今の時代に合わせた、新しいビール作りに挑戦したサントリー。2023年4月に発売を開始した新商品「サントリー生ビール」は、一口目の飲みごたえと、かつてない飲みやすさを実現。発売開始からわずか3か月で200万ケース(※)を突破。当初年間販売計画300万ケースを7月には400万ケースに上方修正し、達成の見込みだ。
※ケースは大瓶換算
今回は、サントリー株式会社ビールカンパニー マーケティング本部 イノベーション部 竹内彩恵子さんと、同社ビールカンパニー 商品開発研究本部 水口伊玖磨さんに商品誕生の裏側についてお話を伺った。
左)ビールカンパニー マーケティング本部 イノベーション部 竹内彩恵子さん
右)ビールカンパニー 商品開発研究本部 水口伊玖磨さん
*本稿はインタビューから一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
ビール市場に新たな商品を提案!市場活性化への挑戦
飲み始めから飲み終わりまでの美味しさを追求した、サントリー生ビール。竹内さんは同商品の特徴について次のように話す。
「お客様の飲用実態を調査したところ、以前より『時間をかけてビールを飲む』といった変化がみられたんです。一口目の美味しさに加え、家族や友人と会話を楽しみながら、時間をかけてゆっくり食事を楽しむことがビールに求められていることが分かりました。そうしたライフスタイルの変化に合わせ、飲み始めから飲み終わりまでずっと美味しい生ビールを目指したのが、今回開発したサントリー生ビールです」(竹内さん)。
ビール以外のお酒の選択肢が増えたことにより、ビール市場は1994年をピークに縮小している。今回の開発の背景には、市場全体を盛り上げたいという想いがあったという。
「今回、スタンダードビールと言われる大きなカテゴリーの新商品を出し、ビール市場の再活性化に挑戦しました。スタンダードビールは、価格帯でいうとプレミアムでもなく、手頃な新ジャンルでもなく、古くからあるもっとも定番のビールカテゴリーです」(竹内さん)。
これからの時代に合ったビールをつくるために入念な調査を実施
今回の開発では、過去5年間におけるビールユーザー1万人の飲用記録やインタビュー履歴などを活用し、顧客のニーズを徹底的に探ることからスタート。時代や生活が大きく変化する中、顧客のさまざまな飲み方を想定するためには、より多くの人の声を聞く必要があったと、竹内さんは次のように振り返る。
「お客様がビールに求める価値や、ビールの飲み方の変化を把握するため、これまで調査できていなかった、現役の大学生や全国各地のビール好きの方などへ直接ヒアリングを行いました。その中で、正直な感想やニーズを拾えたと感じています。また、町工場にお勤めの方の生活の中では、ビールの存在が大きいということが分かっていました。そうした方々に気に入ってもらえるビールを作らなければ、長く生き残る商品開発ができないと思い、大阪市東成区の町工場の方にも入念なヒアリングを実施しました」(竹内さん)。
調査の結果、今の時代に生きる人々のビールに対する価値観がわかってきたと、竹内さんは次のように続ける。
「ビールは、『1日のご褒美』といった打ち出し方をされることも多くありますが、町工場のみなさんのお話を聞いていると、『ご褒美で飲めるような日ばかりじゃない』との声をいただきました。それよりも、日常を支えるという意味で、何事もなく無事に過ごせた1日の終わりに、そっと寄り添えるような存在になれたらと考えたんです」(竹内さん)。
5年もの歳月を費やした開発
開発には約5年の開発期間を要し、試験醸造は300回以上も繰り返した。開発時の苦労について、水口さんは次のように振り返る。
「今回目指した、日常的に飲む定番ビールとして、一口目のグッとくる飲みごたえと、そこから飲み終わりまで心地よく続く爽快感を両立することは、想像以上に難しいものでした。原料、醸造条件などの試行錯誤を何度も繰り返し、試醸を重ねて目指した品質にようやくたどり着いたんです」(水口さん)。
サントリー生ビールの味わいを実現するため、今回採用された製法が「トリプルデコクション製法」。仕込釜で麦汁を煮沸する「デコクション」という工程を3回繰り返すものだ。デコクションの回数は、回数が多ければ多いほど美味しくなるというわけではない。狙いの味に合わせて一番適切な回数を選択したという。
「今回、ビールの原料には、ダイヤモンド麦芽、コーングリッツ、アロマホップ、天然水と、こだわりの素材を使用しています。グッとくる飲みごたえと、飲みやすさを実現するためには、ダイヤモンド麦芽とコーングリッツから、軽快な香ばしさを引き出す必要があり、トリプルデコクション製法を採用しました」(水口さん)。
「新しいビール」と認識してもらうためのパッケージ作り
2000年代以降の新商品といえば、発泡酒の新商品がほとんど。そうした中、いかに顧客に「ビールの新商品だ」と認識してもらうか、そのパッケージデザインを決める工程でも苦労があったという。
「スタンダードビールのパッケージには、企業の自信を感じさせるような堂々とした雰囲気、味わいについてはあまり詳しく書かれていないという、作法のようなものがあると分かりました。ただ、従来の作法を意識しすぎても、新商品と認識してもらえません。一方で、突飛なデザインにすると新ジャンルだと思われてしまう。一線を画す見せ方に苦戦しましたね」(竹内さん)。
結果として、一番訴求したい商品名を、左右対称に堂々と配置するデザインを採用。コーポレートのロゴは、文字ではなく、絵として大胆に上下に配置する斬新かつ、店頭映えする見せ方に挑戦した。また、直感的に「ビール」だと分かってもらうため、ビール樽をモチーフとしたパッケージになっている。
「お客様の視認性を重視するため、脳科学を基にしたデザイン評価プログラムを活用し、伝えたい部分がお客様の目にしっかり入るかというような検証も行いました」(竹内さん)。
味わいではなく「コンセプト」を訴求したテレビCM
新商品のテレビCMは、従来の味わいをメインで訴求する方法とは別のアプローチで制作した。
「サントリー生ビールを飲むことによって、飲んだ人の暮らしがどのように豊かになるかを伝えるCMを作りました。『全ての人の1日の終わりをねぎらい、生きる力を後押しするこれからの時代の生ビール』という考え方をしっかりと体現したかったんです。ビールってやっぱりいいな、1日の終わりに飲んだら元気になれそうだなと、明るく前向きな気持ちになっていただきたいですね」(竹内さん)。
若い世代に親しまれるビールづくりに成功
こうして開発された「サントリー生ビール」は、2023年の4月に販売を開始。実際にユーザーからは、狙い通りの反響を得ているという。
「ビールの味わいやパッケージのデザインに関して、嬉しい声をたくさんいただきます。『1日頑張った後に思わず飲みたくなる』といったメッセージへの共感の声も多く、手応えを感じています」(竹内さん)。
サントリー生ビール販売後、ビールカテゴリーの購入率が、販売前と比べて約1.2倍伸長。特に、これまでビールをあまり飲まなかった新規・ライト層の購入率は1.4倍増と、新規ユーザーへの間口の拡大が実現される結果となった。
「ビールを飲むボリューム層は50代以上です。40代以下をターゲットにした商品が比較的少ないという声を受け、今回は若い方向けに、ビールの作り方やコミュニケーションの取り方を工夫しました。結果として40代以下の若い方の購入率が高かったという点も狙い通りだと感じています」(竹内さん)。
商品開発の中で大切にしていること
お二人に、商品開発の際に大切にしていることを伺った。商品開発研究本部の水口さんは、サントリーのものづくり行動指針を大切にしているという。
「行動指針の中で特に大切にしていることは、『お客様主義』という考え方です。サントリー生ビールにおいても、多くのお客様の声を参考にさせていただきながら、飲んでいただきたいビールを我々なりに一生懸命描いた上で、さらに想像を超えるような美味しさをつくることを心がけてきました」(水口さん)。
一方、マーケティング本部の竹内さんは次のように語る。
「迷った時は、ある種ハイリスクハイリターンの方を積極的に選んでいくようにしています。また、理屈と直感の両方を重視して、行ったり来たりしながら、アイデアを考えるようにしていますね」(竹内さん)。
さらに美味しいビールを、より多くの方に届けるために
今後の展望について、水口さんは次のように語る。
「ビールづくりにおいて、一つの商品にゴールはないと考えています。自然からの恵みである農作物の麦芽やホップ、生き物である酵母から、さらに魅力的な美味しさを引き出すために、日々試行錯誤が必要だと思っています」(水口さん)。
竹内さんは、この先10年、20年と長く生き残るようなブランドに育てていきたいと、次のように意気込みを語る。
「定番のビールとして皆様の日常に根付いていくことを目標にすると、より多くのお客様に共感いただくことが必要です。今回は、比較的若い世代をターゲットにしましたが、既にビールを楽しんでいただいている50~60代、それより上の世代の方からも幅広く、共感を得られるようなマーケティング施策を検討し、新しいお客様に手に取っていただきたいなと思っています」(竹内さん)。
取材・文/久我裕紀
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