施・完了しているものが41件(同28.3%)だった。
計画案が成立した55件の内訳は、再生型私的整理が38件(構成比69.1%)、廃業型私的整理が17件(同30.9%)。再生型38件のうち、債務減免、リスケがそれぞれ19件(同50.0%)だった。
計画をすでに実施・完了している41件の内訳は、再生型私的整理が28件(構成比68.3%)、廃業型私的整理が13件(同31.7%)。再生型28件のうち、債務減免は19件(同67.9%)、リスケは9件(同32.1%)だった。
再生案件は「関東」と「近畿」、年商・負債は「1億~5億円未満」に約4割がそれぞれ集中
2022年4月~2023年9月までに発生したGLに基づく事業再生案件145件について、「第三者支援専門家」に「業種」「所在地」「年商規模」「負債規模」「依頼を受けた経緯」について尋ねた結果を分析した。(1案件1回答ではないため、母数は一致しない)
業種別でみると、「製造」が33.0%で最も高く、「小売」が25.0%、「サービス」が13.0%で続いた。「その他」には今回のGLで扱えるようになった社会福祉法人などがある。
所在地別でみると、「関東」が33.0%でトップとなり、「近畿」が32.0%、「中国」が12.6%と続き、「関東」と「近畿」で全体の65%を占めた。
年商規模別にみると、「1億~5億円未満」が38.7%で最も高く、「5億~10億円未満」が18.3%、「10億~50億円未満」「5000万~1億円未満」はともに17.2%となった。
負債規模別にみると、「1億~5億円未満」が41.4%で最多となり、次いで「5億~10億円未満」が21.8%で続いた。年商・負債いずれも「100億円以上」の案件はなかった。
「第三者支援専門家」を依頼された経緯を尋ねると、「外部専門家」からの依頼が72.9%と最も高く、次いで「金融機関」からの依頼が24.3%、「その他」が2.8%となった。「その他」は中小企業活性化協議会(以下、協議会)などがあった。GLで、協議会では取り扱いのなかった廃業型私的整理が新たに設けられたため、協議会で進めていた案件が、GLの廃業型私的整理に移行したケースなども聞かれた。
調査結果まとめ
昨年4月から運用がはじまったGLの案件数は今年の9月末時点で判明したのが145件となった。「第三者支援専門家」リストの専門家のうち、アンケートに回答した156名の約3割に当たる52名が「第三者支援専門家」としてGLに基づく私的整理を手がけたことが判明した。1人あたり1件~複数件手がけており、複数手がける専門家は「関東」と「近畿」に集中している。
専門家のなかには「第三者支援専門家」ではなく外部専門家として関わっているケースも多くみられるほか、地域によっては企業や金融機関のGLに対する認知度が低く、再生メニューとしては全国的にはまだ定着していない印象だ。
協議会の2022年度の再生計画策定支援の完了件数は1067件で、そのうち債務圧縮や減免を伴う抜本的な支援は115件だった。GLは、手続きが類似する協議会と比べるとまだ認知度も低く、件数は決して多くはない。他方で、協議会では扱うことができない社会福祉法人や学校法人等を扱うことが可能であるうえ、GLでしか扱えない廃業型私的整理手続きもあるなど、「需要は高く今後は増える」とみる専門家が多かった。
専門家からは実務面で「補助金の手続き」に関するコメントも多く聞かれたが、慣れの問題もあり、案件数が増えるに従ってスムーズに行われるようになっていくものとみられる。
今後については、私的整理の選択肢として、専門家に限らず金融機関、中小企業自身においてもいかにしてGLの認知度を高めるかが当面の課題と言えよう。
関連情報
調査期間/2023年8月28日~9月29日
有効回答数/213名中156名(回答率73.2%)。
調査機関/株式会社帝国データバンク
関連情報
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p231010.html
構成/清水眞希